鉄の回廊――パナマ電撃接収作戦 9-3 二式大艇改輸送型「晴空」特殊部隊夜間降下作戦 ミラフローレス閘門 マデン・ダム
熱帯の夜風が吹き抜ける密林の上空。夜陰に乗じ、海兵軍の精鋭空挺部隊による電撃作戦『パナマの華』が幕を開けた。
八機の二式大艇改輸送型「晴空」には、二個中隊・計三〇〇名の特殊部隊が分乗していた。赤鬼隊一五〇名、青鬼隊一五〇名がそれぞれ四機ずつに乗り込み、目標へ向けて高度を下げていく。降下地点直上、巨大な飛行艇は失速ギリギリまで速度を落とし、機首を緩やかに持ち上げた。
「降下はじめ!」
小隊長の鋭い声とともに、マデン・ダム上空へ侵入した赤鬼隊の「晴空」一号機、二号機の後部降下ランプが、赤から鮮烈な緑へと切り替わる。七十五名の隊員たちが、躊躇なく夜の虚空へと躍り出た。
傘が開く鈍い音が重い大気を震わせる。暗視装置など存在しない時代だ。頼れるのは月光と、徹底的に叩き込まれた勘、そして肉眼の鋭さのみであった。隊員たちは敵の警戒網をすり抜け、未整備の茫々とした草地へ次々と着地。着地と同時にパラシュートを切り離すと、暗闇に溶け込むように走り出した。
彼らが抱く兵装は、《帰還鋼》軽量合金によって鍛え上げられた新鋭『五式自動小銃(特空型)』。手動撃発を全廃し、二十発箱型弾倉によるフルオート連射機能を備え、折りたたみストックとサイレンサーを装着した空挺専用の切り札である。腰には手榴弾、催涙弾、そして堅固な扉や装甲を破砕する九九式破甲爆雷が狂いなく吊り下げられていた。
マデン・ダム 赤鬼隊、第一小隊・第二小隊
「目標、マデン・ダム管理棟。これより接収を開始する」
第一小隊長の声に応え、隊員たちは湿り気のある密林を滑るように突き進んだ。眼前に立ち塞がるのは、不気味に黒くそびえるマデン・ダムの巨大な堤体。隊員たちは迷いなくコンクリートの垂直な壁に張り付き、ヤモリのごとき速さと確実さで登攀していく。
送電線は降下に先立ち、潜入班の手によってすでに切断されていた。一帯は不気味な静寂と漆黒の停電に包まれ、非常用発電機すら作動していない。
管理棟の重厚な鉄製扉へ肉薄した分隊長が、壁際に身を寄せながら低く囁いた。
「……三、二、一。やれ」
直後、設置された九九式破甲爆雷が指向性爆破を起こした。激しい衝撃波が鉄扉の鍵とヒンジを木端みじんに粉砕する。
「突入!」
隊員がすかさずガスマスクを装着し、煙の立つ破口へ催涙弾を放り込んだ。白煙が狭い室内へ一気に充満する。
暗闇と不意の白煙、そして目と鼻を灼く猛烈な刺激に、管理棟内部のアメリカ警備兵たちは武器を落として蹲り、激しく咳き込んだ。そこへ、ガスマスクをつけた四つの漆黒の影が雪崩れ込む。隊員が流暢な英語で冷徹にたたきつけた。
「ドロップ、ドロップ! 銃を捨てろ!」
涙と痛みに顔を歪めながらも、一人の警備兵が腰のホルスターへ不審な手を伸ばそうとした。その瞬間、隊員の五式自動小銃が火を噴く。
「プシュッ、プシュッ」
サイレンサー越しに響く乾いた二条の打撃音。七・七ミリ弾を近距離で叩き込まれた警備兵は、糸が切れた操り人形のように床へ崩れ落ちた。
「第一班、操作盤を確保! 第二班、屋上の機銃座を叩け!」
隊員たちが靴音を殺して螺旋階段を駆け上がる中、管理棟の外からも激しい銃声が響き始めた。ダムの堤体沿いに配置されていたアメリカの警備分隊が、爆発音でようやく異常を察知したのだ。
「クソッ、ジャップだ! どこから来やがった!」
パニックに陥った屋外の警備兵たちが、M1カービンやトンプソンを闇雲に乱射する。だが、赤鬼隊の制圧速度はそれを遥かに上回っていた。管理棟の二階窓へ取り付いた隊員たちが、サイレンサー付きの五式小銃で階下へ正確な点射を浴びせ、敵の抵抗火力を一瞬で押し潰していく。
「状況報告!」
「……操作盤、完全制圧! これより『マデン・ダム』、および非常用放水口を我が制御下に置く!」
報告と同時に、漆黒だった管理棟の主操作パネルに、日本の制御下に置かれたことを示す青色の表示灯が一斉に点灯した。
「目標『マデン・ダム』、接収完了!」




