雪解け
「エリザベス嬢おはよう。手は大丈夫ですか?」
「おはようございます。大丈夫ですが。シリル様には婚約者様がおられるので結構ですとお話しましたよね?」
「助けなくていいとは言われたが、話かけたらダメだとは言われていない。」
「サリー様が婚約者なのですよね?そちらへどうぞ。私と話す時間があるなら婚約者と交流してください。」
少し強く言い過ぎたかしら…シリル様を見ると何故か唖然としている。本当憎たらしいくらいに綺麗なお顔。また会いに来ると告げどこかに向かっていった。いや、会いに来なくていい…教室に向かうと皆が騒然としていて聞くとシリル様がサリー様を連れて行ったと。あら、婚約者との交流を早速受け入れてくれたのねと呑気に考えていた。
「エリザベス様ありがとうございます!」
昼前に帰ってきたサリー様が喜んでいる。シリル様と和解出来たのかしら。婚約者同士が仲良くしてくれるのが1番嬉しいわ。
「なんと!婚約解消出来ました!お互いの親も交えて話をしてきました。本当エリザベス様のおかげです。ありがとうございます。」
「は?なんで?交流して和解したのではないの…?」
「違いますよ。交流する気のない婚約者を縛り付けたくないので婚約解消して欲しいと頭を下げられました。何でも婚約者が居ると話しかけられない方がいると。エリザベス様ですよね?」
いやいやいや…そんな訳無いでしょ。話しかけるなって事で婚約解消して来いって話じゃないのよ。頭が痛い。
「エリザベス様は縋られて恋焦がれられたいってシリル様に言っときましたから!あんな美しい方に縋られるなんて羨ましいですわ。」
「それならサリー様が!」
嫌ですときっぱり断られる。確かにゲームではシリル様の婚約者は影が薄かったけど、こういう事?!取られようがどうでも良かったと。えぇぇぇそんな馬鹿な。攻略対象で無ければまだ良かったのに…あの1派とは関わりたくないし、もし来たら断ろう。
今日放課後王宮に向かうように昨夜お父様に言われ、やっと解消されるんだと思うと嬉しくて仕方無い。そう思っていたのに何故私はシリル様と一緒に馬車に乗っているのだろうか。
「エリザベス嬢。」
「はい!」
「私に婚約者は居ない。」
「はい…サリー様に伺いました。」
「話しかけていいのだよね?」
マジかー。本当にそのためなの?アリス様にだけ心を開く公爵令息様はどうしたのよ!
「あの…アリス様は良く思われないのでは?」
「関係ありません。私は最近彼らとは別行動をしてますので。今日婚約解消の手続きと聞いています。クリス様と会わせるのは心配なので、こうしてご一緒させて頂いております。」
「あのー…そんなに気にかけて頂かなくても大丈夫ですよ?」
シリル様は何故か驚いた顔をしていて、下を向いて思案している。
「…私はお礼を言って頂いた日に貴方に恋に落ちたのだと思います。一瞬で心奪われ目が離せなくなりました。そしてクリス様に対して気丈に振る舞う貴方を守りたいと思ってしまった。エリザベス嬢、私は貴方の特別になりたい。」
嘘でしょ?アリス様でなく私に心を開いてしまっているわ。どうしましょう。巻き込まれたくないのよ。
「えっと私はまだ婚約を解消できておりません。まだそういった事を考えるのは…」
「では解消できたら私と1度出かけては頂けませんか?そして私との事を考えて貰いたい。」
「いや…でも…」
お願いしますと頭を下げられてしまい、頑なに聞いてもらえない。根負けして1度だけですよと言うと、嬉しそうに微笑まれる。美人の笑顔が眩しすぎる。攻略対象なだけあって見目麗しいのよね…見れば見るほど彫刻のように整った顔をしているわ。肌も綺麗。
「エリザベス嬢あまり見られると恥ずかしいです。」
「あ、ごめんなさい。綺麗なお顔だと思って見てしまいましたわ。」
シリル様が顔を赤くし手で覆い隠している。え?可愛すぎない?キュンとしてしまった。あぁ攻略対象でなければな…待って攻略対象じゃなかったら私はシリル様が良いってこと?!んー…あとで考えよう。シリル様だって本気ではないかも知れないし。もうすぐ着きますねと目が合う。ニコッと微笑むと真っ赤になるシリル様がいて、こちらが恥ずかしくなってしまう。シリル様にエスコートされ向かうとお父様が居てニヤニヤしている。
「縋られたのか?」
「違いますよ!」
「シリル·ベックフォードと申します。エリザベス嬢には想いを伝えさせて頂いております。解消が終わりましたら1度連れ出す権利を与えて頂きましたので、公爵にも許可を頂きにご挨拶に伺おうと思っておりました。」
「ほほぉ。シリル殿見る目があるね!うちのベスは良い子だよ。」
「今日は解消する事が全てなので、改めて後日許可を貰いに伺わせていただきます。」
「待っているよ!縋られてるじゃないか。ベス良かったな!直接言ってくる所がいいね。」
笑いながら私の肩を叩くお父様を憎たらしく見てしまう。断りたいのにやめてよね。
「全く何故わざわざ私が貴様のために来ないとダメなのだ!早く済ませるぞ!さっさと来い。」
「「は?」」
お父様とシリル様が息ぴったりに苛ついている。危ない。お父様行ってさっさと終わらせましょうと手を取る。向かおうとするとシリル様も着いてくる。
「シリル様はお待ち頂いて結構ですよ?先に帰っていただいても…」
「クリス様が手を出すかも知れない場に置いてはいけない。私に守らせて欲しい。」
「手を出す?殿下が?」
あ!お父様に何も言っていないのにバレてしまう。シリル様が昨日の事を説明してしまい、お父様の怒りは限界に達しそうになっている。無事終わりますように。
「何故シリルがいるのだ。アリスが最近シリルが居ないと泣いていたぞ。可哀想に。」
「気にしないでください。アリス嬢にも私はもう居ないものと思う様にお伝えください。」
「は!この女に誑かされたのか?」
「「は?絞めるか」」
だから息ぴったりはやめて!!落ち着いてと2人を抑え冷静になってもらう。
「クリスやめろ!お前のせいで来てもらっているのに失礼だろ!破棄でなく解消にしてもらっているのはこちらなんだぞ!!」
「父上何故こんな奴らに…」
「黙れ!全く反省もせず傲慢な態度を取り合って。公爵すまない。エリザベス嬢も長きに渡り王太子妃教育を受けて貰ったのに、こんな事になり申し訳ない。」
早速取り掛かろうと事務官を呼び書類がおかれる。クリス様は悪態をつきながらサインをして私も書くとお父様と陛下が今後について話し合っている。
「愛想も可愛げも無いお前など、私に捨てられたら次の貰い手なんか現れないだろうな。」
「は?そんな事ありませんが。気にしていただかなくて結構です。」
「強がるなよ。私の事が大好きだったくせにアリスに寵愛を奪われ、これから泣き暮らすといい。」
「私にも縋り愛をくれる方がおりますので、解消が楽しくて仕方ありませんわ。クリス様こそ決して正妃になれないアリス様との恋をお楽しみください。」
「何故アリスが正妃になれない?そんな訳無いだろう。」
はははっ!我が家とは違い後継ぎが頭が足りないと大変ですな!とお父様が笑っている。なんて不敬!大丈夫?!
「…クリス。伯爵家以上で無ければ正妃にはなれない。男爵家なのだろう?側室にするかお前が廃嫡するかだ。」
「父上!そんな!」
連れて行けと指示を出しクリスが追い出された。重ね重ねすまないと陛下が謝っている。これで解消となる。
「エリザベス嬢もすまなかった。幸せになってくれ。後ろの奴が睨んできて堪らんので早く共に帰るが良い。」
え?っと思いシリル様を見ると目を逸らされる。陛下とお父様がシリル殿はわかりやすいなと笑っている。行きますよとシリル様に声をかけると微笑み手を差し出される。手を取ると嬉しそうに歩き出し失礼しますと退室をする。
「いつ出かけます?公爵にも許可を貰いますね。」
満面の笑みで聞いてくるシリル様を可愛く思ってしまう私は、もう逃げられないのかも知れない。




