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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第46話 探索

挿絵(By みてみん)





 足を踏み入れた旅館の名は『やしろ』。言葉の意味を真に受けるなら、神をまつる場所、もしくは、人々が集まる場所ってところか。第一原理に該当し、それ以上は分解できない言葉の最小単位になっている。出発点の意味は固定されているが、そこからいかようにも解釈を付け加えることができ、使い手の独創性が試される。


 とはいえ、ネーミングセンスはいい。オリジナリティとは何たるかを分かっている可能性が高く、何らかの引用があろうと、換骨奪胎して、使い手の創意工夫を乗せやすい仕様と言えた。


 ただ、旅館という構造上、客かスタッフかの二択だろう。世界観設定や、僕たちの立ち位置によって変化するが、それ以外の選択肢は考えにくい。


「…………」


 そうこう考えていると、正面玄関から出迎えてきたのは黄色髪をハーフアップにした女将。クリーム色の着物を着ており、打ち出の小槌や宝珠といった吉祥文様が特徴的。服装は和だが、容姿は洋の雰囲気を醸し出している。

 

 正体を隠す気はないらしいな。こいつは前回の独創世界で勝利した悪魔の一匹だ。浅からぬ因縁があり、早くもリベンジマッチが成立する。立場と状況から考えて、くつろげる暇はないだろう。


「ようこそおいでくださった。部屋まで案内するが、よろしいか?」


 しかし、その予想に反し、女将は歓迎ムードだった。ふざけた口調が鼻につくが、旅館の体裁はギリギリ保っている。


「「「……」」」


 僕たちは顔を見合わせ、無言で頷き合い、女将の案内に従う。その一方で、幽霊のアオは僕たちとは反対方向に歩みを進めていた。


 ◇◇◇

 

 案内された一室は極めて平凡なものだった。想像通りの純和室というか、広さは12畳ほどでテーブルと座椅子が備わる。窓際は板張りとなっており、湯煙上がる夜の温泉街をソファに腰かけながら眺めることができそうだった。


 ここまで変わった要素はなし。攻略の糸口さえ見えてこない。


「ごゆるりとしろよ」


 障子を閉じ、女将は状況説明を一切行わないまま去っていく。案内人としては許容範囲だが、ゲームマスターとしては失格だな。プレイヤーの判断に委ねすぎている。それが狙いかもしれないが、世界のゴールが設定されていないように感じた。


「まずいな……。太っちょの見立ては間違ってなかったのかもしれないが、攻略に紐づく導線が全く見えてこない。むしろ、今まではイージーすぎたのかもな。このままだと一生ここから出られんぞ」


「見方を変えれば、敵もそれだけ本気ということ。『赤霊山』の登頂を全力で阻止しに来ているように見える」


 僕と円蒐は座椅子に腰かけ、対面する形で話し合いを開始する。当然だが、温泉に入るような気分じゃなく、そのイベントは八合目で済ませてある。進行に必要な可能性もあったが、どうも気が進まなかった。


「ひとまず探索からじゃない? 旅館に何があるか、確かめないと」


 そんな中、雪女は冷静で建設的な意見を言い放ち、次の方針は定まった。


 ◇◇◇


 TRPGにおいても、探索型のシナリオは存在する。むしろ、王道中の王道であり、脱出を物語のゴールと定めるなら、ド定番だった。プレイヤーが主導的に起こしたアクションによって世界の謎が少しずつ明らかになっていき、真相に迫った上で『進む』『逃げる』『残る』を各々の正気度や最終行動によって判断する。ってのが僕が知っているパターンだ。正気度を下げる危険性があるため、二人にこれを話すことはできないが、攻略を進める上で念頭に置いておく知識なのは間違いない。


 探索パートに関して言えば、基本的に吉と凶が入り乱れる。世界の真相に迫ることができれば吉だし、世界の闇に触れれば凶になる。あらかじめ吉凶を察知することも可能な時もあるが、ここに関しては運の要素が強い。出たとこ勝負というか、ダイスの出目次第というか、不確定な部分を自力で掴み取る瞬間がTRPGにおける醍醐味の一つと言えた。


 そんな中、立ち寄ったのは個室の食事処。四方に仕切りが設けられた部屋に案内され、そこには四人用のテーブル席があった。卓上には人数分のお盆と割り箸が置かれており、僕たちは定番のコース料理を注文していた。代金は不要らしく、メニューは一切明かされることなく、もてなされるのを待つのみとなっていた。


「何が出てくると思う?」


 意外にも声を出したのは正面に座る雪女だった。どうやって食べるつもりなのか、雪男の被り物を脱ぐことなく、一風変わった装いのまま椅子に腰かけている。


「恐らく、和食かゲテモノの二択だな。どちらにせよ口にするなよ。元の世界に戻れなくなるやもしれんぞ」


「右に同じだ。出てきた料理には細心の注意を払え」


 隣に座る円蒐に同調し、些細な会話を繰り広げつつ、時間を潰す。ここまで客の姿は見かけておらず、スタッフは必要最小限しかいないように感じた。まぁ、独創世界なのだから好きにしたらいいが、それにしても日本への造詣が浅いように思えるな。外国人が想像した日本というか、外観だけはそれっぽいが、内観や細部までの手入れが行き届いていないように見えた。


 そこに擦るような足音が響き、料亭のスタッフと思わしき女性が料理を運んでくるのが見えた。……また、あいつだ。女将に扮していたやつが先ほどの着物の上に割烹着を着けた状態で現れている。低予算もいいところというか、コントじみているというか。日本の文化や情緒を舐め腐ってるな。突っ込んでやりたいのは山々だが、それが相手の思う壺の可能性もある。ここは黙って受け入れよう。


「お待ちどう。タコの踊り食いお待ち」


 運ばれてきた大皿には、新鮮なタコ足が無数に置かれていた。うにょうにょと動いており、調理されたばかりのものなのが一目見て分かった。和食のギリギリ許容範囲ではあるが、これを僕に見せるとはなかなかいい度胸をしている。


「僕はこいつを攻撃する。ダイスの準備をしろ。ゲームマスター」

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