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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第53話 後ろ暗い感情

挿絵(By みてみん)





 旅館内で出会ったゲストキャラ『夜助』への状況説明は滞りなく終わった。一言断りを入れた上で客室のガサ入れも行い、結果は白。隠蔽に特化した高度な能力を有していない限り、円蒐を部屋に隠すことは不可能だと判断した。それに応じて、夜助の発言にも信憑性が出てくる。


「どうやら円蒐が元仲間という話は本当らしいな」


 座椅子にちょこんと座る僕は、対面にいる夜助に総評を下した。


「疑うのも無理ないわな。あまりにも都合がいい話に聞こえる」


 受け取り方によっては失礼な態度だったが、当の本人は真っ向から言葉を受け止めていた。ガサ入れに関しても嫌な顔一つ見せずに受け入れており、その若々しい見た目とは不釣り合いな度量の深さが伺えた。


「……それで、これからどうするの? また客室を片っ端から調べる?」


 僕の背後に立っている雪女は本題に切り込んだ。その右手には休憩室にあった牛乳瓶を持っており、勝利の祝杯を心待ちにしているようにも感じる。


「いや、そろそろアプローチを変えた方がいい。旅館内で行方不明者の噂は広がっているはずだ。犯人にも気付かれている頃だろう。同じやり方にこだわれば、堂々巡りのまま時間だけが食い潰され、最悪の場合、円蒐は死ぬ」


「言ってることは分かるけど、具体的に何を変えるの?」


「思いつく策がないこともないが、僕たちはあくまで余所者だ。どれだけ考えを煮詰めたところで見当外れな作戦になることも多い。……そこでだ」


「わしの出番、というわけだな」


 会話の流れと注がれる視線の意図に気付き、夜助はその場から立ち上がる。すでにこの展開は予想済みだったようで、秘めたる策がある様子。


「仰る通り。やしろに入り浸る有識者のご意見をお聞かせ願おうか」


 ◇◇◇


 俺は天津甕星と名乗った神に連れられ、旅館内の階段を上る。胴体と両腕は縄で拘束。犬のリードのように手綱を握られており、歩くことはできるが、細やかな身動きは取れない。状況から考えて、人質のような状態であるのは分かるが、なんの目的で移動しているのか明かされないまま屋上にたどり着こうとしていた。


「ここは……」


 視界に入ってきたのは、鳥居と神社。一般的な旅館ではお目にかかることができない奇抜な設計なのが一目見て分かる。日本中を隈なく探せばあるのかもしれんが、比較的珍しい部類に入るだろう。


緋袴ひばかま神社。先祖代々選ばれてきた巫女が旧き神々のために生贄となり、世の平穏を守ってきた場所だと言われている」


 鳥居の前で立ち尽くす天津は、施設の解説を加えた。言っていることは理解できるが、いまいち連れてこられた目的が見えてこん。


「だからなんだというのだ。俺を巫女に見立てて、殺すつもりか?」


「その逆さ。おいらは逆張りの神だと言っただろ?」


「逆だと? 一体どういう――」


「骸人である君を神に変える。そのための準備は着々と整っている」


 明かされたのは、天津が秘めていた目的。体内の臓腑がグッと何かに引っ張られたような重苦しい感覚を覚えた。目には見えんが、この場にある霊的エネルギーが俺の存在そのものを変えてしまうような雰囲気に満ちているのが分かる。見聞きした情報を考えれば、もはや疑う余地もないが、分からないこともあった。


「なんのために……。いや、どうやって」


「ツレの少女を巫女に見立てて、生贄に捧げる。そうすれば君は神になれる」


 仕組みを明らかにされ、その言葉に興奮を覚えなかったと言えば嘘になる。超常めいた力を得られるなら欲しい。赤の他人に近い一人の犠牲を払って神になれるのであれば、悪くない取引とも思える。ただ……。


「理屈は分かるが、お前になんのメリットがある」


「知的好奇心を満たせる。それに、思い通りにいかなかった人の絶望に染まる表情を見るのが何よりの大好物でね。内輪をぐちゃぐちゃにかき乱した後に残った一人の阿鼻叫喚なんてのは垂涎ものさ。それだけでご飯三杯はいけるね」


 語られた理由は邪悪そのものだった。ゾワリと肌が粟立つを感じる。ただ、こういった後ろ暗い感情は誰しもが秘めている。それを口にしないだけで、多かれ少なかれ人の不幸を見ることで快楽を得られるのは理解できる。俺も人間を虐げてきた骸人という業を背負う以上、避けては通れん問題だ。見るからに道を逸れているからといって、それを責め立てる権利は持っておらんが。


「――っっ!!!」


 一歩踏み込み、至近距離まで近付き、放つのは頭突き。天津の側頭部に直撃し、勢い余るまま鳥居をくぐり、俺も縄に引かれて、強制的に境内へと移動した。


「…………」


 すかさず天津は受け身を取っており、手綱を放すことはなく、こちらを見つめている。なぜ頭突かれたのか分かっていない様子で、腑抜けた表情を作っていた。今の一連の動作で心はとっくに決まっているが、説明してやるのも悪くはない。世間知らずな逆張りの神に、道徳ってやつを教えてやるのもまた一興だ。


「人の犠牲を強いる旧き神々などクソ食らえ。数千年遅れの歪んだ倫理観を俺様が叩き直してくれるわ!!!」

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