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待たせたな!  作者: 僧籍
第三部 戦線を押し上げろ!

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94/113

アメリカ軍の意地と執念、そして、諦念 時は流れて1945年11月

1945年11月


ニューギニア島のラエ、ポートモレスビーのアメリカ軍基地


数ヶ月が経過した。当初、数ヶ月は持つと豪語していた物資の山も、補給が完全に途絶えた状況下では、砂時計の砂のように確実に減っていった。倉庫の奥に積まれていたCレーションの箱は底を突き、かつて兵士たちの士気を支えていた温かい食事は、今や水のような薄いスープと一片の乾パンへと変わっていた。銃の手入れに使うオイルも、トラックを動かすガソリンも、そして何より兵士たちの「心」が、出口のない待機の中で細り始めていた。


「日本軍は……まだ来ないのか?」


防御陣地の中で、痩せ細った兵士が呟く。かつての殺意は、今や空腹と虚無感に取って代わられていた。


---


その時だった。水平線の彼方から、大気を引き裂くような重低音が響いてきた。それは航空機のエンジン音ではない。海そのものが唸りを上げているかのような、地響きに近い音だった。兵士たちが、震える手で双眼鏡を海へと向ける。青い海の彼方に、突如として巨大な鋼鉄の城が姿を現した。


「……バカな。戦艦か?」


ラエ基地の沖合には日向、伊勢の艦隊が出現した。

ポートモレスビー基地の沖合には長門、榛名が出現した。

戦艦以外にも航空母艦と護衛艦隊が続く。


偵察機がはるか上空から監視するのみで、一兵の歩兵も現れなかった数ヶ月の沈黙を破り、日本軍が選んだのは、海からの「物理的な破砕」であった。次の瞬間、水平線が目も眩むような閃光に包まれた。大砲弾の着弾音が響き、遅れてやってきた衝撃波が、アメリカ軍が血を吐く思いで築き上げた防御陣地を、その周囲の森ごと根こそぎ吹き飛ばした。戦艦の巨大な弾丸が、空腹に喘ぐ兵士たちの頭上に、容赦のない「終焉」を告げながら降り注ぎ始めた。


ラエとポートモレスビーの地を揺るがす戦艦主砲の轟音は、アメリカ軍の地下陣地にも容赦なく降り注いでいた。土埃が舞い、照明が明滅する防空壕の奥深く。そこには、数ヶ月前に「死守」を誓い合った陸軍の部隊長たちが集まっていた。かつての威厳は影を潜め、軍服は色褪せ、頬はこけている。彼らが持ち寄った状況報告は、もはや戦略図ではなく、「限界の記録」であった。


---


「第3大隊の状況だ。……配給は1日1回、クラッカー2枚と水のようなスープ。戦闘不能者は4割を超えている。燃料も食料も底を突き、もはや迎撃どころか、この砲撃に耐えるだけで精一杯だ」


一人の連隊長が、震える手で紙片を置いた。他の指揮官たちも、似たり寄ったりの、あるいはそれ以上に悲惨な数字を口にする。数ヶ月間、一度も姿を見せなかった日本軍が、最後の最後に「戦艦の巨砲」という最も残酷な手段で自分たちを破砕しに来た現実が、彼らの心を完全にへし折っていた。


「もう……降伏しよう」


沈黙を破ったのは、若手の将校だった。周囲から鋭い視線が飛ぶが、彼はひるむことなく言葉を継いだ。


「情報の断片だが、ホーランディアで降伏した連中の噂を聞いた。彼らは日本軍に虐殺されることもなく、オーストラリアへ移送され、順次、解放されているという。……俺たちは、もう十分に義理を果たしたのではないか? 誰に対して、これ以上の犠牲を強いる必要があるんだ」


「馬鹿なことを言うな! ここで白旗を揚げれば、これまでの数ヶ月の苦労は何だったんだ!」

一人が机を叩いて反発する。しかし、その声にはかつての熱量はなく、ただ自らの選択を否定されたくないという悲痛な叫びに近かった。


他の部隊長たちは、無言のまま目を伏せた。

反発する者も、同意する者も、その心の内にある真実は一つだった。――自分たちの「戦争」は、数ヶ月前の降伏命令の時点で、すでに終わっていたのだ。自分たちのプライドのために、飢えた兵士たちをこれ以上、戦艦の餌食にする権利が自分たちにあるのか。


指揮官たちの中心に座る、この決戦部隊のリーダー、マクナマラ准将がゆっくりと顔を上げた。彼は、天井を揺らす次の着弾音を静かに聞き届けた後、枯れた声で口を開いた。


「……諸君。我々は、アメリカ陸軍としての誇りを守るためにここに残った。そして今日この時まで、一歩も引かずにこの大地を守り抜いた。その事実は、誰にも否定させない」


マクナマラは立ち上がり、周囲を見渡した。


「だが、指揮官の最後の任務は、部下を死なせることではない。彼らを故郷ホームへ帰すことだ。……もう、十分だ。我々の役割は終わった、我々がここで奮闘した時間は本国で艦隊を再建する時間になったはずだ」


部屋を支配していた緊張の糸が、音を立てて切れた。激しく反対していた者も、ただ力なく椅子に深く沈み込んだ。マクナマラは、隅に控えていた通信士官を手招きした。


「全軍に伝えろ。これより一切の戦闘を停止し、降伏する。……それから、洋上の日本艦隊へ向けて全周波数で発信しろ。――『我々は貴軍の提示する降伏条件を受諾する。砲撃を停止されたし』」


通信士官の指が、キーを叩く。暗い防空壕の中に、電子音が虚しく、しかし希望を孕んで響き渡った。数分後、外を揺らしていた地獄のような着弾音が、嘘のように止んだ。静寂が、何ヶ月ぶりかにラエとポートモレスビーの基地に訪れた。それは、意地と誇りに殉じようとした男たちが、ようやく「人間」に戻った瞬間であった。水平線の向こうでは、巨大な戦艦の艦隊は次の目標へ艦首を向ける。


---



マヌス島


ニューギニアの拠点と同じように、太平洋最大の兵站基地であるマヌス島もまた、その姿を「工廠」から「要塞」へと急速に変貌させて、日本軍を待ち受けていた。かつては「太平洋の巨大な給油所」として、数万の将兵が映画館や教会の恩恵を享受していた「アドミラルティ海軍基地」。その美しい海岸線は今、無数の鉄条網とコンクリート製のトーチカによって埋め尽くされていた。島の中枢を守るべく、陸軍と海兵隊の混成部隊は、白砂のビーチを掘り返して深い塹壕を張り巡らせる。かつて物資が整然と積まれていた埠頭の背後には、最新鋭の対空砲や沿岸砲がその黒い砲口を水平線の彼方へと向けていた。


「奴らは必ず来る。空から、そして海から、ニューギニアを飲み込んだあの『日本軍・新太平洋艦隊』がここを狙っている!」


古参兵士の怒号が、ロレンガウの滑走路に響き渡る。兵士たちは連日、炎天下の熱帯雨林で泥にまみれ、白兵戦の訓練を繰り返していた。M1ガーランドを握りしめ、仮想の日本兵を想定した銃剣の突きが、静かな島に鈍い音を立てる。彼らにとって、マヌス島はもはや「日本本土侵攻への発射台」ではなかった。自分たちの命を、そして巨大な物資の山を守り抜くための、「最後の一線」となっていたのだ。マヌス島には、ニューギニアとは比較にならないほどの膨大な物資があった。冷蔵倉庫には肉があり、弾薬庫には数百万発の弾丸が眠っている。だが、巨大基地を支える、燃料と食料は徐々にすり減ってきていた。兵士たちの精神を削り取っているのは、いつ現れるとも知れない「見えない敵」との対峙であった。


哨戒機が空を飛び、レーダー員が画面を凝視し続ける日々。日本軍の航空隊が、あるいはあの巨大な戦艦が、いつ水平線を割って現れるのか。その不気味な静寂が、過酷な訓練で疲れ果てた兵士たちの神経を、じりじりと逆撫でしていた。


太平洋の心臓部、マヌス。

鉄壁の防御陣地を築き、牙を研ぎ澄ませて待機するこの巨大な要塞は、やがてニューギニアのアメリカ軍が辿った「静かなる崩壊」の道を歩むことになるのか、それとも別の運命が待っているのか。この島は、来るべき嵐を前に、嵐の前の静けさという名の重圧に包まれていた。


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