ホムンクルスの箱庭 第3話 第3章『アハトの実験施設』 ②
レビューを書いてくださった方、ありがとうございます(*´∀`)♪
活動報告でも書きましたが、こちらで改めてお礼を申し上げます。
ブックマークをしてくださった方も、読んでくださった皆様も、感謝しています。
「とりあえずここで休息を取りましょうか?」
「そうじゃの、ここまで来るのも一苦労じゃったしのう。
お主らについてくると決めたときから平穏無事な人生が送れるとは思っておらんかったが、まさか日常のなかであんなスリリングな体験をするとは思わんかったぞい。」
ソフィの提案に頷いたグレイの視線は、迷うことなくアハトに向けられていた。
ここに来るまでの間、アハトは2回もグレネードを落としているのだからそう言いたくなるのも当然だろう。
「ていうかアハト、あんたのグレネード、ホルダーが緩すぎなんじゃないの?」
「俺のグレネードは自由を愛しているからな。
グレネードたちがどこに行こうが俺に止める権利は・・・」
「権利じゃなくて責任があるでしょ!!」
どや顔で座っているアハトの後頭部をはたいてから、ソフィはため息とともに椅子に座る。
「この施設はどんな研究に使われていたんだい?」
アインが訪ねると、アハトは部屋を見渡してから軽く肩をすくめた。
「まあ、見ての通り物質や道具なんかを作る研究をしていた。
昔は賢者の石を創ろうとしたこともあったが。」
「なるほどのう・・・お主も挑戦した一人であったか。」
「錬金術師が最終的にたどりつくのは、そういった闇の方面だからな。」
「あの時、あたかも経験したかのように言っていたのは、こういうことだったんじゃな。」
あの日の夜のアハトとの会話を思い返し、グレイは納得がいったというように頷く。
「まあ、これに関してはわしはお主を否定する口は持っていないからのう。」
「・・・この文様で賢者の石が作れるの?」
ツヴァイの膝から降りて、興味津々に文様と装置を眺めていたフィーアがアハトに尋ねた。
「文様じゃなくてこれは紋章っていうんだ。」
「紋章?」
聞き慣れない言葉に誰もが不思議そうにアハトに視線を送る。
「ふむ・・・おまえら、錬金術っていうのがいくつかの分類に分けられるのはわかっているな?」
ほんの少し考えるような素振りをしてから、アハトはそう話を振ってきた。
「ええ、金属やホムンクルスなんかを生成することを主とする錬成術と、薬や手術に関する医学の知識を主とする錬丹術よね?」
「ああ、僕たちナンバーズは錬成術で身体を再錬成されたホムンクルスだから、そっちについては大体想像がつくね。
あとはアルスマグナにしかないけれど、機械技術もそれに含まれるだろう。
錬丹術についてはそこまで詳しくはないけれど、一般的に言う医学が該当するはずだ。」
「そうだな、機械はともかく一般的には錬金術はその2つが主流となっている。」
ソフィとツヴァイの回答にアハトは満足げに頷いた後、文様の上に歩いていく。
「本来錬金術はその2つの他にもう一つ・・・紋章術と呼ばれるものがあったんだ。」
「紋章術・・・」
何か思うところがあったのか、フィーアがハッとしたように床の文様に触れる。
「フィーア、得体が知れないんだからあんまり近づくんじゃないわよ!」
「あう!」
それを見たドライは慌てたように、フィーアの手を取って乱暴に立ち上がらせた。
「そんなに乱暴にすることはないだろうドライ?」
「うるさいわね!私の勝手でしょ!?」
ツヴァイがフィーアを抱き寄せて訝しげに見つめると、ドライは苛立ちを隠せないように言ってからプイッとそっぽを向く。
そんな3人のことを気に止めないままアハトは説明を続けた。
「紋章術はその紋章の形によって、様々な奇跡を起こすことが出来ると言われている。」
「奇跡っていうと賢者の石を創るみたいな?」
「ああ、紋章術の起こす奇跡やその代償は幅広い。
やり方によっては、それこそ賢者の石のように無から有を作り出すような代物を創るといった、むちゃくちゃなこともできると言われているな。」
「そんなすごいものがあるのに、みんなどうして使わないわけ?」
「それはこいつが禁術とされているからさ。なあ、爺さん。」
あっさりとした口調で話を振られて、グレイは眉間のしわを一層深くする。
「・・・そうじゃのう。
そやつの言う通り、紋章術は奇跡を起こす術であると同時に、破滅をもたらす禁術とされておるんじゃ。
その扱いは難しく、もし致命的な失敗をするようなことがあれば、世界そのものが滅びてしまうとも言われておる。」
「世界が滅びるってそんな大げさな・・・」
あまりにまじめな口調で語られたのでソフィが思わず苦笑すると、グレイの言葉を補足するようにアハトが言葉を続けた。
「いや、実際のところ紋章術の効果で、かつて世界の人口の3分の1が死滅したという文献が、今でもわずかにだが残っているんだ。」
「なるほど、それゆえの禁術ってことなんだね。」
「何嬉しそうにしてるのよ?危ないって言ってるのに。」
なぜか明るい口調のアインを、ドライは呆れたように見ている。
アインにも紋章術が危険なものだということは理解できる。
そして、同時に奇跡を起こす可能性を秘めていることも。
「でも、文献が残ってるなら、紋章術を使ってみようっていう錬金術師が結構いるんじゃないの?」
いくら禁術と言われていても、いや、むしろ禁術だからこそ使おうとする者はいくらでもいるはずだ。
しかし・・・
「いいや。」
ソフィの言葉をアハトはすぐに否定する。
「それらの文献のほとんどはアルスマグナが抑えていて、一般の錬金術師の目に触れることはほとんどない。
それどころか、使ったことが分かればあっという間に始末されておしまいさ。
そういう意味では、じいさんはかなりの幸運だったといえるな。」
アハトが視線を送ると、グレイはなんとも言えない表情を浮かべながら押し黙ってしまった。
「その足元の紋章術を使って、アハトは賢者の石を作ろうとしたのかい?」
「いや、これは完全ってわけじゃない。
そもそも紋章術は発動させるだけでも困難を極めるものなんだ。
その証拠に俺が作れたのはこの程度のものだからな。」
軽く首を横に振ると、アハトは懐から瓶のような物を取り出した。
中に入っている水色にも銀色にも見えるその液体が、通常の物質でないことは分かる。
「これ・・・」
「アクアウィターエの劣化版ってところだな。」
何の感動もなく告げられた言葉に、グレイが目を剥いた。
「アクアウィターエじゃと・・・!?お主、本気で言っておるのか!」
「なんだ、じいさんだったら本気になればこれくらい作れるだろう?」
「そんなわけがないじゃろうが!?アクアウィターエといえば賢者の石にひけをとらない代物じゃぞ!」
アクアウィターエとは生命の水を意味し、死者を蘇らせることのできる物として錬金術師の中では通っている。
しかし、賢者の石ですら幻のものとして扱われているために、アクアウィターエ自体も存在するかどうかが疑わしいとされていた。
「生命の水か・・・僕も初めて見たな。」
ツヴァイも興味を引かれたのか、物珍しそうにそれを眺めた。
「え~、なんかただの銀色の液体にしか見えないんだけど。」
ドライが疑うような視線を送るのとは対照的に、フィーアは傍によって瓶をじっと見つめる。
「死んだ人を生き返らせられるの・・・?」
「そこまでの代物じゃない。予想ではせいぜい瀕死の人間を何とかできる程度だな。」
「それでもすご~い!もらってもいい?」
「ああ、好きにしろ。装置や紋章陣に関しても、あのポッドの中身以外は好きに使っていい。」
気軽な感じでフィーアに瓶を手渡すと、アハトはそれだけ釘を指す。
すると、今まで思案顔だったアインが、何かいいことでも思いついたかのように明るい表情で言った。
「それなら、よかったら僕が賢者の石をうまく使うための手伝いをしてもらえないかな?」
先ほどから考えていたのだか、これだけの設備が整っていればそういったことも可能なのではないか。
何しろここには、賢者の石の精製を試せるほどの機器や紋章があるのだから。
「なるほどのう、これだけの機器がそろってるならそれも可能かも知れん。」
「よろしくお願いします、おじいさん!」
もし、賢者の石の力をこの前のような偶然ではなく、自分の意思で発動出来るようになれば自分はもっと皆を守ることができる。
そう思うと、アインの胸は熱くなった。




