第24話 混沌
独創世界。結界術と芸術系の技を磨き上げることによって発現する力。独自の理を持つ世界を展開し、自分を含めた周囲の存在を閉じ込めることが可能となる。効果範囲や持続時間は各々によって異なる。術者本人のセンスの総量が独創世界を維持するエネルギー源になるが、独自の理が複雑だったり、規模が大きいほど維持コストは上がり、最終的な個人差に繋がる。
独創世界を同時に展開した場合、基本的に押し引きは発生しない。それぞれの世界の境界線がバリアと化し、別の世界の干渉を拒絶する。独立した世界を創造するのだから独創世界なのであり、各々の心象風景が穢されることはない。感覚的にはフォルダの概念に近く、中身を構成するファイルの数やサイズは各々によって異なり、別のフォルダに干渉することはない。……ただ、同じフォルダ内で同じファイルを共有することに同意したらどうか。フォルダ同士の境目をなくし、一つにまとめたらどうなるのか。答えは決まっている。
『ダイスを振れ、常闇の王。お前の運命はお前自身が決める』
展開されていたのは、無数のマス目と六面体のダイス。背景は白と黒のみで構成されており、出発点と思わしき場所には常闇の王が立っていた。他の参加者はおらず、吾輩はゲームマスターの一員として、役割を全うする。フィールド上には立っておらず、テーブルの上に広げられたボードゲームを眺めながら、その駒に対して指示を送っているような感覚に近い。同時に世界を展開する他の者も似たような状況に置かれている。場面場面に応じて出現する、といったところだ。
「くっ、くくっ。くははははっ。お前たち、正気か? 散々、TRPGの題材としてこすり散らかされたこの僕を相手に、ボードゲームでケリをつけると?」
『意趣返しというやつだな。プレイする側の気持ちも少しは味わえ』
「それもまた一興か。たまには下々の遊びに付き合ってやるのも悪くない」
常闇の王は足元にある巨大なダイスを両手で掴み、放り投げる。出目は6。それに伴い、6マス先の地点が輝き、彼は疑うことなく先へと進んでいった。本来のTRPGであれば、物語の導入を丁寧に説明し、何が目的で、どんな動機を持った人物がいるかを明確にしてから先に進むが、同じことをやっては意味がない。というより、相手に馴染みのある土俵を再現するだけでは勝てないと踏んだ。だからこそ、吾輩たちはアレンジを加えることにした。
「……6っと。ついたぞ。何が起こるか、さっさと説明しろ」
指定された場所に到着した常闇の王は、こちらの指示を待っている。マス目には何も書かれておらず、進行はゲームマスターに依存する。
『プレイヤーが訪れた場所は遊郭。高位の遊女の座敷に上がり込み、一対一の勝負が行われることになった』
軽い舞台説明を行い、展開されるのは畳の間。中央には桐箱と的と扇子が置かれている。常闇の王の正面には花魁姿の悪魔……鬼道楓が正座で出迎える。
「投扇興のルールは知っとる? 常闇の王はん」
◇◇◇
各々の得意分野は各々によって違う。なんでもかんでもごちゃ混ぜにすればいいというわけではなく、世界観が入り乱れれば、互いの持ち味が薄れてしまうことが最大の懸念点だった。だからこうなった。勝敗に直結しないシナリオの面白さには一切のリソースを割かず、吾輩たちが活躍できるフィールドを用意した。
話に一貫性がなく、世界観にまとまりがなかろうが関係ない。得意分野を押し付け、勝ちをもぎ取る。そうすれば奴は一生外に出られない。独創世界の片隅に放置され、吾輩を含めた四名が封印の肩代わりをすることになる。
金輪際、独創世界を展開できなくなるリスクを抱えることになるが、人類が滅亡することに比べれば、安いものだ。吾輩たち悪魔の最大の取引相手を失うわけにはいかんからな。世界は程よいバランスで保たれるべきであり、人類が滅亡すれば悪魔が大量に増える結果となり、それでは仕事が成り立たん。持ちつ持たれつの関係が理想であり、良くも悪くも人の欲望が吾輩たちを生かしているのは確かだった。
「夢浮橋……だったか。確か、これを超える点数はなかったよな? 大した努力をしなくても結果を出せるだけの才能があってすまないね。100面ダイスが結果に左右されるなら、こっちは敵なしなんよ」
桐箱と的の上に扇子が橋のようにかかる。先攻の一手目から繰り出されたのは、ルール上での最高点だった。楓のターンである後攻に回る必要がなく、勝負は決している。彼の傍らにある100面ダイスも100の数字を示しており、文句のつけどころがないほどの豪運を発揮していた。
「その威勢、どこまで続くか見物やね。次もせいぜい頑張り」
楓は素直に敗北を受け入れ、勝負は次なる舞台へと移行した。




