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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第57話 プロローグ

挿絵(By みてみん)





 ユースタスの召喚術は見事に機能した。巨大な半人間半蛇は大斧を振るい、タコ型の化け物を切り裂いた。その一部始終を私は目撃した。携帯のカメラとストリーミング機能を通して、視聴者にも伝わった。それを信じる者と信じない者で真っ二つに意見が割れているのは見なくとも分かる。CGだ! 加工だ! VFXエンジンだ! などとコメント欄が盛り上がっているのが容易に想像できる。実際、巨大資本が武器のハリウッド映画は予算に上限がない。現実と見紛うような映像作品を作ることは技術的に可能だし、信じろと言っても無理がある。


 ただ、前置きがあった場合はどうか。同じような出来事が全世界で配信された前例があればどうか。映画撮影中の事故だったと政府が発表していたとしたら、世間は今の出来事を見て、どう思うのか。


 視聴者が漠然と抱いている感情が手に取るように分かる。職業病とも言うべきか、Vtuber『鬼龍院みやび』の血が騒ぐ。ただ、今のチャンネル主は戦うしか取り柄のない『ナナコ』。ありのままの私を見せ、良い化け物と悪い化け物の区別をつけてもらわなくてはならない。この役目は二次元じゃこなせない。三次元の身体じゃないと説得力が出ない。だから私は用意した。視聴者の感情を先取りした映像を。


『我々の独立を承認しない世界各国には、宣戦布告させてもらう! アルカトラズ島に捕らえられし全死刑囚、総勢千余名の信徒、そして、アメリカ合衆国大統領、レオナルド・アンダーソン、そして、我々だけが保有する、核をも凌ぐ異能の力――聖遺物レリックの名の元に!』


 私は世間に問いかける。聖遺物レリックという未知の兵器が映像作品として片付けられた事件をライブ配信に差し込む。何を思い、どんな感情を抱くかは視聴者の自由だ。私は干渉することができないし、コントロールは不能だ。


 ただ、この日を境に世界はきっと面白い方向に舵を取る。【火】の概念が消失し、核兵器が使えなくなった今だからこそ深く心に突き刺さる。偉い人たちが重い腰を上げ、核に代わる秘匿兵器を公表し、兵力の均衡を図る未来がありありと見える。


 ここが人類の新たな始まりだ。虚構フィクションで誤魔化せていた現実は終わり、史実ノンフィクションに基づいた異能全盛の時代に突入する。化け物を含めた超常生物や意思能力が環境の一部と化し、ティア表が作られ、それが各国の防衛力として評価される。


 その歴史の一ページ目を私が刻む。何者でもなかった鬼のナナコだからこそ成り上がる余地がある。人々が好む、起伏に富んだシンデレラストーリーが生まれる。


「異世界から来た化け物は残り三匹。召喚獣抜きでケリをつける」


 これは独り言であり、伝言だ。上空に配置するユースタスは配信を見ている。その意図に従い、ユースタスは自らの召喚獣を光に変えた。


 眼前にいるのは、甲殻型の化け物、アメーバ型の化け物、イヌ型の化け物だった。各々の体躯は数十メートル級であり、心身掌握が効かないのは証明済み。求められるのは別のアプローチであり、滅葬具に頼る気はなかった。


「――――」


 私はそれらに背を向ける。逃げるような形となり、コメント欄は非難囂々《ひなんごうごう》だろう。『口だけかよ』、『逃げるな卑怯者!』、なんてのは可愛いもので、見るのもためらってしまうような差別用語が飛び交っているはずだ。


 生配信は良くも悪くも面白さが正義。おもんなければ死ぬほど叩かれるし、おもしろければ死ぬほど賞賛される。どんな配信者であろうと一定のアンチは存在するだろうけど、私は知っている。アンチがファンに戻る瞬間を幾度か体験している。狙って出来るものではないけれど、本気で取り組んでいれば極稀に配信の神様が微笑んでくれることがある。それを発生させるためのキャラと舞台と道具は揃っていた。


「…………」


 他人の目と声を気にすることなく、私は控え室にたどり着く。足を運んだ先には黒いブラックボックスが存在し、迷うことなく両手をかざす。生体認証により鍵は解除され、神秘に包まれていたヴェールが明らかになる。


 変身バンクの如く今の衣服は綺麗に剥がされ、装着されたのは、黒いウェディングドレス風の衣装。頭部、両手甲、両脚には加工された銀色の物体がピッタリとフィットするように覆われている。


 これは、私が用意した最後の手札。通用しなければ終わりだし、私が思い描いた面白い未来は訪れない。その前に人類は滅亡する。旧き神々によって人間は蹂躙され、二度と作物が育たないレベルで大地は汚染される。


 責任重大だ。核戦争を止められるかどうかと同程度のプレッシャーが私にのしかかる。平凡な器なら壊れていただろう。半端な肩書きしか背負ったことがなければ潰れていただろう。自分に自信がなければ逃げていただろう。仮にそんな人がいたとしても否定はしない。誰だって失敗はしたくない。身の丈に合った生活をしていたい。明日、世界が滅ぶのだとしても、何もせずに終末を迎えたい。その気持ちは痛いほど分かる。当事者だからこそ強く思う。軽い出来事ならまだしも、これは人が抱えきれる許容量を遥かに超えている。一人の力で成し遂げられることには限界がある。そんな無意識なフィルターが働き、自分の枠から大きく外れたものを人は拒絶する。


 だが、私は鬼だ。安全圏にいるあなたたちがおもんないと切り捨てた化け物だ。とっくに頭のネジは外れている。目の前の面白さのためなら命を捧げられる。そのために私はここにいる。神に乗っ取られた夫を追わずに娘とオクトーバーフェストを優先し、結果として人類の存亡を背負うハメになっている。


 誰が今の私を止められるのだろうか。神? 悪魔? 天使? 堕天使? 精霊? 幽霊? 幻獣? 瑞獣? 獣人? 怪異? 化け物? 魑魅魍魎? 未確認生物? 特定外来種? 全部まとめてかかってこい。私が片っ端から昇天させてやる!

 

「君を照らせ、Southern Cross」


 私が鬼龍院みやび時代にやり残した最後の催し……『みやびフェス東京』。その幕開けを飾るために用意された幻の楽曲(オープニングナンバー)は今、数か月の時と死の淵から蘇る経験を経て、ようやく日の目を浴びた。

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