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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第41話 種明かし

挿絵(By みてみん)





「看取る時間ぐらいはくれてやろう。限られた自由時間を過ごせ」


 私の胴体に突き刺さった大太刀を引き抜き、ルドルフは言った。すぐさま跳躍し、陥没した道路から飛び去り、こちらを俯瞰で眺められる場所に立っている。会話を聞かれる心配はないだろうけど、終わりの時は近かった。


「まだ諦めんな! 超絶対助かる。鬼の血を使えば……」


 直後、駆け寄ってきたセレーナはメイド服の袖をめくり、爪を尖らせ、絶えず血が流れている患部に治療を施そうとしていた。確かに、それなら治るかもしれない。生き長らえることは十分に可能。だけど、引き換えに失うものがある。


「…………」


 私は顔を横に数度振り、丁重に断りを入れる。「なんでっ!!」という声が聞こえるも、私は頑なに否定を続けた。死ぬときは人間でありたい。言葉で伝えることでもなく、これ以上納得させる必要もなかった。


「……どうして、関係値の薄いあたしを」


 セレーナは優しく私を抱え、問われるのは身体を張って助けた理由だった。奇しくもルドルフが思い描いた通りの展開になっている。


 話せることと、話せないことがある。全てを包み隠さず話すわけにはいかず、かといって、何も言わずに死んでいくのは気が引けた。


「この世界に、多世界解釈は存在しない。あらゆる分岐が一つに集約される、単一構造になっている」


 切り出したのは、根本的な概念。ひいては私がここにいる理由。セレーナの表情が引き締まったのが分かる。全く知識のない人からしたら抵抗しか生まないけど、どうやら心当たりがあったらしい。説明を付け加える必要はなさそうだ。


「私は……ある男性が今後結ばれるかもしれないヒロインの子供の一人。ルートが一つしかないなら、一人しか生まれないけど、そうじゃない。その男性を取り巻くヒロインは複数人いて、その数だけ、子供が生まれている」


「それって……。いいえ、続けて」


「特異点とも言える男性の名は、ジェノ・アンダーソン。……彼の遺伝子を受け継ぐ者は例外なく、非業の死を遂げる。今の私、みたいにね。こうなることは心のどこかで分かってた。言うまでもないかもしれないけど、私みたいな可哀そうな人間は、まだ世界のどこかにいる。自分勝手な申し出だってのは分かってるけど、一つだけお願いしてもいいかな?」


「……何を?」


「私のような子供……『非業な子供達(ジェノ・チルドレン)』を一人残らず幸せにする方法を考えて。それ以上は、何も――」


 大事な部分を包み隠して、私は説明を終える。


「…………」


 セレーナは肯定も否定もしなかった。ただ私をぎゅっと抱きしめ、最後までそばにいてくれる。色々と思い残すところはあるけれど、ママのそばで死ねるなら本望と言える。行き着く先は殺意の傀儡だとしても、今だけは幸せだと胸を張って言い切ることができた。


 狂う前に殺して。なんて野暮なことは言わない。いちいち言わなくとも分かっているだろうし、一生に一度のお願いは今さっき済ませたばかり。これ以上を望んだら罰が当たる。……あーあ、私も結婚して、子供産んでみたかったな。なんて妄想が頭に浮かぶけど、これはこれで悪くはない結末だ。


 気付けば意識は薄れ、目の前は霞み、胸の奥が少しざわついた。自分が自分でなくなるような感覚。夢見心地の体験も終わり、いよいよ終わりが迫っているのを肌で感じる。ママに抱かれたおかげか、大した痛みを感じなかったのがせめてもの救いかな。この後、多大なる迷惑をかけるかもしれないけど、私は穏やかにこの世を去ることができそうだった。


「非業な死が運命付けられているのだとしたら、変えるのは次じゃない」


 現世うつしよ常世とこよの狭間で私は確かに聞いた。運命に抗おうとするママの声がした。どうやって……そんな悠長な言葉を紡げるほど、私は余裕がない。実際に何が起こるかを見届ける余力も残っておらず、彼女が言いかけた言葉を最後まで聞き届けるのが今の私にできる精一杯だった。


「今、この時に人事を尽くす。そのためなら、パパの教えも破ってみせる」


 ◇◇◇


 意思能力は開発するな。それは、十代前半の頃にパパと交わした約束の一つだった。それにまつわるエピソードは非常に単純で、深い話は一切ない。意思の力を覚えた直後、調子に乗って能力を開発しようとしたあたしは、パパの意思能力で半殺しにされた。実力の差を分からされて、お前にはまだ早いという現実を突きつけられた。約束を頑なに守り続けていたのは、その時の出来事がトラウマになっていたから。もし、約束を破れば、次は殺されるかもしれない。そんな強迫観念に近い何かがあたしを縮こまらせていた。


 傍から見れば良い父親ではなかったと思う。度が過ぎた暴力を子供の教育に使ってる時点でまともじゃない。親子としての贔屓目を抜きにすれば、擁護不能だった。もし、あたしと似た境遇の子がいれば、率先して助けに入ると思う。その子の気持ちが少なからず分かるからだ。人様の家庭に首を突っ込むのは馬鹿なことだと思うけど、それだけは譲れないあたしなりの一線ってやつだった。


 今回の件は、ドンピシャに当てはまってしまっている。家族が原因でもたらされた不幸。ジェノが直接的な原因とは言い切れないものの、未来で出生しているはずの子供たちが、現在時間軸に出現している時点で何かがおかしい。彼が全く関与していないとは言い切れず、あたしも恐らく多かれ少なかれ関係がある。


 彼女は直接口にしなかったけど、あたしもジェノに攻略されたヒロインの一人のはずだ。ジェノ・アンダーソンのために魔術結社『リーガル』を設立したのに、それでも惚れてないと言い切れるほど厚顔無恥じゃなかった。


 そこまで分かれば、目の前にいる子の正体なんて深く考えずとも分かる。褐色の肌に給仕服。それだけでピンとくる。ホフブロイハウスで出会った頃から視覚的情報は変わっておらず、察しがよければその時点で気付けたはずだ。


 まぁ……過ぎたことをとやかく言ってもしょうがない。未来からジェノの子供が来るなんて発想は、頭の片隅にもなかったのだから考えつかなくとも無理はない。


 それより、大事なのは今だ。どうすれば彼女を助けられるかを考えるのが最優先事項だ。巡り巡ってジェノのためにもなり、あたしの行動原理からも外れない出来事。ここで本気を出さなくて、いつ本気になる。ここで何もせずに、やるべきことを後回しにしたらたぶん一生後悔する。だから……


「――――」


 あたしはアンナの患部を右手で触れ、人差し指の先に溢れ出る血液を付着させ、傷口を中心とした円を描いた。次に時針と分針を描き、思い描いた刻印は完成する。成功する保証はない。再現性のあるレシピを採用したわけじゃない。直感……と言えば聞こえは悪いけど、あたしならできる。あたしだからこそ発動できる。8月1日から8月31日を永遠と繰り返すミュンヘンに閉じ込められ、15533回目のループで破った経験を持つあたしとジェノ以外に誰が時間に干渉できる!!


逆巻く運命デスティノ・トラヴォルジェンテ

 

 あたしは血で描いた時針を巻き戻す。大太刀による傷がつく前のイメージを思い浮かべ、意思能力を行使する。それによって、傷口が逆再生されたように見る見ると塞がっていき、アンナの顔に生気が戻っていくのが見えた。


「成ったか。手合わせ願うのはこちらだな」


 陥没した道路に降り立つルドルフは、一部始終を見て、あたしを評価してくれているようだった。正直言って、そこに興味関心はない。誰かに認められることがあたしの目的じゃない。他人の言動で価値観を揺るがせちゃいけない。


「話しかけんな、十三下。今のあたしは超機嫌が悪い」

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