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待たせたな!  作者: 僧籍
第三部 戦線を押し上げろ!

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ニューギニア島急襲 ホーランディア上陸戦 6 『メインストリートの戦い』 1945年8月16日正午12時00分

挿絵(By みてみん)

在りし日のメインストリート


1945年8月16日正午12時00分


長門の41センチ砲弾によってイファル山の司令部は跡形もなく瓦礫の山と化した。しかし、アメリカ軍の指揮系統は完全には途絶えていなかった。猛煙が立ち込める司令部跡の裏手。偽装網に覆われた脱出口から、泥と煤にまみれた数名の男たちが姿を現しました。クルーガー中将と、数名の幕僚たちだ。


「……ケニーは無事か! 通信機を動かせ!」


クルーガーの叱咤に応え、通信兵たちがジャングルの奥に隠されていた移動式無線通信トラック(SCR-299搭載車)へと駆け込みます。彼らは主要施設を奪われながらも、この「動く司令部」を拠点に、かろうじて残存部隊への指揮を継続しようとしていた。


日本軍が通信施設の占拠を完了した直後、占領したばかりの受話器からノイズ混じりの英語が響いた。


「こちら『ゴースト』。各部隊、燃料基地があるデプパレ地区方面へ後退せよ。チクローブ山地の南側のメインストリートを最終防衛線とする……」


通信を傍受した日本軍の通信参謀が、即座に加治中将へ報告します。


「司令官、敵の指揮官は生存しています! 移動式の通信機を使い、ジャングルのどこかから命令を飛ばしているようです」


旗艦「長門」の艦橋で、加治は目を細めました。


「しぶといな。……だが、頭脳が逃げ回っていては組織的な反撃はできまい。堀切、水上観測機をさらに飛ばせ。電波の出所を突き止め、奴らの『動く司令部』をあぶり出すんだ」


「電波源を捕捉! 座標4-2-9、北の密林地帯だ!」


観測機からの報告を受け、快速を誇るM18「電光」の小隊が、唸りを上げてジャングルの未舗装路へと突入する。同時に、上空では支援待機していた九九艦爆が、密林の隙間に潜む通信トラックのアンテナを視認した。


「見つけたぞ、アメリカ軍の亡霊どもめ」


急降下爆撃の咆哮が、ジャングルの静寂を再び切り裂く。司令部ビルを失い、移動式通信機一つで綱渡りの指揮を執るクルーガーたち。その背後には、最新鋭の鹵獲戦車と、空からの精密な目が確実に迫っていた。ホーランディアの命運は、もはや分単位の猶予しか残されていなかった。


フンボルト湾とチクローブ山地を挟んだ反対側のタナメラ湾の港と燃料基地からホーランディアの心臓部、港湾施設とセンタニ飛行場を結ぶ物流の動脈――「メインストリート」

かつては2.5トントラックや兵士、軍需物資が絶え間なく行き交い、かまぼこ型兵舎や野戦病院、さらには映画館や娯楽施設までが立ち並ぶ、熱帯のジャングルに突如現れた異様な活気あふれる巨大補給都市であった。雲の隙間から差し込む強烈な陽光が朝の雨でぬかるんだ路面を照らす。皮肉にもアメリカ軍が心血を注いで整備した道路網は、いまや日米両軍の戦車が殺到するための、巨大な「決戦場」と化していた。


「全車、出力を上げろ! 突き進め!」


日本軍の第32軍・第9師団と海軍横須賀鎮守府第一特別陸戦隊を率いる2人の指揮官の号令とともに、日の丸を掲げた戦車群が、泥を跳ね上げながらメインストリートへと躍り出た。対するアメリカ軍も、瓦礫と化した立ち並らんでいたかまぼこ型兵舎や「野戦病院」の陰に身を潜め、執念の反撃を開始する。そこは、敵味方に分かれた同型機が殺し合う、残酷な鉄の決闘場であった。


---


M4「神官」vs M4シャーマン:鏡合わせの死闘


メインストリート。その広々とした道路のど真ん中で、戦車戦の常識を覆す光景が展開された。日の丸を冠したM4「神官」と、星条旗を掲げるM4シャーマン。全く同じシルエットを持つ鋼鉄の巨獣たちが、数平方メートルという至近距離で正対し、文字通りの「殴り合い」を開始したのである。


「右へ旋回! 敵の正面を外すな、叩き込め!」


日本軍車長の怒号とともに、「神官」がエンジンを爆発的に吹かした。雨上がりの路面をキャタピラが激しく噛み、七五ミリ砲が火を噴く。至近距離から放たれた徹甲弾が、アメリカ軍シャーマンの防盾を掠め、凄まじい火花と金属音を周囲に反響させた。対するアメリカ軍のシャーマンも、後退しながら即座に応射。かつての同胞であるはずの「神官」の車体に、無慈悲な一撃を叩きつける。装甲同士が激突し、削り取られた鉄の破片が地面に降り注ぐ。


互いに一歩も引かぬゼロ距離の砲撃戦。装填手の血の滲むような作業速度と、操縦手のミリ単位のハンドル操作が勝敗を分ける。未舗装だが転圧された道路ゆえの「高機動な格闘戦」は、建物が立ち並ぶ基地を、一瞬にして鉄臭い火薬の煙で埋め尽くしていった。


M36「雷轟」vs M36ジャクソン:大口径砲同士のアウトボクシング


アメリカ軍基地のキャンプとしての面影を残す娯楽施設や野戦病院。その「日常」を象徴する建物の残骸を舞台に、日米最強の「矛」が静かに、そして激しく激突した。日の丸を刻んだM36「雷轟」は、倒壊した映画館の瓦礫を遮蔽物とし、その長大な九〇ミリ砲を獲物へと向けた。オープントップの砲塔内で、日本軍の砲手は熱を帯びた照準器に目を押し当てる。


「……捉えた。撃てッ!」


重厚な咆哮とともに、九〇ミリ徹甲弾が放たれた。雨上がりの澄んだ空気を切り裂き、弾丸は一直線に敵陣へと吸い込まれる。対するアメリカ軍のM36ジャクソンも、崩れかけた野戦病院の白い壁を盾に、百戦錬磨の機動で応戦する。彼らにとって、自分たちと同じ破壊力を持つ「雷轟」の存在は、最大の脅威であった。


「ドォォォン!」という腹の底に響く砲声が交互に炸裂し、その衝撃波で周辺施設の窓ガラスがことごとく粉砕される。一撃が致命傷となるこの戦いにおいて、両者はコンクリートの壁を「盾」ではなく「目隠し」として使い、わずかな射線を見出した瞬間に死を送り込み合う。かつて負傷兵を癒した病院の壁が砲弾で削り取られ、娯楽を届けた劇場の看板が鉄塊となって降り注ぐ、未舗装の道路の上で、互いの位置を読み合う静寂と、すべてを破壊する轟音が交互に訪れる。それは、同じ血統を持つ駆逐戦車同士による、冷徹なまでの精密射撃戦であった。


M18「電光」vs M18ヘルキャット:高速のインファイト


雨上がりの道路を、死神たちが泥を巻き上げて疾走する。拠点に立ち並ぶ「かまぼこ型兵舎」の回廊を舞台に、日米最速の鋼鉄が火花を散らした。日本軍のM18「電光」は、その名の通り、道路を雷鳴のごときエンジン音で疾走する。対するアメリカ軍のM18ヘルキャットも、自慢の俊足を活かして兵舎の影から、獲物の背後を狙う。


「奴を逃がすな! 照準を合わせるな、感覚で叩き込め!」


互いに最高時速80キロに達する猛スピード。兵舎の列を縫うようにドリフトを決め、角を曲がるたびに七六ミリ砲が火を噴く。だが、あまりの速さに砲弾は建物を砕くだけに終わる。両者は戦車兵というより、武装したレーサーのような狂気でハンドルを切り、相手の視界から消えることに全神経を集中させていた。


一瞬の交差。


「電光」の車長が身を乗り出し、至近距離で重機関銃を掃射する。同時にヘルキャットの砲塔が猛烈な勢いで旋回し、紙のように薄い「電光」の側面装甲へ弾丸を送り込む。装甲の薄さを機動力で補い、先に捉えた方が勝つ。この「高速の決闘」において、メインストリートはただの通路ではなく、一瞬の判断ミスが死へと直結する、残酷なサーキット兼デスマッチのリングと化していた。



側面からの鉄槌:装甲歩兵の奇襲と空の眼


鉄壁の崩壊:トラック機動部隊の「横殴り」


メインストリートで日米の戦車隊が火花を散らす、その均衡を破ったのはジャングルの深緑を切り裂いて現れた日本軍の機動歩兵部隊だった。


「今だ、全車展開! 敵の横っ腹を食い破れ!」


整備された舗装路へ、凄まじいエンジン音と共に装甲トラックの列が躍り出る。それらはアメリカ軍戦車隊が意識を向けていた「正面」を完全に無視し、建物の隙間からその剥き出しの側面を突いた。


「無反動砲、機下! 照準、敵M36の砲塔基部!」


トラックの荷台から兵たちが飛び降り、流れるような動作で無反動砲を据え付ける。同時に、後続の車両からは重迫撃砲が次々と降ろされ、アスファルトの上でその黒い砲身を空へと向けた。


「てっー!」


鼓膜を震わせるバックブラストと共に、無反動砲弾が一直線に放たれる。正面からの砲撃には無敵を誇ったアメリカ軍のM36ジャクソンも、真横から飛び込んできた熱線と衝撃には無力だった。装甲の薄い車体側面が、内側から弾け飛ぶように火柱を上げる。さらに間髪入れず、重迫撃砲の榴弾が「雨」のようにアメリカ軍の陣地へと降り注いだ。


「どこからだ!? 側面にも敵がいるぞ!」


強固な建物の陰で待ち伏せをしていたはずのアメリカ軍戦車隊は、退路を断つようなこの正確な「横殴り」の攻撃に、瞬く間にパニックへと陥った。かつてのアメリカ軍基地のメインストリートは、日本軍の立体的な機動攻撃により、逃げ場の迷路へと変わり果てた。激しい戦火にさらされるメインストリートの上空。雨上がりの澄み渡った青空を背に、日本軍の零式水上観測機が、獲物を狙う鷹のように静かに円を描いていた。


遮るもののない高度から見下ろす基地は、まるで巨大なチェス盤だ。観測員は双眼鏡を固定し、道路を蠢くアメリカ軍の戦闘車両を冷徹に数え上げる。


「こちら観測機。敵M4中戦車約12、座標5-1-3、娯楽施設裏の広場に集結中。反撃の兆候あり。至急、地上部隊へ連絡せよ!」


この精密な敵情報告は、無線を通じて即座に沖縄方面第32軍第9師団と、海軍横須賀鎮守府第一特別陸戦隊が設置した「前線合同司令部」へと届けられた。司令部内では、泥と煤にまみれた地図を囲み、陸軍の精鋭と海軍陸戦隊の士官たちが、熱気と緊張感の中で指揮を執っていた。


「観測機より入電! 敵戦車隊、座標5-1-3に集結!」


報告を受けた指揮官が、即座に傍らのマイクを掴む。


「よし、観測機の言う通りだ。第9師団の『雷轟』を右翼へ展開させろ。横鎮の『電光』は裏に回り込んで逃げ道を塞げ。空から丸見えなんだ、お前らに隠れる場所など一箇所もありゃせんぞ!」


陸軍の重厚な組織力と海軍陸戦隊の精強な突破力。この二つの力が「天空の眼」によって一つに編み上げられ、日本軍の攻勢はもはや盤石、アメリカ軍を絶望の淵へと追い詰めていく。メインストリートの戦車戦が佳境を迎えるなか、空から日本軍第四航空隊、そして海軍機動部隊による、一分の隙もない波状攻撃が開始されたのである。先陣を切ったのは、日の丸をその身に刻んだP-47 サンダーボルトの編隊だった。


「全機、突入!アメリカ軍の車列を爆撃せよ!」


巨体を震わせ、高高度から一気に急降下。翼下のロケットランチャーから放たれた無数のロケット弾が、尾を引く煙と共にメインストリートを走るアメリカ軍の燃料輸送トラックや装甲車を直撃する。凄まじい爆発が連鎖し、整備されたアスファルトの上には、黒焦げになった軍用車両の残骸が積み上がっていく。続いて、雲を割って現れたのは、機動部隊が誇る精鋭、九九艦爆と九七艦攻の混成編隊だ。「キィィィィィィン――!」という耳を聾するダイブブレーキの咆哮。九九艦爆が、アメリカ軍が執念で維持していた長距離砲陣地へ向かって、垂直に近い角度で突き刺さる。解き放たれた250キロ爆弾は、寸分の狂いもなく砲床を粉砕し、大地を激しく震わせた。


九九艦爆による精密爆撃の熱波が冷めぬ間に、地を這うような低空から、鈍く光る巨大な翼が滑り込んできた。海軍機動部隊が誇る九七式艦上攻撃機の編隊である。今回の獲物は、柔な輸送船ではない。彼らが腹の下に抱いているのは、雷撃用の魚雷ではなく、厚いコンクリートをも貫く大型の対艦・対地用爆弾であった。


「目標、敵防御陣地! 全機、投弾始め!」


九七艦攻の編隊は、重厚なエンジン音を響かせながら、アメリカ軍が最後の拠点として構築した強固なトーチカ群や重砲台へと殺到した。水平爆撃の高度から解き放たれた巨大な鋼鉄の塊が、重力に従って一直線に敵の頭上へと突き刺さる。


ドォォォォォンッ!


一撃で大地を揺るがす凄まじい爆発。アメリカ軍の誇る分厚い防御陣地も、大型爆弾の圧倒的なエネルギーの前では耐えうるべくもなく、コンクリートの破片と共に空中に霧散した。爆炎は巨大な柱となって天を突き、青空を真っ黒な黒煙で塗りつぶしていく。


九九艦爆が「点」を穿ち、九七艦攻が「面」を更地にする。この無慈悲なまでの空中火力の連動により、ホーランディアを支えていた最後の牙は、根こそぎ叩き折られたのである。かつて南西太平洋の空を支配したアメリカ軍の補給基地は、皮肉にも自らの機体を含む日本軍の圧倒的な空中火力の前に、いまや逃げ場のない鉄の墓場へと変貌していた。


「瑞雲隊、全機突撃! 我らが母艦、伊勢、日向の威光を見せつけろ!」


さらに、沖合の航空戦艦「伊勢」「日向」から発進した水上爆撃機「瑞雲」の編隊が、戦場へ雪崩れ込んだ。急降下爆撃と空戦能力を兼ね備えた瑞雲は、敵の対空陣地を機銃掃射で沈黙させつつ、残存するアメリカ軍戦車へ向けて精密爆撃を敢行。地上部隊との完璧な連携を見せ、アメリカ軍の防御線を完全に粉砕した。空と陸からの圧倒的な火力の前に、アメリカ軍の組織的な抵抗は、ついに瓦解した。


「敵司令部、占領完了!」「燃料タンク施設、確保!」「通信施設、制圧!」「物資貯蔵倉庫群、完全包囲!」「センタニ湖周辺の飛行場を占領!」


日本軍の地上部隊は、泥まみれになりながらも重要拠点を次々と制圧。

新太平洋艦隊による精密な艦砲射撃と、上空での凄まじい空中戦が一段落した後のセンタニ飛行場。そこには、かつて南西太平洋の空を支配したアメリカ軍航空隊の、無惨な終焉が広がっていた。

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