ニューギニア島急襲ーー南十字星作戦 スコールの影から襲撃 4 砲撃は戦場の女神 1945年8月14日 午前4時
1945年8月14日 午前4時
砲撃は戦場の女神 音速を超える破壊の連鎖
ビアク島。米軍にとっての「絶対的な安全圏」は、その夜、地獄へと姿を変えた。嵐が去り、不気味な静寂が島を包み込んだ直後、アメリカ将兵たちが目撃した光景を、それぞれの視点から追う。
軍港の桟橋で歩哨に立っていたエドワード上等兵は、雨上がりの湿った空気の中で安堵の溜息をついていた。先ほどまでの猛烈なスコールが嘘のように凪いでいる。
その時、眼前の駆逐艦の側面に、突如として巨大な「穴」が生じた。
鋼鉄の艦腹が目に見えぬ巨人の拳に殴られたかのように、内側へ向かって激しくひしゃげ、数瞬後に火柱が噴き上がった。エドワードの鼓膜を「ドォォォォン!」という雷鳴を遥かに凌駕する重低音が突き抜けたのは、その直後のことだった。
エドワードに意識はここで途絶えた。
「……敵襲! 艦隊だ!」
別の歩哨の叫び声は、次の着弾音にかき消された。隣に停泊していた軽巡洋艦の甲板に、重巡「利根」「青葉」、そして「酒匂」から放たれた20センチ砲弾、15センチ砲弾が正確無比に突き刺さる。係留されたままの軍艦は、反撃の暇もなく次々と穴だらけのスクラップへと変わり、弾薬庫の誘爆が夜の海を真紅に染め上げた。
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静寂を切り裂く「死の照明」
モクメル飛行場の滑走路脇で、守備隊のジョセフ軍曹は空を見上げていた。嵐が止み、雲の切れ間から覗く月光が美しかったからだ。
だが、その月明かりの中に、「奇妙な影」が浮かんでいた。
低速で旋回する航空機の影。米軍の機体ではない。それは、日本艦隊が放った零式水上観測機であった。機影がパッと鮮烈な吊光弾を投下した瞬間、漆黒の滑走路が真昼のような白さに晒された。
「何だ、あれは――」
その言葉が終わる前に、空が割れた。
シュルシュルシュル――ッ!
空気を切り裂く異様な風切音が降り注ぎ、次の瞬間、頭上で巨大な火輪が炸裂した。戦艦部隊から放たれた三式弾だ。数千の焼夷弾子が雨あられと降り注ぎ、駐機場で整列していたP-38LやB-24、航空機倉庫がまたたく間に炎の海に沈む。航空基地司令部施設も被害が出ている。
「消火班、急げ! 3番格納庫のB-24を引っ張り出せ!」
爆風と叫び声の中、整備兵のロバート伍長は、燃え盛る滑走路をがむしゃらに走っていた。彼の視界の先では、つい先ほどまで整然と並んでいたP-38L ライトニングの双胴の機体が、三式弾の放った焼夷弾子に包まれ、どろどろとアルミの塊へ溶け落ちていた。
息をつく暇もなかった。
――ズザザザザザザン!!!
間髪入れずに降り注いだ第二波は、主砲からの榴弾だった。音速を超えて飛来する鉄の塊は、大気を引き裂く咆哮とともに、出撃を待っていたB-25 ミッチェルの群れのど真ん中に突き刺さった。
強烈な衝撃波がロバートの身体を数ヤードも吹き飛ばす。地面に叩きつけられた彼の耳に届いたのは、爆弾や高揮発性ガソリンに誘爆したB-25が、断末魔のような大爆発を起こす音だった。機体破片や強烈な爆風が、消火器を手に対処しようとしていた仲間たちの身体を容赦なく切り刻み、巻き込んでいく。
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司令部の崩壊と将官の絶望
「全機、地上で全滅する気か! 動かせる機体から順に離陸させろ!」
航空基地司令部の指揮所内は、通信兵の怒鳴り声と、激しく揺れる灯火でパニックに陥っていた。基地司令のハリソン准将は、防弾ガラス越しに真っ赤に染まる飛行場を見つめ、血の気の引いた顔で立ち尽くしていた。
机上の無線機からは、混線した悲鳴が絶え間なく吐き出されている。
『こちら第5駐機場!待機中の複数のP-47Dが誘爆! 整備兵が全員巻き込まれました!』
『管制塔がやられた! 誘導は不可能です!』
『MEW(AN/CPS-1)のレーダーアンテナが破壊された!』
ビアク島のレーダー基地はモクメル飛行場の近辺に整備されていた。
「准将、退避を!」
副官が叫び、ハリソンを床に引きずり下ろした瞬間、司令部施設の屋根を巨砲の直撃が貫いた。
コンクリートの壁がガラス細工のように粉砕され、轟音とともに瓦礫の雨が降る。壁に設置されていた機械は火花を散らして沈黙し、同じ施設にあった第338レーダー局のレーダー表示装置や機械、電源も破壊される。机の上の海図は司令官たちの血で赤黒く染まった。350機という圧倒的な航空戦力が、空へ飛び立つことすら許されず、地上の檻の中で一方的にすり潰されていく。将官たちにできることは、ただ頭を抱えてその破壊の連鎖に耐えることだけだった。
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滑走路の端では、一般兵や生き残った整備兵たちが、地獄と化した駐機場から必死の脱出を試みていた。
しかし、戦戦恐々とする彼らの頭上に、さらなる巨弾が容赦なく襲いかかる。重巡洋艦や戦戦からの砲撃は、1発ごとに数個の防空壕を完全に消滅させ、地面をクレーターだらけに変えていった。
「うあああ! 足が、足が!」
爆風で跳ね上がったB-24 リベレーターの巨大な主翼が、逃げ惑う兵士たちの上へと容赦なく降り注ぐ。ガソリンタンクから噴き出した火だるまの燃料が、川のように滑走路を流れ、防空壕の中へまで流れ込んでいった。
真昼のように照らし出されたモクメル飛行場は、もはや近代的な航空基地ではなかった。そこは、音速の爆風の破壊に晒され、金属と人間が区別なく焼かれていく、巨大な阿鼻叫喚の地獄へと変わり果てていた。
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鋼鉄の雨と兵站の崩壊
「ハリケーン」タスクフォースのキャンプ地では、深夜から兵士たちが泥濘の中で怒号を上げながら、浸水した弾薬箱の引き揚げや、強風で倒壊した天幕の立て直しに追われていた。暗闇の中、手元の懐中電灯が雨上がりの湿った空気を白く照らす。
弾薬や食料が水浸しになると戦闘継続が困難になるため、必死に排水溝を掘る。
嵐で切断された前線との電話線を繋ぎ直す作業。
ぬかるみでタイヤが埋まるのを防ぐため、より固い地面へ車両を移動させる。
作業を続けてしばらくすると、夜明け前になって、急に嵐がやんだ。
彼らにとって、この嵐は「最悪の自然災害」であり、その向こう側に「敵」が潜んでいるなどという想定は、疲労困憊の頭の片隅にもなかった。
雨や泥でドロドロになった指揮官が指揮所に戻ってきた時、無線機から複数の監視所から日本軍から攻撃を受けている、と叫んでいる報告を受けた。指揮官は情報の確認をしようと司令部に問い合わせようした。
その時、水平線の彼方が、音もなく「カッ」と白く光った。
「……雷か?」
一人の兵士が顔を上げた。だが、それは雷にしてはあまりにも規則正しく、かつ強烈な光だった。数秒後、キャンプ地の中心部で巨大な土柱が噴き上がった。
ドォォォォン!!
続いて、戦艦から放たれた大口径弾の風切音が、遅れて空を切り裂く。
「砲撃だ! 伏せろ!」
叫んだときには、並べられていたトラック群が爆風で木の葉のように舞い上がり兵士や、装甲車両、物資の集積所、建物が次々と被害を受けている。日本艦隊の夜間水上観測機が放つ吊光弾が、泥にまみれて逃げ惑うアメリカ兵たちの姿を、残酷なほど鮮明に照らし出していく。
M4 シャーマン中戦車とM3グラントの部隊の隊員が必死になって砲撃地点から動かそうとしているが次々と降ってくる砲撃で全くできない。
さらに、日本艦隊は索敵機からアメリカ軍の後方に陣取る105mmおよび155mm榴弾砲の大規模な陣地を発見の報告を受けて、上陸軍の最大の脅威となりうる砲撃陣地に砲撃を開始する。砲撃陣地では日本艦隊と上陸部隊に攻撃をしようと準備を開始していたが、そこに日本艦隊の砲撃が連続して打ち込まれる。大量の榴弾によって、まず、爆風で地上の兵士が断片になって吹き飛び、塹壕に隠れている兵士も直撃で潰れていく。105mmおよび155mm榴弾砲も次々と破壊されていき、阿鼻叫喚の情景だけがその地に残る。
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ビアク島の砲兵たちの断末魔
上空で不気味に静止する吊光弾の白光が、キャンプ地を引き裂く炎と泥を無慈悲に照らし出していた。
「通信を繋げ! 砲兵陣地に連絡しろ、早く!」
泥まみれの指揮官が怒号を上げるが、通信兵が受話器を耳に当てた瞬間、再び大気を引き裂く咆哮が轟いた。しかし、その轟音はキャンプ地の手前で炸裂することはなかった。音速を超える巨弾の群れは、指揮官たちの頭上を狂った風のように通り抜け、さらに数キロ後方――タスクフォースの生命線である、重砲兵陣地へと向かって突き抜けていった。
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「方向0-2-5、敵砲兵陣地を発見。105ミリおよび155ミリと思われる重火砲多数。即座に制圧を乞う」
雲の切れ間に潜む零式水上観測機から、電文が日本艦隊へと打電された。洋上の艦隊は、その巨大な砲身を、アメリカ軍が絶対の防壁と信じていた後方陣地へと一斉に向けた。
その頃、後方の砲兵陣地は、前線からの悲鳴のような無線を受けて大混乱に陥っていた。
「全門、射撃準備! 敵艦隊および上陸予想地点へ向けて照準を合わせろ!」
胸を突くような硝煙の臭いの中、砲兵たちはぬかるむ泥に足を足られながら、M1 155mm榴弾砲の巨大な砲尾に砲弾を装填しようと必死になっていた。これが稼働すれば、接近する敵を海へと叩き落とせる。彼らはそう信じていた。
だが、彼らが最初の引き金を引くより早く、日本艦隊の砲撃が容赦なく降り注ぐ。
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――ズガガガガガガガシャァァァン!!!
第一波の着弾は、陣地の中心部だった。戦艦の主砲から放たれた数百キログラムの徹甲榴弾が、防護土塁もろとも地面を数メートルも穿ち、爆発した。
凄まじい衝撃波と超高温の爆風が、一瞬で周囲のすべてを消滅させた。装填作業中だった兵士たちは、悲鳴を上げる暇さえ与えられず、肉体が一瞬で千切れた断片となって夜空へと吹き飛ばされた。飛び散った肉片と鉄クズが、文字通り血の雨となって周囲に降り注ぐ。
「塹壕へ逃げろ! 伏せろ!」
生き残った兵士たちが必死に泥の溝へと飛び込んだ。しかし、降り注ぐ砲撃は連続して、執拗に続いた。次の一発が塹壕の真上に直撃する。凄まじい土圧と爆圧が、防空壕を芋虫のように押し潰した。内部に隠れていた兵士たちは、大量の土砂と押し潰された丸太の下敷きになり、骨を砕かれ、生きたまま泥の中に埋め殺されていった。
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「1番砲、大破! 弾薬庫が――」
叫び声は、言葉の途中で巨大な火球に飲み込まれた。
陣地内に並べられていた105mm榴弾砲の弾薬箱に火が回ったのだ。砲弾が次々と連鎖誘爆を起こし、周囲に凄まじい金属片の嵐を巻き起こす。
頑強なはずの155mm榴弾砲の砲身が、巨弾の直撃を受けて飴細工のように真っ二つにへし折れ、自重でひっくり返った。その下敷きになった整備兵たちの絶叫が、煙の中に消えていく。
かつてアメリカ軍の誇りであった大規模砲兵陣地は、今や見る影もない。そこにあるのは、ひび割れた大地、へし折れた砲身、そして泥と血にまみれて息絶えた兵士たちの姿だけだった。日本艦隊の圧倒的な火力の前に、反撃は完全にへし折られ、その地にはただ、炎に包まれた阿鼻叫喚の地獄絵図だけが残されていた。




