表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/62

第54話 天津甕星

挿絵(By みてみん)





「骸人と言うからにはさすがにしぶといな。でも、さすがにこれは身体に堪えるんじゃないか?」


 旅館屋上に作られた神社境内に響くのは、本性を露わにした天津の声音。左手は俺に通ずる手綱を握り、右手は俺の右肩を貫いている。青黒い血が流れ落ち、オリバーグリーン色の防寒用フリースが穢れる。心臓が激しく脈打つのを感じながら、右肩が力なくダラリと下がっていった。


「尺骨神経をやられたようだな。右肩から右手の人差し指までピクリとも動かん。不幸中の幸いと言うべきか、大して痛みを感じなかったのはせめてもの救いか。オペの腕が良かったのかもしれんな」


 痛みと倫理観を無視すれば、両腕を失っても戦闘には大して影響しない。元々、縄によって縛られていた部位だからな。焦ったところでどうにもならず、神に頭突きを食らわせた時点でタダでは済まないことぐらい分かっていた。


「強気でいられるのも今のうちだ。四肢が動けなくなれば、笑えなくなるぞ」


「やってみればいい。いくら痛みに訴えかけたところで、最後まで笑ってやる」


「今後、まともな日常生活を送れなくなってもか?」


「何を言っとる。四肢が欠損したとしても正気を保っていれば、まともだろ」


 その発言に対し、天津の眉がピクついたのが見える。どうやら、闘争は得意そうだが、論争は苦手らしい。特に道徳や倫理観に対しての認識は甘いように感じる。神が人間に抱く感情など分からんが、これを見逃す手はなかった。

 

「それとも何か? 身体的特徴だけで人を差別なさる神様なのか? よくもまぁ、人間や骸人の上位存在ってだけで偉そうに物を申されたものだな。何らかのハンデを背負ってようが、家庭環境が悪かろうが、俺たちは必死で生きてんだ! 片腕の神経を損傷させた程度で、俺の心まで穢せると思うな!!」


 不平不満や憤りを全て吐き出し、俺は感情のままに神とぶつかる。相手がどんな価値観を持っていて、何を考えているのかは分からん。


「……」


 ただ天津は刺し込んだ右手を引き抜き、俺を縛りつける縄を切り裂いていた。逃げようと思えばいつでも逃げられる状況なのだろうが、両足はピクリとも動かん上に、脂汗が止まらん。境内の雰囲気がそうさせるのか、神が発する空気がそうさせるのか。原因を特定することはできんが、結果として俺は逃げられなかった。

 

「なんのつもりだ。言い負けたことを暗に認めたか?」


「いいや、おいらが勝ったんだ。境内で血を流した時点でな」


 滴り落ちた血が境内の地面を駆け巡り、解読不能な文字を浮かび上がらせる。体温がグッと下がり、防寒用の服を着込んでいるにもかかわらず異様な肌寒さを覚えた。体感だと、赤霊山の八合目で味わったものよりも寒い。物理的なものじゃなく、精神に作用するような冷気のように感じた。


 いわゆるこれは、コールドスポットというやつだろう。幽霊と遭遇した時に周囲の気温が著しく下がる現象のことだ。霊的な存在である神も似たような類であり、防寒着がどうこうの問題じゃない冷却効果をもたらしているのだろう。


 問題はこれから何が起きるかだ。


「――――ッッ!!」


 まず異変が起きたのは、右肩に生じた傷だった。煙を上げて傷口が塞がっていき、ちぎれたはずの神経が接合されていくのを感じる。グッと右手は握り込まれ、復調したように思えた。


 ただ、その動きを俺は意図していない。何者かに乗っ取られたように独りでに動いている。今のところ俺のコントロールが及ばない部位は右腕だけで済んでいたが、じきに全身に及ぶのは容易に想像ができた。


「俺に……なにをした……」


 儀式を完了させるには、巫女を生贄に捧げる必要があるはず。そこまで口に出すことはできず、疼く右腕を左手で押さえながら、端的に質問を飛ばした。


「とっくにご存じのはずだろ? 自己紹介は済ませてある」


 天津は自身の頬を指で叩き、あえて言及を避けていた。そこまでされれば、言わんとしていることがさすがに分かる。こいつは初めから一貫していた。


「逆張りの神……。つまり、お前の説明は出鱈目。いいや、対極に位置している」


「それで?」


「神社の説明で、巫女が旧き神々に捧げられ、世の平穏を守ってきたと口にしたな。それら全てに逆張りが適用されるなら、こうなる。……男巫が旧き悪魔に捧げられ、世の平穏を壊す。それなら血が触媒となったのも説明がつくし、男の俺が対象だったのにも辻褄が通る」


「つまり?」


「旧き悪魔は俺の身体を器として復活する。終末の始まりだ」


 結論を口にした共に、俺の意識は途絶える。答え合わせが行われることはなかったが、吉か凶かで物事を判断するなら、それは当然……。


 ◇◇◇


 僕たちは夜助の提案に従い、隣人の熟女を仲間に加え、旅館の屋上を目指した。旅館の掟を利用して、儀式を起こす可能性があると読み切り、最も霊的な場所と言われる屋上の神社に候補を絞った。その読みが合っている保証はなかったが、妙な胸騒ぎが止まらない。弱ったチワワの状態でも霊的なエネルギーの高まりを感じ、階段を上る足が億劫になるほどのプレッシャーが放たれているのが分かる。


 なんとなくこっちには行きたいなと、人間なら思うことはあるだろうが、あの直感は大体正しい。幽霊や悪神のテリトリーである可能性が極めて高く、安易に近寄れば、乗り移られたり、神隠しに遭ったりする。


 常闇の王である僕が怖いという浅はかな感情を抱くことはなかったが、弱体化されたことによって、その気持ちが薄っすら分かるようになった。口が裂けても言いたくないが、正直言って、先に進むのが怖い。上に何かあるのは明らかで、出来ることなら接触を避けたかった。


 だが、そうもいっていられない。仲間の安否に関わり、恐怖心を押し殺してでも助けに行きたいと思える義理と関係性がある。


「――――」


 僕は軽快なステップで旅館内の階段を上る。コの字になっている構造を身内と共に上り切り、たどり着いたのは屋上。扉はすでに開かれている。神社の様子を伺うことができ、そこに立っていたのは見覚えのある人物だった。


「太っちょ?」


 問いかけに対し、返事はない。声が小さすぎたかと思ったが、明らかに様子がおかしい。右腕は青く染まっており、それと同じ色のセンスを発している。それだけで正体に想像がついたが、奴は自ら答えを口にした。


「そう言えば自己紹介がまだだったね。君の予想通り、おいらは天津甕星。赤霊山の黒幕さ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ