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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第45話 温泉街

挿絵(By みてみん)





 暗闇が広がる世界の中心にあるのは、テーブルとボード。そこには純和風の温泉街が映し出されており、常闇の王の動向を俯瞰で見ることができた。


「「「「…………」」」」


 テーブルを四方から囲むように集いしは四名。吾輩ことリア・ヒトラー、左隣には花魁風の衣装に身を包んだ鬼道楓、右隣には坊主のような衣装を着る南光坊天海、そして正面には、黄色髪をハーフアップにした燕尾服を着る女悪魔がいた。


 彼女は気まずそうに視線を落とし、吾輩たちの注目を浴びている。常闇の王の動向も気になるが、こちらとしては同じぐらい優先度の高い案件になっていた。


「さて……まずは自己紹介からしていただこうか」


 このまま放置するわけにもいかず、吾輩は彼女に助け舟を出した。何もしなければ戦闘に発展する可能性もあり、話し合いで解決するならそれに越したことはない。向こうから自供する様子はなかったし、場を取り持つ必要があった。


「ミネルバ・フォン・アーサー。マーリンXIII世の侍従だ」


 観念したように彼女は自身の名と、真の肩書きを語り出す。名前からしてイギリス王室関係者か。現実世界での地位は高かったのかもしれんが、少なくとも、第一級悪魔の地位に相応しくないのは確か。


「へぇ……平々凡々の雑兵がよくもまぁ、一流階級の戯れに紛れ込めたものやね」


 楓は胸元から蒼色の扇子を取り出し、冷ややかな目線を送っている。血気盛んというか、武闘派というか、今にも第一級悪魔の名を騙った落とし前をつけさせそうな勢いがあった。


「指示を出した黒幕はマーリン坊であろう。末端を切り捨てたところで、我々にとって何の得にもならん。生かすも殺すも語る内容次第といこう」


 次に口を挟んだのは、天海。穏健派……というわけでもなく、脅しをかけて合理的に情報収集を進めようとする腹積もり。空気を読むなら自供するのが丸いが、素直なだけでは食い物にされる。情報を全て話し終えた時点で生かす価値がなくなり、交渉の余地が失せる。それに気付けるかどうか。第一級悪魔が並ぶテーブルに名を連ねる資格があるのかを、彼女は今、試されようとしていた。


「悪いが主人を売るつもりはないし、非礼を詫びるつもりもない。それでも話させたいのなら、対価を積め。有償の価値があるものを無償で提供させようとするのは詐欺師のすることだ。第一級悪魔の風上にも置けん。恥を知れ」


 ミネルバは芯のある回答を口にするが、空気は凍り付いた。比喩ではなく、文字通りの現象が起き、楓が持つ扇子を中心に細やかな霜のようなものが発生している。こうなっても仕方がないというか、彼女は第一級悪魔に喧嘩を売った。蛮勇と英雄は紙一重と言うが、肝が据わっているのは確かだった。


「一理あるな。第一級悪魔と名を連ねる存在かどうかはともかく、テーブルに同席させてもよいと吾輩は思っておるぞい。そちらはどう思う」


「我も同意見だ。新参者がどこまで頭が回るか鎌をかけたまでのこと。必要最低限の条件は満たしているように見えるな」


 吾輩の問いかけに対し、天海は肯定的な反応を見せるが、楓は口を閉ざしており、どちらとも言えない反応を見せている。悪魔同士のやり取りは多数決で決まらんが、重要なのは面子だ。名を穢すような行いは広く知れ渡ることになり、その良し悪しを見極められないと判断されれば、格下げになる可能性もある。


「ワテはアンタを認めん。……ただ、価値ある情報を無理に吐かせるのは、悪魔の品位に反するのも確か。同席する資格があるか、見せてみい。この温泉街を牛耳るゲームマスターとしてな」


 楓は戦闘の一歩手前で踏みとどまり、条件を付け加える。一方のミネルバはニヤリと自信ありげな笑みを見せ、ボードに手をかざしていた。


 ◇◇◇


 僕たちが迷い込んだ先は夜の温泉街。さっさと攻略して頂上を目指したいところだが、ここで何をすればいいか全く分からない状態。一本道なら大体の察しがつくが、自由度が高い舞台のせいで、初見プレイヤーにとっては不親切な設計となっていた。


「状況的に考えれば、どこかの旅館がメインイベント会場になるんだろうが、多すぎて絞り切れんな。しらみつぶしに見て回るか、NPCへの聞き込みが鉄板だが、どうする?」


 闇雲に歩き回る前に、僕は同行する仲間に確認を取った。各々は視線を右往左往させて温泉街を見渡しており、ミーハー丸出しというか、田舎者っぽいというか、意見には期待できなさそうだった。


「指示出しするのはそっちじゃなかったの?」


 雪女は振り返り、雪男風の強面で問いかける。指揮系統うんぬんのさっきの話が尾を引いているらしい。裏を返せば、『お前が仕切れや』とでも言いたげだった。


「こいつは僕の専門分野外だ。経済は回っていそうだし、どちらかというと、円蒐の得意分野じゃないか?」


 視線を送った先には、いまだに登山装備をしている太った骸人の姿。建物の観察を続けており、何らかの目星を立てたようで、ある一点を見つめていた。


「長い物には巻かれろってやつだ。まずは温泉街の中で最も敷地面積が広い旅館を訪問したいと思うが、反論は?」


「ない」


「ないね」


 僕たちの意見は一致し、平橋がかかる豪勢な旅館へと歩みを進めた。

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