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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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34/62

第34話 存在定義

挿絵(By みてみん)





 僕は何者だ。常闇の王と崇められる前は一体なんだった。暗闇に支配される場所で自分自身に問いかける。盲目白痴の神がどうとか、宇宙の法則が通じない高次元世界……『原初の混沌』出身ってのは脇に置いておこう。そのエピソードをまるっきり引っこ抜いた後に何が残っているかが重要と言える。


 思い出すべきは、宇宙秩序の外側に生まれ落ちる前。言うなれば前世が僕自身の鍵を握っている。人ならざる異形の姿は後付けのコーティングで、汚らわしい外皮を脱ぎ捨てた後に残るのが本当の僕だ。浄化作用のある温泉水を浴びた上で正気を保つには、生前の記憶を呼び起こす必要があった。


 とは言っても、常闇の王として暮らしていた時期があまりにも長すぎる。生前なんてものがあったのかも定かじゃなく、どれだけ頭をひねらせたところで妄想に終わる可能性が高い。……ただ、断片的に覚えていることがある。


『サチ……おいで』


 文庫本に囲まれた部屋で、幸が薄そうな白髪ロングの妙齢な女性に名を呼ばれる。白と黒の袴を着ており、名前は思い出せない。ただ、それまで向き合っていた机には大量の原稿用紙と万年筆が置かれていた。プロかアマかの判別はつかないが、小説家であるのは間違いなさそうだった。 


 呼び声に従う僕は、彼女のもとへと駆け寄り、手を舐める。清潔感のある甘い匂いが香り、ほんのりと苦いインクの味がしたのを今でも覚えている。状況と体格差から考えて、彼女に飼われているペットなのは間違いなく、『赤霊山』のエピソードを踏まえるならチワワの姿をしているのだろう。これが前世にもとづく記憶である可能性は否めないが、致命的な矛盾点が存在している。


 時系列が合わない。


 時代背景から考えて、どれだけ遡って考えても20世紀以降なのは間違いなく、僕が常闇の王として君臨していた期間を重ね合わせれば、ミスマッチが生じる。『原初の混沌』は宇宙の物理法則が通用しないと言っても、地上に干渉すれば地上の理が適用される。仮にこれが僕の生前の記憶だとしても、時間は不可逆なものであり、常闇の王とチワワは両立できない。僕の能力の性質上、人間や動物の姿を模倣することは可能だが、人間や動物が僕を模倣することは不可能のはずだ。


 僕の分身という線もあるが、盲目白痴の神と違って僕は漏れなく覚えている。記憶違いが発生したことはなく、僕や分身が関わった地上での事件や事故は一つ残さず列挙することができる。


 だからこそ、この記憶は強烈に覚えている。僕であって僕ではない感覚。混沌をもたらす僕にあるまじき平和をもたらす光景。妄想と切り捨てていたが、もしかしたら前提が間違っていたのかもしれない。


 『赤霊山』の温泉水を浴びたことにより、僕は変わった。


 どの程度変わったかは判別不能だが、以前の僕に戻れないのは確か。その上で考えるべきは、どういう時系列を辿れば辻褄が合うか。チワワ→常闇の王という時系列が間違っていたとしたらどうか。地上でまだ起きていない出来事を、宇宙の法則が通じない場所にいたからこそ先に察知していたならどうか。つまりは……。


「…………」


 常闇の王→チワワ。あの物語はこれから紡がれる。

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