だって、好き
「…大体、私の何が好きなのかまったく理解できないんですけど」
チラリと久瀬先輩を流し見たらキョトンとしてる。
そのチワワみたいな顔やめれ。
「何って、何?」
「や、だから私のどこが良いのかって…」
「全部!」
「………………」
「俺ね、入学式の日に円ちゃん見たんだ。円ちゃんは全然気付いてなかったけど、普通に校庭を歩いてたの」
菓子パンの袋を開けながら出逢い云々を話し始める、久瀬先輩。
私はタコさんウィンナーを箸でぶっ刺しつつそれを聞いていた。
ああ、図書室行きたい。
「もう何て言うか、円ちゃん見た瞬間ビビッて旋毛に電気が落ちて、あれ多分あれだよ、天恵ってやつ!」
「さいですか」
「それからすぐ顔が熱くなるし心臓ドクドクし出すし、円ちゃんが居なくなった後も頭の中にずっと円ちゃんの姿が残っててね!」
「それはそれは。脳神経外科へは行きましたか?」
「え?行ってないけど泉里には相談したよ?」
「脳神経外科をお薦めします」
ゆかりの振られたおにぎりを箸で切って、パクリと食べる。
やっぱゆかりが一番だわ。
わかめも美味しいけど。
「うん、まぁそれでね、俺恋しちゃった~って泉里に相談したらまず知り合えって言われたんだ」
ちょっ、脳神経外科流された。
何この人意外と自己中?
やだ私自己中大の苦手。
だって私が自己中だもん。
「でも恥ずかしくて中々話し掛けれなくてさ、とりあえず名前とクラスだけは知れたから、暫くは休憩時間とかに円ちゃんを見に行ってた」
「それってストーカー…」
「……最初は見てるだけでいいや、幸せって思ってたんだけど」
「?」
不意に先輩が俯いてまだ綺麗なままの菓子パンを眺める。
染めてる癖にサラサラの、金茶色をした鮮やかな髪が肩を撫でて滑った。
覗いた耳には幾つものピアス。
痛そう。
なんて思ってたら、ポツリ、久瀬先輩が呟く。
「だんだんそれだけじゃ我慢できなくなった。見てるだけじゃ足りないって……もっと、もっと近付きたいって思うようになった」
「……………?」
「だってよく考えたら、見てるだけじゃ何時か他の男に円ちゃんを盗られちゃいそうだし。そうなったら俺耐えらんないもん。俺を見てほしいし、声も聞きたい、触りたいし触られたい」
「………せ、先輩?」
何か喋り方が違う。
と言うより、雰囲気が違う。
さっきまでのオドオドした乙女さはなくなって、いやにハキハキ喋ってる。
あれ、これ誰?どなた?
ゆっくりと上げられる彼の顔。
人形みたいに綺麗でカッコよくて、切れ長の瞳が猫のように細められた。
「だからね……………欲しいって、思ったの」
円ちゃんを。
そう言った先輩の体が傾いてくる。
伸ばされた指先が私の髪を絡め、撫でるようにクルクルと弄ぶ。
気付けば至近距離に久瀬先輩の整いすぎていっそ不気味な顔があって。
思考 完全停止。