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待たせたな!  作者: 僧籍
第三部 戦線を押し上げろ!

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ニューギニア島急襲ーー南十字星作戦 スコールの影から襲撃 1 1945年8月13日 午前11時

1945年8月13日 午前11時

灼熱の太陽が照りつける南太平洋上に複数の艦艇が波を切って進んでいく。


新・太平洋艦隊総司令官・加治中将は、ニューギニア島北岸のアメリカ軍拠点群へ侵攻を開始する。これは単なる基地の奪還ではない。東南アジア、マリアナ諸島のアメリカ軍を締め上げる作戦である。

目的は2つ、第一にマリアナ諸島の基地、ソロモン諸島マヌス島の基地、ニューギニア島内の各基地、ホーランディア、ラエ、ポート・モレスビーの補給と連絡を立つこと。第二にソヴィエト軍征伐のために東南アジアの脅威であるアメリカ軍を排除することである。


主任参謀・堀切大佐は、旗艦「長門」の作戦会議室にて、巨大な地図を指し示した。


「現在、我々の海上交通路を脅かす最大の懸念は、ビアク島のアメリカ空軍基地だ。ここを放置すれば、ブルネイ帝国および南方の資源地帯から内地への補給線は脅かされる」


堀切の指揮棒が、さらに東へと動く。


「そしてホーランディア。かつてマッカーサー将軍がフィリピン戦で敗れ、捕虜となった後も、アメリカ第6軍はこの地を心臓部として維持している。ここを叩き、指揮系統を完全にマヒさせる。さらにその巨大倉庫群は日本各地の都市を爆撃していたB-29部隊の弾薬・燃料供給を一手に引き受ける、戦略爆撃の生命線だ」


「つまり、この三点を粉砕すれば、敵の空からの攻撃は物理的に停止するということだな」


加治中将の問いに、堀切は深く頷いた。


「索敵の索敵線の密度を高めると同時にアメリカ軍の目を潰して、こちらの動きを悟らせるな」


作戦会議室のすべての将官たちがそれに答える。

『ハッ!』



---


空母「葛城」「天城」の格納庫には、出発前に日本全国からかき集められた、歴戦の機体たちが並んでいた。長年の実戦を潜り抜けてきた零戦、開戦時より使われている九九艦爆、そして熟練の雷撃隊が信頼を置く九七艦攻。さらに少数の最新鋭機天山が点検を受けていた。

これらの航空機は整備員によって点検後、嵐の中でも動かないようにワイヤーと緊締具で係留される。



艦隊出撃前に遡る


海軍岩国飛行場 飛行場全体を見渡せる滑走路脇の指揮所。


空母「葛城」「天城」の飛行甲板へ登る前、全隊員はこの指揮所に集まり、気象、敵情、攻撃目標の最終確認を行っていた。航空総隊長・浅岡中佐は、並び立つ男たちの前をゆっくりと歩き、一人一人の目を真っ直ぐに見つめながら言葉をかけていた。


そこには、数々の死線を潜り抜けた熟練兵たちと、猛訓練によって一瞬の隙もない空戦技術を叩き込まれた若き予科練生たちがいた。いや、彼らをもう「予科練生」などという未熟な言葉で呼ぶ者は、この基地にはいない。誰もがその佇まいに、兵士としての風格――「操縦士」としての覇気を宿らせていた。


「皆、よく聞け」


浅岡中佐の声が、指揮所の壁に低く響いた。彼の背後には、ビアク島とホーランディアを赤線で囲んだ作戦地図が掲げられている。


「今回の作戦は、我が水上艦隊による奇襲・電撃戦が前提だ。だが、戦場に『絶対』はない。万が一、艦隊の進撃が遅れるか、あるいは敵に察知された場合――その時は、我々航空隊がすべてを背負うことになる」


浅岡の指揮棒が、敵の航空拠点群を激しく叩いた。


「敵の総数は推定350機。 P-38L、P-47D、B-24、B-25。あらゆる新鋭機が我々を待ち受けている。もし艦隊の砲撃が間に合わなければ、お前たちはその圧倒的な物量を誇る敵空軍を相手に、防空網のただ中で大撃戦を挑み、これをねじ伏せねばならん。生半可な覚悟では、生きてこの日本の空に帰れんぞ」


350機という絶望的な数字が突きつけられた。しかし、指揮所の中に動揺の気配は微塵もなかった。


列の若き一角に立つ、佐藤一飛曹は静かに拳を握りしめていた。ほんの数ヶ月前まで、彼は「特攻予定者」として、ただ死ぬための日を待つだけの存在だった。しかし、新生・日本海軍が彼に与えたのは、爆弾を抱えて体当たりするための飛行爆弾の操縦士ではなく、最高の整備を施された零戦の操縦桿と、「生きて戦え」という命令だった。

(350機が何だ。俺たちは死にに行くわけじゃない。この命がある限り、鍛え上げられたこの腕で敵を叩き落とすだけだ)

佐藤の瞳には、かつての悲壮感はなく、ただ純粋な闘志だけが燃えていた。


その佐藤の視線の先、一歩前に立つのは百戦錬磨の熟練操縦士、志藤飛行兵曹長だった。志藤は愛用の飛行帽を深く被り直し、不敵な笑みを浮かべた。長年の戦経験が、彼の肉体に「空中での生き残り方」を完全に覚え込ませている。


「佐藤、怖気づくなよ」志藤は声に出さず、視線だけで若き操縦士に告げた。彼は常日頃から若い操縦士達に言っていた「敵が何機いようが、奴らには負けない。俺たちの『技』と、地獄の訓練で培った『連携』があれば、一糸乱れぬ陣形でいくらでも食い破れる」


佐藤は小さく頷き、志藤の背中に絶対的な信頼を寄せた。熟練の「技」と、若き操縦士たちの爆発的な「力」。それらが互いを補い合い、一つの部隊として完成していく。


「我らの目の前の敵を撃滅し、生きて次の戦場へ向かうのだ。この戦いは、我が艦隊、そして我ら航空隊の試金石である!」


浅岡中佐の激しい叱咤が飛ぶと同時に、搭乗員たちは一斉に敬礼を捧げた。その瞬間、彼らの心は一つに結ばれていた。新型ガソリンで咆哮を上げる零戦、九九艦爆、九七艦攻、そして天山とともに、彼らは南太平洋の空を完全に支配し、アメリカ軍をその力と技、そして固い連携によって打ち砕くことを誓ったのだった。


---


海面下では、梅本少将率いる潜水艦隊が先行。伊号潜水艦の群れは、マリアナ諸島やニューギニア周辺で索敵と敵輸送艦隊の排除を主任務として潜航している。

先日は《帰還艦隊》所属の《伊403号》が索敵行動中のグアム艦隊所属の大型空母を撃沈している。


水上では、戦艦「長門」「榛名」を中核とし、航空戦艦「伊勢」「日向」、重巡「利根」「青葉」を配した強力な打撃部隊が展開。そして、強力な駆逐艦群がさらに囲む。彼らは基地航空隊の分厚い防空圏内に身を置きながら、グアムのアメリカ軍の索敵に捕らわれることなく作戦開始地点へと移動を開始した。


「敵の物量は無限ではない。供給元を断てば、軍隊はただの鉄屑だ」


新・太平洋艦隊。かつて敗残の烙印を押された艦隊と、全国から集められた歴戦の操縦士たちが、いま、歴史を逆転させるための戦いのために、南の空と海へと解き放たれようとしていた。


南太平洋における戦略的要衝、ビアク島のアメリカ軍はかつてない転換点を迎える。

かつて、オーストラリアからの定期船団によって支えられていた強固な兵站線は、オーストラリア軍の敗北と撤退により、今や完全に瓦解している。さらに、神出鬼没の《潜水艦隊》による熾烈な通商破壊作戦が、アメリカ本国から届くはずの増援輸送船団を次々と深海へと葬り去っている。

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