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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第30話 魔法使い

挿絵(By みてみん)





「「…………」」


 バヴァリア公園の平地に踏み込んだ私は、女鬼に宿った殿方と向かい合う。正体はトゥーレ協会の創設者……ルドルフ・フォン・ゼボッテンドルフ。いちいち裏を取る必要もなく、対面した時点で確信に至った。


 こいつは人類の敵だ。


 第一級悪魔リア・ヒトラーとのわだかまりは解けたわけじゃない。優先順位が繰り上がり、今の私にとってルドルフは最優先事項になっていた。


「魔法使いか。久しく聞いてない肩書きだな。自称か? それとも――」


「口よりも先に手を動かしてみては? さすれば自ずと分かること」


 給仕服の前ポケットから取り出したのは、銀色のメリケンサック二つ。それを両手の指に通し、握り込むように装着し、身構える。左腰にある大太刀は言うまでもなく奥の手。にっちもさっちもいかなくなった時に使う代物。リスクなしで仕留められるならそれに越したことはない。


「全くもってその通り。早速だが、肩書きの値踏みといこう!!!」


 ルドルフは右手の掌を突き出し、私に向けて目にも留まらぬセンスを飛ばす。先ほどの攻防を見る限り、能力の本質は『ソニックブーム』。音速を超えるものが放つ衝撃波がメイン火力。意思能力上の威力は極限まで落とし、空気抵抗を減らし、速度に特化することで自然現象を味方につけた。推定時速は約1300km。現代の科学技術なら初動で音速に到達することは不可能。最新鋭の戦闘機でも15kmほどの助走を要し、そこでようやく音速超えの指標となるマッハ1……時速1225kmを突破できると聞く。


 科学の常識を超えている。少なくとも、単身で最新鋭の戦闘機のスペックを上回っている。小難しいことをやっていないおかげで燃費も良く、相手に手札を明かしたとしても、物理的に対処しづらい性能を誇っている。


 とはいえこれは、魔法ではない。


 科学の常識を超えていたとしても、ソニックブームの概念を超越していない。二つの間には大きな隔たりがあり、それがそのまま実力差に繋がる。


「――時代精神ツァイトガイスト


 私の魔法は時間の概念を超越する。例えそれが、全ての分岐が統合される単一世界が対象だったとしても機能してしまう。


 直後、鳴り響いたのは轟音。眼前にはメリケンサックを装備した私の分身体がおり、地面に拳を打ち込んでいる。今打ったのではなく、打ち終わっている。過去に飛んだ分身体がソニックブームに対して策を講じたことになっている。


 すかさず眼前に生じたのは岩柱。センスで強化されており、私の身を守る障壁と化していた。


 これで互いの攻守が出揃い、雌雄を決するための衝突が開始される。もちろん、この攻防で決着がつくとは思っていない。あくまで一手目の良し悪しが結果として示されるまでのことで、勝負はここからと言える。


「…………」


 耳をつんざくような衝突音が公園内に響き渡る中、些細な違和感を覚える。想定よりも手応えが軽い。五分か押し負けるぐらいが妥当だと思っていたけれど、このままいけば岩柱の強度がソニックブームに勝る気がしていた。


 私の分身体は消滅し、手の空いている私は背面にセンスを集中させていた。今のが陽動だとすれば、正面から来ることはあり得ない。岩柱の死角を利用し、樹々を回り込み、背後から仕掛けてくる選択肢が最も濃厚。あらかじめ攻防力を移動させておけば不意打ちにも対応できる可能性が高く、ソニックブームを飛ばしてきたとしても耐えられる自信はあった。


 その時、ピシリと嫌な音が鳴った。眼前に生じた岩柱が砕けた気配があった。音速を超えた攻撃を跳ね除けつつあった障壁が破られようとしていた。と同時に背後からも音が鳴り、何らかの策を講じたのが分かる。どちらが本命で、どちらがフェイクか分からないけど、どう転んでも私の優位は揺るがない。


「――時代ツァイト


 詠唱を行い、後出しじゃんけんを試みる。分身体を過去に飛ばせば、どちらが本命か一目瞭然。先んじて手を打っておけば、致命傷になることはない。


「そうくるだろうと思っていた」


 声が聞こえたのは正面。岩柱は丸く射抜かれており、ルドルフの口元の動きが視界に入った。恐らく、背後の音は陽動。石ころか何かを投げて、私の意識を散らし、両対応可能な魔法を使わせるように追い込んだ。いくら過去に干渉できるといっても、詠唱を阻止されれば発動できない。


 いや……状況を冷静に分析してる場合じゃない。避けないと。


「――っっ」


 思考を切り上げ、身体を動かそうとするも、時すでに遅し。左肩に焼けるような痛みが走り、センスの薄い箇所を的確に突かれたのが分かる。恐らく手品の種は、ソニックブームの一点集中。面の攻撃を点の攻撃に変え、背後から来ると思わせて、正面から仕掛けてきた。おかげで左腕は使い物にならない。切断レベルの負傷じゃないけど、この戦闘中で再び動かせるようになる見込みは薄かった。


 手段を選んじゃいられない。あそこまで精密にソニックブームを打ち出せるなら、『時代精神ツァイトガイスト』を唱えられる時間はないと考えていい。だったら……。


「――――――」


 私は左腰にある大太刀に手をかける。リスクを承知の上で、帝国で入手した八つ目の滅葬具に頼る。皮肉にもこれは、鬼に対しての特攻がある。人ならざる者を殺すためだけに作られ、製作者の怨念が込められている。使わない手はない。この場面のために用意された得物だと言っても過言じゃなかった。


「抜かせるとでも?」


 しかし、ルドルフは抜刀を許さない。いつの間にか懐に忍び込み、右拳でボディーブローを放っている。全てが後手に回ってしまっている。こちらのやりたいことが全くできない。


「……ぐっっっ」


 直後、腹部に幾度も衝撃が走る。恐らく、拳から音速弾を飛ばし、それを何度も繰り返した。直に触れる必要もなく、避けられる心配もなく、乱打であることから一点集中での防御が難しい。全てが理に適った一撃。明らかに戦い慣れている。『ソニックブーム』の能力だけで、よくもここまで……。


「呆けているなら、いただくぞ」


 私は忍び寄る魔の手に対応できない。思考は追いついていても、身体が追いつかない。気付けばルドルフの右手は大太刀の柄に触れ、勢いよく引き抜かれた。


「――――」


 露わになるのは、刃渡り2メートルを優に超える青黒い刀身。人外退治用の武器は皮肉にも人外に渡り、鬼に金棒を体現する存在が目に前に立っていた。

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