ニューギニア島急襲ーー南十字星作戦 スコールの影から襲撃 5 上陸部隊 1945年8月14日 午前5時
1945年8月14日 午前5時
ビアク島司令部 絶対的優位の終焉
ビアク島のアメリカ軍最高司令部内は、パニックを通り越した絶望に支配されていた。
「レーダーはどうした! なぜ直前まで捉えられなかった!」
「スコールの反射で何も見えませんでした! 敵は……敵は『タイフーンの中心』の中に潜んでいたんです!」
怒号が飛び交う中、地を揺らす激震が司令部を襲った。天井からコンクリートの粉が降り注ぎ、電灯が激しく明滅する。
彼らが「敗残の旧式艦隊」と侮っていた日本海軍は、いまや最新の電波兵器を自然の猛威で無効化し、圧倒的な「大砲」という暴力で彼らを文字通り叩き潰していた。
月光の下、嵐の去ったビアク島に響き渡るのは、勝者の凱歌ではなく、鋼鉄の巨砲による一方的な「破壊」であった。
南太平洋の夜明け前。「嵐の目」における圧倒的な艦砲射撃によってアメリカ軍司令部が沈黙した瞬間、作戦は最終段階である「南十字星作戦」第2段階へと移行した。
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「因幡乃白兎」艦隊の突入
水平線が紫色からだんだんと赤に変わり、夜空の暗闇が朝日によって空色に変わり始める頃、カリマンタン島から発進した「因幡乃白兎」艦隊の上陸用舟艇群が、スコールの残滓を振り払うように海岸線へ殺到した。
「突っ込め! 敵が混乱している今が勝機だ!」
水平線から押し寄せるのは、日本軍の大発動艇だけではなかった。その傍らには、フィリピン戦で接収した巨大な戦車揚陸艦が、巨躯を揺らしながら浅瀬へと乗り上げていた。
「門扉開け! 快速部隊、突撃せよ!」
戦車揚陸艦の巨大な艦首が左右に割れ、鋼鉄のタラップが砂浜を叩く。そこから地響きと共に躍り出たのは、アメリカ軍の最新鋭の駆逐戦車群であった。
M36・雷轟とM18・電光
揚陸直後、90mm砲を備えたM36と快速のM18が咆哮を上げた。ぬかるんだ砂浜をものともせず、その快速を活かしてジャングルの側道へ回り込む。アメリカ軍の生き残りが混乱の中で再編成を試みようとする防衛線を、これら接収兵器が寸断していく。
最新の防弾兵員輸送トラック
続いて、防弾キャビンを備えた強靭なトラック群が、砂煙を上げて上陸した。沖縄から転戦した第32軍第9師団と、海軍精鋭の横須賀鎮守府第一特別陸戦隊(横一特)を乗せた車両は、敵の散発的な機銃掃射を弾き飛ばしながら、最前線へと兵員を送り込んでいく。
M18・電光の蹂躙:
最初に揚陸したM18・電光が泥跳ねを上げ、時速60キロに近い快速で砂浜を駆け抜ける。ジャングルの入り口で迎撃準備を整えていたアメリカ軍のM4 シャーマン戦車が砲塔を回すが、その動作よりも早く、M18・電光は側面へと回り込んだ。
「撃てッ!」
車長の怒号と共に、76mm砲が火を噴く。側面を撃ち抜かれたシャーマンが爆発炎上し、その黒煙を切り裂いて、さらに奥地へと進む。
M36・雷轟の狙撃
海岸から数百メートル進んだ地点では、コンクリートで固められたアメリカ軍の防御陣地が、12.7mm重機関銃の濃密な弾幕を張っていた。第9師団の歩兵たちが泥濘に身を伏せ、足止めを食らう。
「雷轟を前へ出せ! あの穴を黙らせろ!」
歩兵の要請に応え、長大な砲身を持つM36・雷轟が泥を蹴立てて現れた。90mmが、じりじりと防御陣地の銃眼に狙いを定める。
アメリカ軍の歩兵部隊は、目の前に現れた「味方の形をした怪物」に混乱した。「撃つな、味方だ!」という悲鳴のような叫びは、M36が放つ90mm徹甲弾の衝撃波にかき消された。
ドォォン!
正確無比な一撃が防御陣地の銃眼を貫通し、内部で弾薬が誘爆。強固なコンクリートの塊が内側から弾け飛び、沈黙した。
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アメリカ軍 第3防御陣地
「撃つな! 味方だ! 射線を下げろ!」
ビアク島ジャングル地帯の入り口、コンクリートで強固に固められた第3防御陣地の内部は、狂乱の怒号に満たされていた。ブローニング12.7mm重機関銃の放熱筒が吐き出す熱気と硝煙で、視界は白く霞んでいる。
銃眼の向こう、砂浜の煙を切り裂いてぬかるみを突進してきたのは、見紛うはずもない我がアメリカ軍のM36駆逐戦車だった。だが、その砲身は真っ直ぐにこの防御陣地へと向けられている。
「馬鹿言え! 奴らの後ろを見ろ! 日本人だ!」
分隊長のミラー軍曹が叫んだときには、すべてが遅すぎた。M36――日本軍が『雷轟』と呼ぶ怪物の長大な90mm砲が、一瞬、ギラリと朝日に光った。
――ズ、ドォォォン!!
世界が反転した。
正面の銃眼から飛び込んできた90mm徹甲弾の衝撃波が、狭い防御陣地の内部を爆圧で満たした。耳を潰す轟音と共に、据え付けられていた重機関銃が千切れて跳ね上がり、装填手たちの身体を容赦なく押し潰す。背後に積まれていた予備弾薬箱が連鎖爆発を起こし、強固なコンクリートの壁が内側から粉々に弾け飛んだ。
隣の第2防御陣地にいたウィリアム中尉は、爆風を感じながら、崩落する第3防御陣地の凄惨な光景を凝視していた。
「第3がやられた! なんてことだ、奴ら、俺たちの戦車を乗りこなしていやがる!」
銃眼から見える砂浜からは、防弾キャビンを備えた日本軍のトラックから、泥にまみれた第9師団の歩兵と海軍横一特の精鋭たちが次々と飛び出し、散開して迫ってきていた。背後からは時速60キロで突進してくるM18『電光』の走行音が響く。防衛線は完全に崩壊しかけていた。
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「持ちこたえろ! 諦めるな、増援が来たぞ!」
絶望がジャングルを支配しようとしたその時、背後の防衛側道から、凄まじいエンジンの咆哮が響き渡った。
割れるようなジャングルの樹々を押し倒し、姿を現したのは、ビアク島後方陣地から急行してきたアメリカ陸軍第41歩兵師団の部隊だった。
先頭を切るのは、3両のM4A3シャーマン戦車。さらに、トラックの荷台から飛び降りたM1バズーカを担いだ歩兵小隊が、泥を蹴立てて展開していく。
「敵は我が軍の兵器を接収している! 躊躇するな、迷わず撃て!」
先頭のシャーマンの車長が叫ぶ。その視線の先では、日本軍のM18『電光』が側面から回り込もうとしていた。
「方向右、敵M18! 徹甲弾、撃て!」
シャーマンの75mm砲が火を噴いた。放たれた砲弾は、泥を跳ね上げて走るM18の防盾を直撃する。M18は元々、快速を得るために装甲を極限まで薄くした駆逐戦車だ。身内の弱点を知り尽くしたアメリカ軍の一撃は、M18の薄い側面装甲を容易に撃ち抜き、内部のガソリンタンクを吹き飛ばした。
――ドガァァン!
炎上するM18『電光』の残骸を回り込み、今度はアメリカ軍の歩兵たちがジャングルの木陰からバズーカ砲を構える。
「あの90mmを狙え! 装甲は薄いぞ!」
前進を続けようとしていたM36『雷轟』の、装甲のない剥き出しの砲塔に弾体が炸裂する。激しい爆発が『雷轟』の戦闘室で巻き起こり、内部の日本軍搭乗員たちが吹き飛ばされる。
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「よし、このまま押し潰せ! 日本軍にはもう対戦車兵器は――」
アメリカ軍のM4A3シャーマン戦車の車長がハッチから身を乗り出し、前進を命じたその瞬間だった。ジャングルの下草が激しく揺れ、海軍横一特の兵士たちが飛び出してきた。
「おい、嘘だろ……あれは『M1バズーカ』だ!」
シャーマンの操縦手が絶叫した。日本軍の兵士たちが肩に担いでいたのは、かつてフィリピン戦線で彼らが大量に接収した、アメリカ軍自身の対戦車ロケット砲だったのだ。
「側面だ! 回避――」
――シュパァァァン!!
金属的な鋭い発射音と共に、ロケット弾が白煙の尾を引いて殺到した。日本兵の照準は正確無比だった。シャーマンの比較的薄い側面装甲に直撃した成形炸薬弾は、超高温のメタルジェットとなって内部の戦闘室を貫通。車内に牙を剥いた炎が、一瞬にしてアメリカ軍の戦車兵たちを焼き尽くした。
身内の兵器で次々と側面を撃ち抜かれ、星条旗の戦車群が炎の塊へと変わっていく。
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アメリカ軍の増援歩兵部隊が、戦車の影からジャングルの斜面へと散開し、包囲を試みようとした。しかし、日本軍は彼らの予測を上回っていた。
砂浜から泥を跳ね上げて突入してきた、日本軍の防弾兵員輸送トラックの群れ。その数台が急ブレーキをかけ、停止すると同時に、牽引してきた重迫撃砲へ砲兵が荷台から降りて発射準備を開始する。
「荷台を見ろ! 奴ら、何を積んでやがる!?」
アメリカ軍の歩兵たちが目を見開いた。そこには重迫撃砲があった。
「撃てッ!!」
――ポォォォン! ポォォォン! ポォォォン!
独特の鈍い金属音が連続して響き、不気味な放物線が空に描かれた。通常の歩兵が陣地を組んで放つ迫撃砲ではない。トラックの機動力を活かし、最前線に直結した瞬発的な重火力だった。
数秒後、ジャングルの斜面に展開していたアメリカ軍の歩兵小隊や、後方に控えていた非装甲の補給トラック、ジープの群れの上に、鋼鉄の雨が容赦なく降り注いだ。
――ドガガガガガガァァァン!!!
凄まじい連続爆発が、大地を、樹々を、そして生身の人間を容赦なく引き裂いた。爆風によって非装甲のジープがひっくり返り、ガソリンが引火して炎上する。塹壕に入る暇さえなかったアメリカ軍の歩兵たちは、四方八方から降り注ぐ高威力の破片に晒され、文字通り防衛線ごと消し飛ばされていった。
「退け! 遮蔽物のない場所に留まるな! 砲撃が来るぞ!」
無線機から響く悲鳴は、次々に着弾する重迫撃砲の轟音にかき消されていく。
肉薄攻撃という前時代の戦術を捨て去り、接収したバズーカと機動重迫撃砲という「最も効率的な火力」を組み合わせて押し寄せる日本軍の前に、アメリカ軍の増援部隊は、自らの兵器の性能に裏切られながら、ビアク島の深い泥濘の中へと瓦解していった。
重迫撃砲は牽引式に変更しました。




