新・太平洋艦隊 7 作戦開始
1945年、夏
呉海軍工廠を見下ろす鎮守府庁舎の作戦会議室、大きな海図を囲む将官たち。
新・太平洋艦隊総司令官・加治中将を中心に、主任参謀の堀切大佐、航空部隊を束ねる真壁少将、そして各戦隊の指揮官たちが一堂に会する。その中に、潜水艦隊を率いる梅本少将だ。今回の作戦における重要な部分を担当する。
「……水上、航空ともに準備は八割を超えた。梅本少将、潜水艦隊の状況はどうだ」
加治中将の問いに、梅本少将が静かに立ち上がった。彼の前には、ニューギニア周辺の海流と複雑な海底地形が書き込まれた、潜水艦隊専用の海図が広げられている。
「はっ。伊号、呂号、合わせて十数隻。全艦、呉にて潜舵の微調整と蓄電池の換装を完了しました。我々の主任務は、航空隊の進撃に先駆けた隠密裏の『索敵』、および敵の生命線である『輸送艦隊の排除』です。南方海域特有の激しい水温変化を利用した無音潜航の練成を徹底しており、米軍の対潜網を潜り抜け、敵の喉元に食らいつく準備は整いました」
梅本は、敵の補給ルートを指し示した。
「敵地上部隊へ送られる物資を海中で断つ。これが我々の戦いです。水上で戦艦が砲撃し、空で航空隊が攻撃する、その裏で、我々は音もなく敵の兵站を干上がらせます。一隻の輸送船も、この網から逃しはしません」
主任参謀の堀切大佐が、梅本の報告を基に作戦の全体像を繋ぎ合わせる。
「よろしい。我々水上打撃艦隊は『スコール』を利用して奇襲し、戦艦部隊がその巨砲で地上を焦土と化す。ニューギニア、ソロモン諸島に救援に駆けつける敵輸送艦隊を、梅本少将の潜水艦隊が海中で仕留める。……まさに、全次元にわたる包囲網だ」
航空総隊長の浅岡中佐が付け加えた。
「潜水艦隊による事前索敵があれば、我々も『積乱雲』をより正確に盾として使えます。深海からの正確な情報が不可欠です」
零戦、九九艦爆といった旧式機も、蘇った戦艦、空母も、そして深海に潜む潜水艦も、いまや一つの精密な機械の部品として噛み合っている。
加治中将はゆっくりと席を立ち、窓外に広がる呉の海を見つめた。
そこには、伊勢・日向の航空戦艦、長門の威容、そしてその傍らに黒い背中を見せて繋がれた潜水艦たちの姿があった。
「諸君、これより呉を離れ、最終調整に入る。目標は南太平洋の制圧。敵地上拠点の無力化をもって、我々の勝利とする」
加治が振り返り、全指揮官を射抜くような眼差しを向けた。
「長門、榛名、葛城、天城……そして潜水艦隊。日本海軍を守り抜いた航空隊と、巨砲と、そして潜水艦隊が、いまこそ真の使命を果たす時だ。作戦開始!」
堀切大佐
「新・太平洋艦隊、出撃準備完了!」
「応!」
将官たちの声が作戦会議室に木霊して響く、勝利を予感させる力強い響き。
昭和二十年八月
呉の海に響く抜錨の音は、その開始のはじまりだ。
新・太平洋艦隊。いま、南の空と海へと解き放たれようとしている。




