新・太平洋艦隊 5 新しい操縦士たち 菊水作戦からの新たなる出発
1945年、夏。九州・新田原飛行場の空気は、数ヶ月前までの「特攻基地」のそれとは根底から書き換えられていた。
《帰還艦隊》による沖縄救出という奇跡。それは、一億特攻という戦術を、組織的な反撃という「戦略」へと劇的に転換させた。もはや、人間を誘導装置にして爆弾を運ぶ必要はない。
滑走路の上空を、橙色の機体――*九三式中間練習機が埋め尽くしていた。かつて特攻兵器として爆弾を括り付けられるはずだったそれらは、いま、本来の任務である「教育」のために空を舞っている。
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*九三式中間練習機は鋼管製の骨組みで機体は布張りだったため、アメリカの軍艦のレーダーに発見されにくく。
200メートルの近距離でようやく発見される。また、機体への近接信管の反応も鈍いために対空射撃の効果が発揮されずに、アメリカ軍に被害が上がっていた。
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「前田操縦士、旋回が緩い! それでは敵の餌食だ。重力に負けるな!」
後部座席から伝声管を通じて怒声を飛ばすのは、ラバウルやソロモンの地獄を生き抜いたベテラン操縦士たちだ。かつては「離陸して体当たりできれば合格」とされた教育期間は撤廃された。いま、若者たちが叩き込まれているのは、敵を墜として生還するための「空戦」の真髄である。
地上では整備兵たちが、かつてない執念でエンジンを調整していた。
「あの若い操縦士たちを、無駄死はさせない、生きて帰ってくるように最高の状態で送り出してやるんだ」
その手つきには、未来の戦士を育てる職人の誇りが宿っていた。
整備場の奥には、最新のアップデートを施された機体群が眩しい光を放っている。
九九式二二型艦上爆撃機(発展型): 固定脚ゆえの着陸安定性と素直な操縦性を活かし、新米操縦士でも精密爆撃を可能にした。防弾鋼板が強化され、未整備の滑走路でも運用可能なタフな仕様だ。
零戦六四型(改良型): 新型の金星エンジンを搭載し、防弾性能と生産性を向上。新米がベテランの背中を追うための機体として再定義された。
飛行場の一角、天幕の下では、夕闇の中で車座になった少年たちが、南方の生還者が手で描く空戦軌跡を食い入るように見つめていた。
「いいか、米軍のF6Fは重い。だが、旋回性能なら我々の零戦が勝つ。深追いせずに一撃を浴びせたら即座に反転しろ。命を大事にしろ。それが『勝つ』ということだ」
かつての「飛ばせるだけの操縦士」は、いまや「敵と戦う空の武士」になる。
7月末、新田原飛行場。
航空総隊長(空中指揮官)の浅岡中佐は、整列した百機を超える大編隊を前に満足げに頷いた。
そこにいるのは死を待つ未熟者ではない。実戦を生き抜いた熟練兵が五割、そして猛訓練で空戦技術を叩き込まれた精鋭予科練生が五割。理想的なピラミッド構造を持つ混成部隊だ。
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浅岡は大戦末期の特攻予定者だった若手、佐藤一飛曹の機体に歩み寄った。
「佐藤、怖くはないか」
「はい。隣に分隊長(熟練兵)がいてくださいます。教わった通りに動けば、必ず敵を沈めて帰ってこれると信じています」
その瞳に悲壮感はない。あるのはプロの操縦士としての静かな闘志だ。
浅岡は全搭乗員に向け、腹の底から響く声で訓示した。
「我々が向かうのは、ソロモン、ニューギニアの地獄だ! 我らは『葛城』『天城』から出撃し、敵の横腹を食い破る。標的はビアク島、ホーランジアの司令部と物資集積基地、ポートモレスビーの敵基地、そして敵増援部隊だ。要するにすべての敵を撃滅し、南方の海を再び我らの手に取り戻すぞ!」
新田原を飛び立った大編隊は、美しいV字を描いて北西へと向かった。
眼下に見える佐世保の海には、追加整備と偽装を終え、空母「葛城」と「天城」が待っていた。
生き残ったいた熟練操縦士と新たに育成された操縦士たちは、まだ、調整中の新型の機体ではなく、全国から集められ、徹底的に再整備された機体で戦いに臨む。
「全機、着艦用意! 訓練の成果を見せてやれ!」
浅岡中佐の号令の下、熟練兵が先陣を切って鮮やかに着艦し、若手たちが寸分狂わぬタイミングでそれに続く。
次々と天城と葛城への航空機が整然と着艦してするのを艦橋から、真壁少将は満足して見ていた。
かつて「特攻基地」と呼ばれた場所は、日本を救うための「精鋭育成の錬成基地」へと変貌を遂げた。
新生・機動部隊航空隊は、母艦に配備された。




