ニューギニア島急襲 ホーランディア上陸戦 3 ホーランディア電撃戦 1945年8月16日午前6時
アメリカ軍航空隊は地上において「アイドリングで待機する」ところを「搭乗員は機体の傍らで待機し、命令後にエンジンを始動して発進する」様に変更しました。
ビアク島中心部の制圧を完了した日本軍は、一刻の猶予も置かずに次なる標的「ベースG」ホーランディアへの電撃戦を開始した。
再び、海軍気象部の天気予報と潜水艦隊の情報を分析した参謀による計算通りに発生した巨大な積乱雲、スコールラインへ突入した。
日本軍の新太平洋艦隊はニューギニア島沿岸部の荒れ果てた海を波を切って進んでいく。
複数の戦艦、最新鋭空母「葛城」「天城」を含む、この艦隊は、複数の戦列を組み、荒れる波を割りながら進む。雨に煙る水平線の先には、アメリカ軍の巨大な軍事拠点・物資集積地が眠っている。
占領を終えたばかりのビアク島航空基地からも、大型エンジンの低い連続する爆音が轟いた。
滑走路に並ぶのは、第四航空隊の零戦、隼、そして鹵獲機であるP-51 ムスタングとP-47 サンダーボルトだ。
これらの機体には、技術陣が開発した「新型添加剤入りガソリン」が満たされ、湿気に強い「新開発点火プラグ」が装備されている。熱帯の悪条件下でも一点の曇りもない咆哮を上げるエンジン。指揮官の発進指示とともに、一機、また一機と、ホーランディアを空から包囲すべく飛び立つ用意をして待機していた。
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1945年8月16日午前6時
スコールラインを越えて、ホーランディアを射程に収める海域まで接近した艦隊。天城の艦橋で、航空部隊司令官・真壁毅少将は静かに、確信を持って命じた。
「敵は航空基地にいる。地上に張り付いている今こそが勝機だ。――各部隊、発進開始。ホーランディアのアメリカ軍を撃滅せよ」
艦隊全体に鋭い発艦ラッパが響き渡る。
発艦直前、空母「葛城」の飛行甲板。風が吹き荒れ、波がかぶり、飛行甲板まで波しぶきが降りかかってきそうだ。
エンジンの暖気運転が混じり合う中、航空総隊長の浅岡中佐が整列した搭乗員たちの前に立った。
「諸君、聞け! 我々が向かうのは敵の心臓部だ。そこには数百の敵機が密集している。だが案ずるな。我々の機体には、新開発された添加剤が入った燃料と新プラグが備わっている! エンジンの不調に怯える日々は終わった。その全出力を叩きつけ、奴らが飛び立つ前に滑走路上で焼き払え! 今日、この空を旭日の色に染め上げるのは、我々だ!」
「「応ッ!!」」
訓示が終わるやいなや、搭乗員たちは一斉に自機へと駆け出した。
甲板上には、発艦順に整列した零戦、99式艦爆、97式艦攻、そして少数の精鋭・天山がアイドリングをしている。
「一番機、発艦始め!」
誘導員の鮮やかな手旗信号に従い、まずは制空を担う零戦がフルスロットルで加速を開始した。新開発の点火プラグが完璧な火花を飛ばし、添加剤が入った燃料が爆発的なパワーをシリンダーに送り込む。
一番機の零戦が、驚異的な短距離離陸で甲板を蹴り、空へと舞い上がった。続いて二番機、三番機と零戦隊が次々と発艦し、その後に爆弾を抱えた艦爆、大型爆弾を爆装した艦攻と天山が続く。
空母から発した海軍機と、ビアク島から発した陸軍機。ホーランディアに密集するアメリカ軍機300機を「動く前に葬る」ための、電撃侵攻が、ついにその幕を開けた。
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高度8000メートルの高空 アメリカ空軍 P-5
ホーランディアの巨大な物資集積地「ベースG」の静寂は、予期せぬ一報によって引き裂かれた。
ホーランディアから北西へ数百キロ。高度8000メートルの高空を、F-5(P-38の偵察型)が滑るように飛行していた。操縦桿を握るパイロットは、眼下に広がる広大な雲の海を凝視していた。
突如、雲の切れ間から「それ」が姿を現した。
「……何だ、あれは」
視界の端に、複数の白い航跡が刻まれている。荒波を切り裂き進む巨大な戦列が浮かび上がった。4隻の戦艦と2隻の空母と護衛艦隊の姿があった、新太平洋艦隊の全容である。
艦隊の先陣を切るのは、重厚な装甲に身を包んだ戦艦群だ。
巨大な艦首が荒れ狂う波を粉砕し、白く巨大な航跡を海面に刻み込む。数万トンの戦艦が35マイル (56km/h)近くで突き進むその様は、あたかも動く島嶼であった。三連装の巨大な主砲塔はホーランディアの方角をじろりと睨んでいる。
その戦艦たちが築く鉄壁の陣列に守られるようにして、最新鋭空母「葛城」と「天城」が、悠然と、かつ力強く海を奔っていた。
空母の長い飛行甲板は、打ち付ける雨を弾き飛ばしながら、次なる目標を屠るための戦闘機と攻撃機を空へと送り出し続けている。
パイロットは機首のカメラを操作し撮影しながら、無線で緊急発信を開始する。
「こちらフォックス1、緊急入電! 敵艦隊を発見! 位置は・・・・」
索敵機が司令部に入電を入れる前に先遣隊の零戦によって撃墜された。
F-5が機体をバラバラにしながら海に落下していく。その背後にはすでにビアク島から発進した日本軍の先遣隊が迫っていた。
一方、ホーランディアの沿岸に設置された最新鋭のSCRレーダーサイトでは、不気味な現象が起きていた。画面には巨大な光の塊が映し出されていたが、技術兵たちはそれを深刻に受け止めていなかった。
「またスコールか。これじゃ何も見えん」
猛烈な雨雲が電波を反射し、画面を白く塗りつぶしている。司令部への定時報告でも、「北西方向に大規模な積乱雲。敵影なし」という誤った情報が送られ続けていた。
しかし、数分後。スコールラインが移動し、画面のノイズが晴れた瞬間、技術兵の手が止まった。
「……おい、嘘だろ。スコールが過ぎたのに、反応が消えないぞ」
消えるはずの光点が、以前よりも鮮明に、そして驚異的な密度で画面に焼き付いている。それは「雲」ではなく、鋼鉄の塊が密集してこちらに殺到している証だった。
「待て、これは雲じゃない! 艦隊だ! 敵艦隊がすぐそこにいる!」
「何だと!? 司令部には『異常なし』と上げたばかりだぞ!」
「ミスだ! さっきのはスコールの反射に隠れた敵の本隊だったんだ! 早く、総司令部とセンタニ航空基地に繋げ! 特急だ! 敵襲、敵襲ーーッ!!」
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艦上雷撃機 天山のチクロープへの爆撃
ホーランディア攻略の主作戦が開始される直前、その勝敗を決定づける「索敵拠点の掃討戦」が展開された。標的地は、雲海に聳えるチクロープ山地(Cyclops Mountains)。そこにはアメリカ軍が誇る最新鋭の電探サイトと、周囲100キロを監視する観測所が設置されていた。
黎明の薄明かりの中、海面低く滑るように飛行してきたのは、数機の「天山」艦上攻撃機だ。雷撃機としてのイメージが強い天山だが、その腹の下には、今回は魚雷ではなく、厚いコンクリートを粉砕するための八〇〇キロ大型爆弾が吊り下げられている。
「目標、チクロープ山頂。電探アンテナを確認。全機、突入用意」
指揮官機の操縦士が静かに命じる。強力な火星エンジンが重厚な唸りを上げ、天山は急峻な崖をなめるように高度を上げた。
山頂のアメリカ軍観測員たちは、直前までその接近に気づかなかった。熱帯特有の霧を切り裂いて突如現れた敵機。天山の風防越しに、爆撃手が照準器に電探サイトを捉える。
「てーッ!」
解き放たれた八〇〇キロ爆弾が、重力に従って一直線に山頂へと突き刺さる。
一呼吸置いた後、チクロープ山地が根底から揺らいだ。
ドォォォォォォンッ!!
凄まじい爆風がレーダーアンテナを紙細工のように引き裂き、鉄筋コンクリートの観測所を火柱と共に空中へ霧散させる。爆炎は夜明け前の暗い山肌を真っ赤に染め上げ、アメリカ軍の「目」は完全に潰された。
爆発の衝撃波を背に受けながら、天山は機首を翻した。
八〇〇キロの重荷から解放された機体は、驚くほど軽やかに上昇を開始した。
「全機、命中を確認。これより帰還する。本隊への道は開かれたぞ!」
朝日に照らされた天山の翼が輝く。山頂を飲み込む黒煙を眼下に従え、少数の精鋭たちは青空へと突き抜けるように急上昇していく。
この直後、レーダーの沈黙したホーランディアへと、日本軍の主力航空団が「見えない死神」となって襲いかかる。チクロープを制した天山は、まさに勝利を呼び込む「先陣の稲妻」そのものだ。




