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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第3話 第3章『アハトの実験施設』 ③

今日メンテだったんですね~( ノД`)シクシク…

更新遅くなってしまってすいません。


 巨体に似合わないしょぼくれた顔で、アインは立ち尽くしていた。

 耳もしっぽもぺたんと下を向き、助けを求めるようにちらっと視線を送ってみるが、彼女は何の反応も示してくれない。

 アインにとっては、戦い以外での初めてのピンチだった。

 下手な戦闘よりも、よほど難しい課題を突き付けられている気がする。


 まずは意識するところから始めてみたほうがいいだろうか。

 とりあえず、隣に立つ彼女をじっと見つめる。

 彼女はずっと街の方に視線を送っていてこちらをちらりとも見てくれないので、一方的にアインが見つめている形だ。


 ツインテールに結われたルビー色の長い髪と強気な瞳、特別に小さいというわけではないがアインから見れば小柄な身体。

 女性だということを十分に認識できる姿だ。

 よし、これで第一段階は大丈夫だろう。

 大丈夫なはずだ・・・。


『そ、それから・・・どうすればいいんだろう?』


 心の中でこっそりとつぶやく。

 さて、困った・・・ここから先が思いつかない。

 持ち上がりかけていた耳としっぽが、再びしゅんっと下を向いてしまった。

 アインはこれまでの人生で一度か二度あったかないかくらいに悩んでいた。

 課題はいたって単純だが、単純だからこそ難しい。


『女性を女性らしく扱うのって、一体何をすればいいんだろう?』


 頭の中を何度目かの同じ質問が駆け巡るが、堂々巡りのまま何も思いつかない。

 アハトの研究施設を出てすぐの丘にアインは立っており、その隣にはドライがいた。

 紋章術を使って賢者の石を使えるようになりたいと申し出たすぐ後に、話があると言われてついてきたのだが彼女は何も言わずにただ街を眺めている。


 何か伝えたいことがあるのだとは思うのだが、なかなか向こうから切り出そうとしてくれない。

 アインが思い当たることがあるとすれば、腹パンをして怒られた件についてくらいだ。

 ドライをうまくエスコートすることによって汚名返上したいところなのだが、正直言ってなにも思いつかない。


 人生18年、ひたすら犯罪組織の実験体として生きてきたアインに女性の扱いなどわかろうはずもなかった。

 身近な女性としてソフィやフィーアとの付き合いは長いが、それはあくまでも家族としての付き合いだ。

 2人はこれといって女性的な扱いを求めてきたことは無かったし、これまた失礼な話なのだがアインも特に意識したことは無かった。

 相手にとって一番いいと思えることをすればたいていは喜んでもらえたし、間違ったとしても2人は笑って許してくれた。

 さすがに腹パンで気絶させたことは無いが、ドライに関しては非常時だったので仕方がないと思ったのだ。


 ・・・いや、言い訳をしている場合ではない。


 だらだらと変な汗が出てきた。

 沈黙がこんなにつらいと感じるのは初めてだ。

 そんな時だった。


「ねえ、犬。あんた本当に紋章術使って賢者の石を使えるようになりたいわけ?」


 それまで黙りこくっていたドライが、唐突に口を開いたのは。


「え?」


 いきなり思ってもみなかった質問をされてアインはきょとん、としてしまう。


「・・・だから、そこまでして強くなる意味があるの?って聞いてるの。」


「それは・・・僕は家族を守りたいから。」


「別に今だって強いじゃない。

 この前の2人が特別にやばかっただけで、あんなに強いやつが他にいるとは限らないし。」


「そうかな?僕はそうは思えない。

 この前は戦わずに済ませてしまったけれど、追手がすぐにきたって言っただろう?

 ノインって名乗っていた。実力はわからなかったけれど彼が弱いとはとても思えないんだよね。」


 水の都ファニアでの戦いの後、すぐに追いついてきたノイン。

 自分たちは細心の注意を払って逃げたはずだ。

 なのにあの短時間で場所を突き止められてしまった。

 それだけでも十分に驚いたのだが、名前からすると彼はナンバーズのNO.9、つまりは9番目の実験体ということになる。

 ゼクス、フェンフよりも後期に作られた彼が、それ以上に弱いことなどありえまい。

 前回はたまたま戦わずにかわすことに成功したが、次が同じようにうまくいくとは限らないのだ


「ああ・・・おじちゃんが来たのね。」


 あの時、気絶していた彼女は直接面識はなかったはずだが、同じ側の派閥にいた時に会ったことがあるのだろう。

 名前を聞いたことで、誰のことか思い当たったらしい。


「え・・・おじちゃんっていうほど年はいってないように見えたけど。」


 自分たちよりは年上に見えたが、いってせいぜいアハトくらいではないだろうか?

 といっても、アインはアハトが何歳なのか知らないので、なんとなく感覚で言っているだけなのだが。


「あのねえ、私たちはホムンクルスなのよ?年齢なんて見た目で分かるはずないじゃない。」


「それはそうだけど・・・」


 実験体とされたホムンクルスの年齢と見た目が、比例するとは限らない。

 その個体にとって最も生命力にあふれ、活動のしやすい姿で成長が止まるように作り替えられているからだ。

 今のところアインも皆もまだ成長の余地が残っているらしく、年齢なりに年を重ねてきたのだがここから先はどうなるかまだ分からない。

 人によってはもっと大人になるだろうし、成長がこのまま止まってしまう可能性もある。


 それだけを聞くと、自身をホムンクルスとして作り替えようとする錬金術師がごまんといそうなものだ。

 何しろ自身の一番いい状態をいつまでも保てるということなのだから。

 実際のところ、一昔前まではホムンクルスの研究はかなり主流だった。

 多くの者がそれによって短期間で命を落としたことにより、研究が下火になるまでは。


 そう・・・ある意味不老ともいえるその技術は一見素晴らしいものだが、いいことばかりではなかったのだ。

 それらの犠牲者たちによって現状分かっていることは、一般的なホムンクルスは短命であるということ。

 寿命が極端に短くなってしまったり、繁殖能力が失われたりと見た目は人間でも生物としての機能の大半が損なわれる。

 そして早ければ数年で免疫力が極端に低下し、病によってあるいは何の前触れもなく死んでしまうらしい。


 もちろんそれは一般的(・・・)なホムンクルスの話なのでナンバーズのような特殊な実験体には適用されないのだが。

 それを証拠にアインはこれまでの間、一度たりとも風邪をひいたことがない。

 怪我をしても人よりもずっと早い速度で治ったし、病気という病気をしたこともなかった。

 身体強化によって人間以上の性能を持つホムンクルスを作ることを目的として実験を繰り返されたアインは、特別そういった部分が優れているのかもしれない。


 他にも、賢者の石との適合がうまくいっていないツヴァイは身体が弱いところもあるが、やはり怪我をした時の傷の治りは普通の人間よりもずっと早いと言っていたし、他の皆も風邪を引くことくらいはあるが大病にかかったことはない。

 アインほどではないとはいえ、普通の人間よりもずっと優れているといえよう。

 といっても、毒物や危険な物質に対しての耐性は人並みなのでそれらについては気を付けなければならないのだが。

 

 まあ、それはともかく。


「ドライにはあのノインがおじちゃんっぽく見えるってことかい?」


 少なくともアインの感覚からすると20代後半、たとえいっていても30代半ば程度にしか見えないノインは、おじちゃんと言うほどの老け顔ではなかったのだが。


「だって、おじちゃんはおじちゃんでしょう?」


「そ、そうなのか・・・ということは10年後は僕も?」


 あと5年、10年もすれば自分もおじちゃんと呼ばれるようになるのかとなんとなくがっかりしていると、なぜか隣でドライも元気がなさそうに肩を落としていた。


「えっと、どうしたんだい?」


「別に・・・」


 ぷいっとそっぽを向かれてしまった。

 どうやら自分は、彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。


「その、ごめん・・・」


 何と言っていいのかが分からず、とりあえず口から出たのはそんな言葉だった。


「・・・なんで謝るのよ?」


「僕のせいでドライをがっかりさせてしまったみたいだから。」


 それを聞いてほんの少し驚いたように目を見開いてから、ドライは苦笑した。


「しょうがないわね。ほんと、あんたってバカなんだから。」


 言葉は乱暴だったが、口調にはどこか優しさを感じる。

 そんな彼女に、アインはいたって真剣な表情でこう言った。


「あれだよほら、ドライはかわいいから大丈夫だよ。」


「か、かわいいって何言ってるのよ!?そもそも、なんでそんな話になってるわけ?」


「だって、10年後の自分を想像してがっかりしちゃったんだろう?

 僕が隣でがっかりしていたせいだよね?ごめん。」


「・・・は?」


 恥じらうように頬を赤らめていた彼女の額に、怒りマークが見えるのは気のせいだろうか?


「えっと・・・?」


「なんで私が10年後の自分を想像してがっかりしなきゃいけないのよ?」


 にっこりと笑っているのだが、目が笑っていない。

 何が悪かったのだろう、彼女は今、明らかに機嫌が悪いようだ。


「だってほら、10年後はおばさんになっちゃうからって・・・」


「そんなこと一言も言ってないでしょうが!?

 10年経っても私はぴちぴちの17歳よ!このバカ犬ーっ!!」


「おうふ!」


 思いっきり叫ばれて、耳がキーンとする。


『フォローしたつもりだったのに、なぜ彼女は怒ってしまったのだろう?やはり女性の扱いは難しい。』


 自分のデリカシーのなさに気付かないアインは、項垂れながらそんなことを思ったのだった。


アインさん・・・デリカシーがないよ(´・ω・`)

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