第二次ハワイ攻略:鋼鉄の怒涛 7-4 エピローグ
空母『タイコンデロガ』の巨体が、必死の回避運動も虚しく、日本軍の流星改が放った雷跡に捕らえられた。一本、二本……。艦腹を抉る凄まじい衝撃が、ハルゼーの足元をひっくり返した。
「左舷より浸水! 機関停止! 傾斜が止まりません!」
悲鳴のような報告が飛び交う艦橋で、ウィリアム・ハルゼーは手摺りにしがみつき、燃え盛る自艦の甲板を見下ろしていた。そこには、数分前まで「復讐の翼」を送り出していた若者たちが、黒煙の中でのたうち回る地獄絵図が広がっていた。
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狂乱の中の静寂
艦内を揺らす爆発音は、もはや遠い雷鳴のようにしか聞こえなかった。
ハルゼーの意識は、皮肉にもこの極限状態で透徹な静寂へと沈んでいった。
「提督! 退艦を! 早く!」
参謀の叫びを、彼は黙って制した。傾斜はすでに30度を超えている。海面が、すぐそこまで迫っていた。彼はポケットから使い古したパイプを取り出そうとしたが、指が震えていることに気づき、苦笑した。
(俺は、何を急いでいたんだ……?)
人生の走馬灯。脳裏を駆け抜けたのは、太平洋の荒波と共に歩んだ半生だった。
アナポリス(海軍兵学校)時代の硬い制服の感触。かつて「グレート・ホワイト・フリート」の一員として世界を巡った、あの誇らしげな白塗りの戦艦群。そして、真珠湾の底に沈んだ戦友たちの無念。
「ジャップを殺せ、もっと殺せ(Kill Japs, kill Japs, kill more Japs)」
自ら放ったあの苛烈なスローガンが、今、呪詛のように耳元で鳴り響く。彼は日本軍を憎んでいた。その卑劣さを、その執念を。だが、今こうして、地獄のような反撃を食らわせてきた日本軍のパイロットたちに、彼は奇妙な同質感を覚えていた。
彼らもまた、守るべきもののために、愛する者を残し、死に物狂いで突っ込んできたのだ。
戦争の意義という問い、この戦争に、正義などあったのか?
ハルゼーは、燃えるハワイ諸島の遠景を薄く目を開けて見つめた。
太平洋戦争で日米双方の数えきれない若者が、魚の餌となって消えていった。
「勝った方が正義か。……いや、違うな。残ったのが、ただの焼け野原なら、それは敗北と変わらん」
文明と文明が激突し、互いの誇りを削り合い、最後に残るのは、この冷たい海水と、焦げ付いた鉄の臭いだけ。
海軍軍人として生きた己の誇りは、今、この巨大な鉄の墓標と共に沈もうとしている。それが、略奪と破壊を繰り返した「戦争」という名の化け物に対する、唯一の精算であるかのように彼は感じていた。
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「提督! もう限界です!」
足元を濁流が洗った。ハルゼーは、自分を抱きかかえようとする部下の手を優しく振り払った。
「先に行け。俺は、この艦と共に行くのが似合いだ」
次の瞬間、巨大な爆発が『タイコンデロガ』の心臓部を粉砕した。ハルゼーの視界から空が消え、冷たい、しかしどこか懐かしい太平洋の海が全身を包み込む。
渦巻く泡の中で、彼は最後に思った。もし、次の人生があるのなら、今度はこの海を、血の色ではなく、あの日の青いまま、誰かと眺めたいものだ――。
光が遠のき、老兵の意識は、深淵へと溶けていった。
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勝利の残光
海面に点々と広がるアメリカ軍機の残骸と、立ち昇る黒煙。 再び静寂を取り戻した日本艦隊の上空を、悠然と旋回しながら降りてくる烈風改の翼には、陽光が眩しく反射していた。
空母「赤城」の甲板に着艦したパイロットが風防を開けると、そこには勝利の確信と、ひとつの時代の終わりを予感させる冷徹な眼差しがあった。
ハワイは完全に封鎖された。今や太平洋に、日本連合艦隊の進撃を阻むものは存在しない。
第二次ハワイ攻略:鋼鉄の怒涛 終
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