将星たちの落日:泥濘と火の海を越えて 1
二人の将軍のサバイバルと陥落の瞬間
ホーランディアが「地獄の火の海」と化したあの日、連合軍の二人の司令官は、かつて経験したことのない凄惨な戦場の渦中にいた。
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クルーガー中将
「第6軍司令部」が戦艦『長門』の41センチ砲によって一瞬で瓦礫の山と化したとき、ウォルター・クルーガー中将は幕僚たちと共に、命からがらイファル山の司令部の地下壕の奥深くから這い出した。彼は諦めていなかった。残された唯一の希望である、通信機を備えた指揮車両へと飛び乗る。
「各部隊へ告げろ! まだ戦いは終わっていない、メインストリートで日本軍を食い止めろ!」
しかし、その絶叫がマイクを伝わった後に、空を裂く咆哮が再び響いた。上空を旋回していた日本軍の99艦爆が、その指揮車両を「最優先目標」として捉えていたのである。急降下と共に放たれた爆弾が車両の鼻先で炸裂し、爆風がクルーガーを車外へ叩き出した。炎上する車両を背に、彼は血にまみれた幕僚の手を借りて、再びジャングルの奥深くへと逃げ込むしかなかった。
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ケニー中将
一方、センタニ飛行場では、第5航空軍司令官ジョージ・ケニー中将が、爆炎のなかで仁王立ちしていた。
「一機でもいい、空へ上げろ! このまま地上で焼き殺されるつもりか!」
ケニーは自ら拳銃を空に放ち、パニックに陥ったパイロットや整備員を鼓舞し続けた。彼の超人的な奮闘により、数機のP-38が黒煙の滑走路を蹴って飛び立ち、一時的に日本軍の攻撃を阻んだ。しかし、そのささやかな抵抗も、新太平洋艦隊が開始した「絨毯艦砲射撃」によって粉砕された。「シュルシュルシュル――」という死の飛来音。直後、ケニーのわずか150メートル先で大口径の榴弾が爆発した。大地が跳ね上がり、凄まじい衝撃波が彼の意識を強引に奪い去る。長い気絶。彼が次に目を開けたとき、そこにあったのは米軍の誇り高き翼ではなく、アメリカ製のライフルを構え、冷徹な視線を送る日本軍特別陸戦隊の兵士たちの姿であった。
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ジャングルの亡霊と絶望の無線
意識を保ち続けていたクルーガー中将は、もはや「軍」を失い、一人の「生存者」だった。彼は幕僚に背負い式の無線機を担がせ、泥にまみれ、ヒルに噛まれながら密林の中を彷徨った。
「こちらクルーガー……応答しろ……誰かいないのか……」
熱帯の湿気に阻まれ、無線機からは砂嵐のような雑音しか返ってこない。彼が必死に繋ごうとした指揮系統の先には、すでに戦い終えて降伏したか、あるいは全滅した部隊しか存在しなかった。三日目の朝、密林の切れ間から見えたのは、かつての自分たちの基地に整然と並ぶ日本軍の戦車列であった。
「ウォルター、もう……終わりです」
幕僚の力ない言葉に、クルーガーは持っていた無線の受話器を静かに落とした。
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拘束:将軍たちの黄昏
潜伏していた茂みを、日本軍の捜索隊が包囲した。
「銃を捨てろ。すでに、この基地の戦闘は終結しつつある」
包囲を狭めた日本兵の指揮官は包囲の中心に敵の将校らしき人物をいるのを確認した。
「貴官らの抵抗は、旗下の兵士にとって、降伏の機会を失うことになる」
泥に汚れ、かつての威厳を失ったクルーガーは、ゆっくりと両手を挙げた。クルーガー達はトラックで収容所へと移送される、そこで、彼は先に捕虜となっていたケニーと再会する。頭に包帯を巻き、ベッドで虚空を見つめるケニーの手を、クルーガーは無言で握りしめた。彼らのサバイバルが幕を閉じた瞬間、ニューギニア戦線の趨勢が決した。
ニューギニア島のアメリカ軍の司令部が降伏したという情報は各地に届けられた。
1945年8月。信じがたい、そして決定的な報せが南太平洋の島々を駆け巡った。「ニューギニア方面アメリカ軍、無条件降伏」。その一報は、各拠点の司令部に戦慄と、耳を疑うような沈黙をもたらした。




