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待たせたな!  作者: 僧籍
第一部

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鉄の回廊――パナマ電撃接収作戦 9-4 二式大艇改輸送型「晴空」特殊部隊夜間降下作戦 ガトゥン閘門 ガトゥン・ダム

 続けて大平洋側も青鬼隊に制圧されたとの報告も入る。


 同刻——ガトゥン・ダム/ガトゥン閘門 青鬼隊


 マデン・ダムが落とされたその瞬間、カリブ海側に位置する大西洋の要衝「ガトゥン・ダム」および「ガトゥン閘門」上空でも、青鬼隊一五〇名を乗せた「晴空」5号〜8号機が超低空で侵入を果たしていた。


 ガトゥン地区は、パナマ運河の管理・運用を担う重要拠点でありながらも、一歩街を外れれば豊かな熱帯の密林に囲まれた素朴で静寂な土地であった。人工の光害など存在せず、月すら出ていないこの新月の夜、世界は息をのむような濃密な「漆黒」に包まれていた。


 高度を限界まで下げた「晴空」の機体は、夜の闇と同化し、エンジンの低音を熱帯の夜風に紛れさせて滑空する。地上のアメリカ軍警備隊は、太平洋側の襲撃の報すら未だ届かず、大西洋側のこの静かな田舎町に空から敵が降ってくるなど夢にも思っていなかった。対空機銃座の兵士たちも、深い暗闇の中であくびを噛み殺しているに過ぎない。完全な無警戒であった。


「降下! ガトゥンをアメリカの自爆から死守せよ!」


 暗い機内で緑のランプが静かに点滅すると同時に、青鬼隊の隊員たちが次々と夜空へ躍り出た。


 一発の対空砲火も上がらない無音の夜空。傘が開くわずかな布擦れの音だけが風に溶け、一五〇名の影が吸い込まれるように黒々とした地表へ着地していく。ガトゥン地区はパナマ運河最大の水量を誇る人造湖を抱え、ここを破壊されれば運河全体が機能不全に陥る最重要防衛線。だが、その心臓部は今、一筋の警報すら鳴らぬまま日本軍の足元に晒されていた。


 地上へ着地した青鬼隊の第五・第六・第七・第八小隊は、一寸先も見えぬ暗闇の中で互いに低い口笛の暗号を交わし、手探りで迅速に小隊を編制。五式自動小銃(特空型)を抱え、闇を滑るようにしてガトゥン・ダムの水門操作室と巨大な三段式閘門の制御タワーへと肉薄した。


「……突入!」


 隊員の一人が低く囁くと同時に、制御タワーの警備室へ手榴弾が放り込まれた。


 ズドォォンッ!


 暗闇を切り裂く突発的な爆風と光。何が起きたかも理解できずパニックに陥るアメリカ軍の防衛線を、隊員たちは五式小銃のサイレンサー越しのフルオート掃射で一気に突破。青鬼隊は制御タワーの心臓部へとなだれ込んだ。


 室内では、爆音に驚いたアメリカの士官が狂ったように自爆装置のスイッチへ手を伸ばそうとしていた。しかし、それよりも早く、漆黒の闇から飛び出した隊員の着剣小銃が突き出された。


 冷たい鋼の刃が士官を貫き、床に倒れ込んだ男の手から自爆用スイッチボックスの鍵が落ちて転がった。


「自爆回路、遮断! ガトゥン閘門、ガトゥン・ダム共に完全確保!」


 太平洋側のマデン・ダム、そして大西洋側のガトゥン・ダムの占拠の完了。


 漆黒の夜において、敵に察知されることすらなく遂行された完全なる隠密降下作戦。極限まで研ぎ澄まされた人間の鍛錬と、技術によって生まれ変わった近代火器の圧倒的な威力が、アメリカの誇るパナマの心臓部を、一滴の無駄な血も流すことなく、完璧な「無傷」の状態で日本軍の手に渡った瞬間である。


「旗艦のロッキー・マウント、狡噛司令官に報告。ミラフローレス閘門、マデン・ダムとガトゥン閘門、ガトゥン・ダムを制圧完了しました」


「了解した、よくやった!各自、そのまま防御陣を作り、制圧地点を守れ!」

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