若き操縦士達の「決号」から「大陸救援作戦」への転換
かつて「決号作戦(本土決戦)」のために、日本各地の基地で菊水作戦、《特別攻撃隊》ために配備されていた若き志願兵たち。彼らの役割は、総合国家政治戦略企画機関と統合兵站本部の手によって「電撃戦の尖兵や空母艦載機の搭乗員」へと書き換えられた。
各地の錬成基地では、連日、九九式艦爆改と零戦六四型改による猛訓練が行われていた。
操縦性の素直な九九式艦爆改は、新しい操縦士たちに離発着の容易さを与え、野戦臨時飛行場の離着陸の難易度を低下させた。それは操縦士達の爆撃の精度向上の訓練を向上させた。彼らは、フィリピンや大陸の最前線で工兵隊が突貫工事で作る「臨時飛行場」を拠点に、装甲部隊と密接に連携する、最新の空陸一体戦術をその身に刻み込んでいく。
霞ヶ浦から九州各基地に至る日本の空は、かつてない濃密なエンジン音に震えていた。
かつて「決号作戦」の名の下に、片道分の燃料と爆弾を積んで散ることを強いられていた若き操縦士たちは航法・飛行技術や戦闘技術を会得していく。
*「着陸事故」を防ぐ固定脚
「全機、着陸訓練開始! 荒れ地を想定せよ!」
教官の鋭い号令とともに、鈍い銀色に輝く九九式艦爆改の編隊が、あえて整備の行き届かない草原の滑走路へと降下を開始する。
操縦士の木村少尉候補生は、操縦桿を握る手の汗を拭った。以前の練習機なら、この速度での着陸は「跳ねる」か「つんのめる」かの博打だった。だが、この機体は違う。
《帰還艦隊》の技師がもたらした「帰還鋼」で作られた頑強な固定脚は、地面を叩くような荒い着地を、柔らかな膝のように受け止めた。複雑な引き込み機構を持たないその脚は、故障の不安を微塵も感じさせない。
「……信じられん。非常に安定して着陸ができる、地面に吸い付くようだ」
木村は、かつて先輩たちが味わった「着陸の恐怖」が、自分の内側から消えていくのを感じた。離着陸という基礎動作が「作業」に変わったとき、彼の意識は初めて、その先にある「戦闘」へと向けられた。
*固定脚 脚部フェアリング(スパッツ)の中身
懸架・緩衝装置 : 急降下爆撃時の強力なGや、荒れた前線基地での着陸時の衝撃に耐えるため、金属製の支柱に油圧と空気圧を利用した頑丈なショックアブソーバー(緩衝器)が内蔵されていた。
ブレーキ・油圧配管 : 車輪を制御するための制動装置や作動油の配管が通っている。
空力カバー : むき出しのタイヤと支柱による空気抵抗を少しでも減らすため、涙滴型の金属製カバーで覆われていた。
隣の滑走路からは、金星五四型型エンジンを轟かせる零戦六四型改が、垂直に近い角度で上昇していく。
新素材の点火プラグと魔法の添加剤を与えられたそのエンジンは、かつての日本機が悩まされた「息継ぎ」を完全に克服していた。スロットルを急激に開いても、エンジンは淀みなく反応し、背中を座席に押しつける加速を生み出す。
「この火花は消えない。この力は裏切らない」
操縦士たちは、機体との間にこれまでにない信頼関係を築いていた。防弾鋼板に守られたコクピットの中で、彼らは「死ぬための練習」ではなく、「敵を仕留めて帰るための技術」を貪欲に吸収していった。
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木村少尉候補生をはじめとする若き卵たちが、滑走路脇の土手に一列に並び、上空を見上げていた。
彼らの前に立つ教官が、遠く響くエンジン音を背に、拡声器を使わず太い声を張り上げる。
「総員注目! これから見せるのは、フィリピンや大陸の修羅場を潜り抜けてきた、『熟練操縦士』の飛び方だ、これが『技術』だ!」
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滑走路の端から、一機の零戦六四型改が猛然と加速を始めた。
尾輪が浮き上がると同時に、機首をあり得ない角度へと跳ね上げる。金星五四型エンジンが、燃料添加剤によって極限まで高められた爆発音を轟かせ、機体を天空へと引き上げていく。
木村は息を呑んだ。従来の栄エンジンであれば、急激なスロットル操作や垂直上昇の局面で、燃料供給の乱れによる一瞬の「淀み」が生じるのが常だった。しかし、この六四型改は、大気を力任せに喰らい尽くすように、狂いなく高度を稼いでいく。
上空四千メートル。六四型改は反転し、仮想敵(一式陸攻)に見立てた標的に向かって落ちていくように接近する。
一撃離脱の最適化
これまでの零戦なら、急降下時の速度制限によって機体が空中分解する恐怖があった。だが、新素材による主翼の補強と機体自体のフレームや外装板の新素材への変更、それらは機体の剛性を劇的に変えていた。限界速度を超えた領域でも、舵は重くならず、操縦に従って標的を捉える。
そして、操縦士を守る座席背面に配された厚い防弾鋼板、自動消火装置の設置。
格闘戦の再定義
降下速度を維持したまま、急激な引き起こしを行う。操縦士にかかる強烈なG(重力加速度)に機体が悲鳴を上げることはない。エンジンはスロットルを戻した状態からでも、再加速の要求に即座に応えた。
標的の背後を完璧に捉えた瞬間、翼端から20mm機関砲の短い曳光弾が、精密な点となって放たれた。無駄な連射はない。確実に敵を絶つための、一連のスムーズな動作であった。
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続いて上空に進入したのは、三機の九九式艦爆二二型改の小隊であった。
彼らは装甲部隊との無線連携(空地誘導)を想定し、超低空からの突入デモを行う。
「全機、突撃。目標、模擬陣地」
先頭の機体が、主翼下のダイブブレーキを展開すると同時に、垂直に近い角度で反転降下を始めた。目標は、地上に設置されたわずか数メートルの模擬トーチカである。
急降下中の九九式艦爆改は、まるで定規で線を引いたかのようにブレなかった。素直な操縦性は、風に流される機体の微修正を容易にし、若手なら恐怖で目を背ける接地寸前の高度まで、操縦士に照準器を凝視させた。
精密爆撃と即座の離脱
高度数百メートルで模擬爆弾を解き放つ。爆弾はトーチカの天門へ正確に吸い込まれた。直後、機体は地表を擦るような低空で引き起こされる。
荒地への強行着陸
デモンストレーションの締めくくりは、着陸であった。熟練操縦士は、あえて滑走路を外し、工兵がさきほど重機で均したばかりの、岩が転がる泥濘の敷地へと機体を突っ込ませた。
ズシン、と鈍い衝撃音が土手にまで響く。
だが、帰還鋼で鍛え上げられた頑強な固定脚は、その衝撃を完全に殺し、機体を跳ね上がらせることなく泥の中に静止させた。引き込み脚のような繊細な油圧トラブルとも無縁のその脚は、停止からわずか数分後、再びスロットルを開いて泥を跳ね上げ、その場から平然と離陸していった。
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着陸し、プロペラを止めた二機の傍らに、木村たちは駆け寄った。
コクピットから降りてきたのは、顔を油で汚した、先任搭乗員たちであった。彼らは若者たちを見回し、自らの愛機の機体を、愛おしむように叩いた。
「いいか。『国のために死んでこい』と以前に言ったがその言葉はもう必要ない、すでに戦況は変わった」
零戦の操縦士が、錬成中の若き操縦士の一人一人を、見て言った。
「この機体はな、敵を確実に撃破し、俺たちを次の戦場へ連れて行くためにある。壊れない脚、止まらないエンジン、弾を弾く鋼板。これだけ揃って死ぬ奴は、不運な奴だ。貪欲に技術を盗め。生きて、何度でも敵を叩き潰すぞ」
その言葉は、自分の背後にいる家族や人々のために特攻という《最後の一撃》を選ばざる負えなかった、若者たちの胸に確固たる「闘志」の火を灯した。
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三菱、中島、愛知、川崎。かつて競い合っていたメーカー各社は、統合兵站本部が作成した共通設計図の下、一つの巨大な生産共同体として機能していた。
低コストで、故障せず、誰もが扱える。
これこそが、物量で挑みかかるソ連軍という巨大な壁を、逆に物量と機動力で押し返すための、日本の「答え」だ。
「これからはこの数と理屈で、ソヴィエト軍と共産主義者どもを海へ叩き落とす」
滑走路を埋め尽くす、零戦六四型改と九九式二二型改。
その向こうに、新たな時代の夜明けが近づいてきた。




