第3話
その後は、クラスのみんなが順番に自己紹介をしていく流れになった。
こういうイベントは、ゲームならいつもスキップしていた。
何度聞いたか分からないし、わざわざ毎回見るようなものでもない。
ただ、今の俺はゲームの中にいる一人の登場人物だ。
当然ながら、スキップボタンなんてものは存在しない。
「ポート・トールです。よろしくお願いします」
簡単に自己紹介を終えたあと、俺は周囲の反応をちらりと確認した。
みんなの反応は薄い。
まるで、どうでもいい情報を一つ聞いただけみたいな顔をしている。
まあ、そりゃそうだよな。
なんせ俺はただのモブNPCなんだから!
そんなことを考えていると、ふと教室の一角が目に入った。
花咲・ルルアン。
このキャラクターについてなら、俺もよく知っている。
彼女はこの先、ずっとヴィノのそばにいるようになる。
ただし、本来の設定ではレインスの幼馴染だった。
それが転生後のヴィノが圧倒的な力を見せるようになってから、少しずつ彼のことを意識するようになっていく。
そして今も、ルルアンは隣にいるヴィノのことを、時折こっそりと見つめていた。
午前中は自己紹介と簡単な魔法の座学だけで終わった。
「ゲーム通りなら、そろそろ最初のイベントが始まるはずだよな」
そんな独り言を呟きながら、俺は食堂へ向かった。
「おい! 一年のくせに、先輩を見たら席くらい譲れないのか?」
食堂に入って間もなく、中が騒がしくなっていることに気づいた。
二年生の先輩たちが、上級生という立場を利用して一年生をいじめている。
しかも、よりによって相手はルルアンとドロシーという二人のヒロイン、それに何人かの女子生徒だった。
「お前ら一年は、隅っこで飯でも食ってろ!」
「何するの!」
そのうちの一人が、ルルアンの食事を床へ投げ捨てた。
他の上級生たちも、別の女子生徒を囲んで絡んでいる。
「お前たち!」
来た……。
「食べ物をそんなふうに粗末にするなんて……天罰を受ける覚悟はできてるんだろうな?」
原作主人公、タラク・レインス。
いかにも主人公らしく、こういう場面では必ずと言っていいほど助けに入る。
「はっ! 誰かと思えば、今年の一年に魔法すら使えない奴が入ったって聞いたが、お前のことか!」
「!?」
そう。
序盤のレインスは、剣の腕こそ優れているものの、魔法だけはまったく使えない。
本人はまだ知らないが、彼はいわゆる後半から本領を発揮するタイプのキャラクターだ。
いずれ魔法にも目覚める。
しかも、かなり希少な魔法に。
「それでも、俺はこの学園に入った! だから――自分の力で道を切り開いて、お前たちに勝ってみせる!」
こんな台詞を真顔で言えるあたり、さすが原作主人公だ。
とはいえ、設定上この程度の相手なら、そもそもレインスに勝てない。
その理由は――。
「この野郎!」
上級生たちが一斉に襲いかかる。
だがレインスは軽く攻撃をかわすと、そのまま一人の顔面に拳を叩き込んだ。
仲間が一発で倒されたのを見て、残った二人は思わず数歩後ずさる。
「それ以上近づいたら、この女を傷つけるぞ!」
「ルルアン!」
その瞬間、予想外の事態が起きた。
さっき後退したうちの一人が、突然ルルアンを捕まえ、彼女を盾にしてレインスを脅し始めたのだ。
そしてここからは、もう一人の主人公の出番。
一本の影が、ゆっくりとルルアンの足元へ伸びていく。
次の瞬間。
影から生まれた触手が凄まじい速さでナイフを弾き飛ばし、そのまま男の腕へ絡みついた。
その隙にルルアンは解放される。
だが、上級生たちは今の攻撃をレインスの仕業だと思ったらしい。
「ルルアン! 大丈夫か!」
「う、うん……大丈夫……」
かなり驚いたようで、ルルアンの顔にはまだ動揺が残っている。
けれど、傍から見ている俺には分かった。
今のルルアンの視線は――。
食堂の端で何事もなかったかのように食事を続けているヴィノへ、しっかりと向けられていた。
少なくとも今のところ――。
この世界の物語は、まだゲームの筋書きから外れていない。
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