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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第58話 Southern Cross

挿絵(By みてみん)





 着想を得たのは『桃瀬桃子』の意思能力。アニメのOP曲のワンフレーズを歌うことで、登場キャラクターの霊魂を憑依させるというものだ。それだけで十分チート級なんだけど、あれでも性能は落ちている。持続時間に問題があり、採用した曲の長さぐらいを維持するのが限界のように見えた。もちろん工夫次第でどうにでも変えられるんだろうけど、彼女はワンフレーズがベストだと考えた。


 私は後輩の十八番おはこだろうと、良いと思えば容赦なく真似る。独自の解釈を加え、別のアプローチを試み、自分の色を乗せる。とはいっても、彼女の意思能力を完全に再現することはできない。歌が好きという共通点があったとしても、趣味嗜好は異なるし、音楽に対する解釈も違うし、歌える音域やジャンルにも向き不向きがある。その細やかな違いに気付けるからこそ、私はここに立っていた。


「…………」


 私のイントロに反応し、私が着る黒のウェディングドレス風な衣装に備わる金属部分……主に両脚から音楽が再生される。そのアップテンポな音色に背中を押され、私は控え室をUターン。ライブ配信は頭部のカチューシャ的なパーツがカメラとマイクと通信デバイスを兼ねることで、継続が可能な状態。配信のデバイス操作は外部に任せてあり、私は心置きなく戦場に再び足を踏み出した。


 そこに待ち受けていたのは、三匹の巨大な化け物。甲殻型、アメーバ型、イヌ型であり、各々がどんな能力を秘めているか分からない。それでも私は前に突き進む。曲は始まったばかりなのだから。


『『『――――』』』


 空気を読んで一匹ずつ襲ってくることはなく、同時に攻撃が繰り出される。特殊能力が付与されている気配はなく、その巨体を活かし、前脚、触手、爪が私に迫ってくるのが見えた。直撃すれば肉体系のスキルツリーを伸ばした私でも、ひとたまりもない。それらをかいくぐって、懐に近付き、攻撃を加えて一霊四魂を操っても効果がないことが判明した。だから私は――。


「――――」


 歌を纏う。防御に特化する。独自の周波数を放ち、私の歌に同調できない全てを拒絶する。私の周囲には円形状のバリアめいたフィールドが展開され、化け物たちの攻撃は弾かれていた。それを横目で見ながら、私は前進を続ける。歌うことをやめることはなく、邪魔されることもなく、孤高に突き進む。


 見方を変えれば、信者以外を切り捨てる冷たい性格だと思われるかもしれない。自分のことしか考えてないネガティブな音色のように聞こえるかもしれない。でも、そうじゃない。今、伝わっていなくとも、曲が終わった後に伝わればいい。


『『『――――』』』


 化け物たちの猛攻は止まらない。意図に気付いたのか、本能に付き従っているだけなのか。どちらにせよ、諦めることなく私に攻撃を繰り返していた。


 言うまでもなく、それらは私の歌声によって弾かれる。『Southern Cross』に込められた意味が効力を発揮する。そのモチーフとなったのは南十字星。昔の船乗りから南を示す道標として重宝され、彼らの行く先を見返りもなく照らし続けた。私も例外じゃなく、目的地にたどり着くまでは無敵に近い状態となり、進むべき道は明るく照らされ、周囲は海と化していた。


 意思の力による発光ではなく、一般人でも見れる仕様。私が装着する両腕のパーツには環境疑似型ホログラフィックプロジェクション機能が備わっており、頭に浮かべた映像がリアルタイムで生成可能。採算度外視の高クオリティMVにも見劣りせず、ライブ感を両立した新しい体験を視聴者にお届けする。


 名付けて、『リアライブ』。


 業界の常識や当たり前を壊し、ライブパフォーマンスの新時代を私が築く。技術を独占するのではなく、量産し、分け隔てなく配り、業界の水準を引き上げる。そのためには、世界に生き残ってもらう必要がある。ルドルフや化け物たちを倒して終わりじゃなく、私は未来を見据えている。


「…………」


 Aメロとサビを歌い終え、曲は間奏に入る中、私は光に導かれた道の終わりで足を止めた。眼前に広がるのは、空洞。別次元との世界を繋ぐ扉。専門的なことは分からないけど、今、最も厄介なのはこれだ。このまま放置すれば、際限なく化け物の増援が続くことになる。


 閉じられるかどうかは分からない。私の力は及ばないかもしれない。『鬼龍院みやび』のガワを纏っている頃にはなかったネガティブな感情が頭の中を支配する。それがリアルタイムで伝わり、ワームホールの周囲はおどろおどろしいエフェクトが発生していた。心理状態が反映された演出なのは頭で分かっているけど、一度抱いてしまった負の感情を拭い去ることができない。


『――――』


 それを見逃さなかったアメーバ状の化け物は、触手を伸ばし、私に絡みつく。攻撃を弾くかどうかは精神状態と歌のパフォーマンスに大きく左右され、効力が薄くなる時間帯を的確に見抜かれていた。このまま拘束された状態が続けば、ライブは失敗に終わる。それどころか化け物に蹂躙され、地上の侵略が始まる。私以外の誰かが抵抗するだろうけど、きっと人類はアレに勝てない。現代兵器は大幅な弱体化を受けている状態だし、意思能力者は世界人口の一割にも満たない。


 量でゴリ押されたら負ける。数十メートルから数百メートル級の化け物がゾロゾロと現れれば、人類は成す術がなくなる。混沌時代の到来だ。上位的存在が地球を支配し、私たちは共通したバッドエンドを迎える。そんな後ろ暗い妄想が現実に変わる。ワームホールの奥の方から百鬼夜行の如く、異形の群れが観測できる。


 そうこう考えているうちに間奏が終わろうとしている。甲殻型とイヌ型の化け物は触手で拘束状態にある私に対し、脚と爪を振るう。これに合わせて、Bメロを歌い始めることはできる。今まで通りのパフォーマンスを発揮できれば、化け物たちの攻撃を無力化することができる。……でも、上手くいくビジョンが浮かばない。今のままの私だと落ち込んだメンタルを立て直せない。時間をかければ可能かもしれないけど、数分という限られた時間だと無理がある。


 脚と爪が肉薄する。無効化できるフィールドはなく、Bメロを歌い出す勇気も湧いてこない。挽回不可能な絶望的状況に追い込まれた中で、頭に思い浮かんだのは一点の希望。小柄なシルエットが先に形作られ、それはやがて現実化する。


『――――』


 Vtuber『桃瀬桃子』をそのまま擬人化したような存在が現れる。桃色髪のボブヘアで、ゴスロリ服を着た鬼がBメロを歌い出す。彼女は『桃瀬桃子』であって、『桃瀬桃子』ではない。二次元の束縛から解き放たれ、三次元に実在する。


 本名は水瀬ひかる。この世に光をもたらす鬼だ。


 ◇◇◇


 これはアドリブだ。万が一の場合に備えていたプランBだ。あーしのマイクは社長とリンクされており、コンマ数秒のタイムラグすら許さない。正体はニュートリノ通信。物質を透過する光速超えの粒子を飛ばし、地球を通り抜けて、最速最短でデータを送受信する。細かいことは分かんないけど、歌に支障が出ないならなんでもいい。今はあーしのオンステージだ。引き継ぎ役だろうが、主役の添え物だろうが、マイクを託された以上、好き勝手暴れてやる。


「―――――」


 東京都千代田区にある収録スタジオ内で、あーしは喉を鳴らす。正面には巨大なモニターが置かれ、ナナコ視点から見える広場の様子がリアルタイムで観測できた。これにもニュートリノ通信が使われており、タイムラグはほぼない。曲が聞こえてから歌い出しても音程がズレることなく、歌唱に関してはストレスフリー。意思能力の互換性もあり、ナナコに迫る脚と爪は弾かれたのが見て取れた。


 最悪の事態は免れたけど、油断はできない。本家本元の歌唱には劣り、彼女の身体を拘束する触手を弾くまでは至ってない。依然として不利な状況だし、ワームホールの向こう側には化け物の群れが迫っている。ナナコとユニゾンできればワンチャン逆転可能かもだけど、復調までには至ってない。恐らく、彼女の心と身体を縛りつける触手から解放してあげる必要がある。そればっかりはあーしじゃ無理なんだ。ドイツと帝国は物理的な距離があり、どれだけ急いでも間に合わない。最低でもあと一人、あーし以外に背中を押す誰かの力がいる。

 

 夢と希望を与えるのがあーしの役目だけど、奇跡までは起こせない。世界はあーしたちの都合のいいように回ってない。それでも、あーしは歌を歌う。諦めるにはまだ早すぎる。曲が続いている限り、勝機は必ずある。


 そこに煌めいたのは、一筋の青い閃光。ナナコを縛りつける触手を切り裂き、解放へと向かわせる第三者の存在がいた。


 ◇◇◇


 殺意の伝染は引っ込んだ。厳密に言えば体内に残っている感触もあったが、それは誰しもが抱えているもんと同じだ。時と場合によっては表に現れる。ただそれだけのことで深く考える必要はねぇ。今はただ――。


超伝導疾駆リニアドライブ――【絶空エアリアル】!!!」


 調子を取り戻した俺っちは、左義足の反発作用を活かした超高速の飛び蹴りを放つ。ナナコに絡みついた触手を切り裂き、彼女の近くに降り立った。


 迷惑をかけた記憶は残ってる。殺意に支配されていたことで、敵に回っちまった光景は脳裏に焼き付いている。元はと言えば、あのワームホールを開いたのは俺っちが原因のはずだ。原理原則は分からねぇが、俺っちの義足が何らかのトリガーとなっているように感じる。いつもなら見て見ぬ振りをするが、自分が起こした不始末には責任を持たねぇとだな。


 俺っちが意識を向けるのは、身体の内側。心の中に閉じ込めたもう一人の俺っちの存在。冥戯黙示録では少し顔を出させたこともあったが、普段は心の奥にこもって思考実験を繰り返している。正気か狂気かで言えば、狂気寄りだが、科学者サイエンティストであることに変わりはない。


「……ほぅ。CFLクォーク物質を安定させたか。こいつは興味深い」


 名前はルーカス・グローリー。この世に光をもたらす者だ。

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