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待たせたな!  作者: 僧籍
第二部 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

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新・太平洋艦隊 6 護衛艦隊

かつて、呉軍港の入江には、艦隊を組めないほどに数を減らし、燃料を枯渇し、海岸に固定されていた戦艦や巡洋艦があった。


しかし、今、呉の青い空と江田島を背景に多くの(ふね)が整備されて、巨大な幾つもの桟橋に接岸して並べられている。駆逐艦、海防艦は横に並べて『めざし』状に並んでいた。そして、巡洋艦、軽巡洋艦も、海軍の戦力は回復してきている。隣のドッグでは空母や戦艦が整備されている。沖ではすでに復活した戦艦が試験航行を終えて、帰ってきた。


新・太平洋艦隊、水上護衛および支援部隊。

大和や武蔵といった超弩級艦の影に隠れながらも、実質的に海域の制圧と兵站の守護を担うのは、これらの巡洋艦と駆逐艦たちである。


港内でもひときわ異彩を放つのは、独特のシルエットを持つ重巡洋艦「利根」だ。艦前部に主砲を集中させ、後部を広大な水上機作業甲板としたその姿は、ニューギニア周辺の複雑な島嶼部において、水上偵察機を駆使した「艦隊の目」として機能する。


その傍らには、古強者の重巡「青葉」が並ぶ。度重なる大損傷からその都度生還した「不死身の艦」は、徹底した補修により、その老躯に再び精緻な火器管制装置を宿していた。


そして、最新鋭の阿賀野型軽巡洋艦「酒匂」。

戦場に出る機会を逸していたこの俊足艦は、水雷戦隊の旗艦として、また防空の要として、磨き上げられた一五センチ連装砲を天に向けていた。


港の中央で整然と接岸しているのは、防空駆逐艦、秋月型の一群だ。

春月、宵月、夏月、花月。そして、あの坊ノ岬沖海戦から奇跡の生還を遂げた二隻。


涼月: 艦首を切断され、後進で佐世保に帰り着いたあの絶望的な損傷から、工廠の執念により完全に復旧。


冬月: 大破に近い傷を負いながらも、その強靭な船体は再整備され、再び一〇センチ高角砲で戦う準備を整えた。


彼女たちは、新・太平洋艦隊の上空に襲い掛かる米軍の攻撃機群を、その圧倒的な対空火網で「撃滅」するための、動く防空要塞である。


第二艦隊の生き残り、雪風、初霜。

幾多の海戦を潜り抜け、僚艦が沈み行く中で常に生還してきた「幸運艦」たちは、いまや艦隊の精神的支柱となっていた。

南方から戻ってきた《帰還艦隊》翔鶴、瑞鶴、大鳳の護衛で雪風、初霜は呉に戻っていたが、既に次の航路は決まっている、新・太平洋艦隊と共に南方に再び行く。


そして、その背後を固めるのは、橘型(戦時量産型駆逐艦)

柿、 樺、 橘、 蔦、 萩、 菫、 楠、 初桜、 楡、 梨、 椎、 榎、 雄竹、 初梅

「雑木林」と揶揄された簡素な造りながら、対潜・対空能力に特化したその設計は、ニューギニアの入り組んだ海域での護衛任務において、最も実戦的な威力を発揮する。


---


二人の水兵


岸壁近く、新配属の二等水兵・松本は、目の前に並ぶ艦隊に息を呑んでいた。その横で、防空駆逐艦「涼月」の補修跡を黙って見つめる「響」の乗組員の一等兵曹・岩佐がいた、歴戦の男である。坊ノ岬沖海戦には、途中で響の故障のために引き返して、戦闘に参加できなかった分、この時まで複雑な心境がだった、再び、国防の最前線に立つ前までは。


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「……これがあの、戦記で読んだ艦隊ですか」


松本が震える声で呟いた。その視線の先には、艦前部に主砲を集中させた独特の威容を誇る重巡「利根」と、その傍らで静かに佇む「青葉」があった。


「ああ。特にお前の前にある『青葉』を見ておけ。何度も地獄の火に焼かれながら、その都度呉に戻ってきた不死身の艦だ」


岩佐は短くなった*甘草かんぞうの根を咥えて、目を細めた。

*甘草はマメ科の植物で、主成分に砂糖の数十倍の甘みがあり、噛むとほのかな甘みと苦みが出るため、気を紛らわせる嗜好品として親しまれていました。艦内や桟橋でも喫煙は禁じられており、指定の喫煙場所が定められていました。


「あの老躯に宿っているのは最新の電探と火器管制装置だけじゃない。死んでいった乗組員たちの戦訓が積み重なってるんだ。そう簡単には沈まねえよ」



松本の視線は、さらに港の中央に並ぶ、長大な船体と巨大な連装高角砲を持つ一群へ移った。


「あの……艦首が新しい艦は?」


「『涼月』だ。坊ノ岬で艦首を失い、後進だけで佐世保まで帰り着いた。隣の『冬月』もあの戦いで大きな損傷を受けた。だが、見ろ」


岩佐が指差した先には、完全に復旧された「涼月」の勇姿があった。


「春月、宵月、夏月、花月……秋月型がこれだけ揃えば、米軍の攻撃機も生きては帰れまい。それに、あっちには『雪風』と『初霜』がいる」


松本は、南方から《帰還艦隊》を護衛してきた駆逐艦を見た。


「雪風、初霜、そして、これから自分が乗り込む響……。幸運艦が三隻も揃っているなんて、まるで奇跡ですね」


「奇跡じゃない。生き残るべくして生き残った連中だ。あの三隻が先頭を走る限り、新・太平洋艦隊に『絶望』という言葉はねえ、前回は響は途中で脱落したが次こそは本懐をとげてやる!」


「不死鳥」と称される響の艦橋には、幾多の戦訓が刻まれていた。



松本は、艦隊の背後に整然と並ぶ、直線的で簡素な造りの駆逐艦群に目を留めた。「橘型」戦時量産艦だ。


「……橘型は、やはり他の艦に比べると頼りなく見えます」


岩佐はふっと鼻で笑い、松本の肩を強く叩いた。


「坊主、見た目でいくさができるか。あの『楠』や『初桜』を見てみろ。今の駆逐艦の戦いに余計な装備を一切省き、対潜と対空に特化した、いわば実戦の塊だ。これにも今までの戦訓が生きている。ニューギニアの複雑な海域や湾内の機雷掃討やあらゆる海域での戦闘に対応できる」


岩佐は、松本を見て確信をもって断言する。


「大和や武蔵が『矛』なら、俺らや「橘型駆逐艦」は文字通り『盾』だ。雑木林、上等じゃねえか。泥の中でも根を張って、艦隊の兵站を死守する。それが本当の軍艦ってやつだ」


---


再びの南下


夕闇が呉の街を包み始め、各艦の煙突から細い煙が立ち上り始めた。出撃の時は近い。


「松本、俺たちはこれから再び南へ行く。ニューギニア島でアメリカが日本に反撃する力を撃滅するんだ」


岩佐は海を見つめたまま、独り言のように続けた。


「俺たちの戦いはまだ続くぞ!」


「……はい! 岩佐兵曹殿!」


松本は背筋を伸ばし、力強く敬礼した。

再整備された艦隊と、そして泥臭くも強靭な「雑木林」の群れ。新・太平洋艦隊は、かつての敗残の影を完全に振り払い、決戦の海へとその巨体を向けようとしていた。

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