南方奪還フィリピン攻略 2-17 臨時ラジオ局「おはよう、フィリピン」
臨時ラジオ局「おはよう、フィリピン」
スービック海軍基地の一角。ほんの数時間前までアメリカ軍が使用していた超高出力の放送設備は、今や新・連合艦隊の通信士官たちによって完全に接収されていた。
調整卓のインジケーターが赤く明滅し、大型真空管が熱を帯びる。
マイクの前に座ったのは、かつて寄席や活弁(活動弁士)に憧れ、通信科随一の威勢の良さで知られる若き通信士官――軍服の腕をぐっと捲り上げ、マイクに向かって扇子をコトンと叩きつけた「和風DJ」であった。
彼は胸いっぱいに空気を吸い込むと、まるで大寄席の舞台にかけるかのような、張りのある朗々たる名調子でマイクへ向かって叫んだ!
「ハァ―――ッ! お聞きのみなさん、ご同輩ッ! 東洋一の『菊水放送』、始まりでいッ!!」
カツンと響く扇子の音とともに、レコード針が落とされ、賑やかな太鼓と三味線が鳴り響く和風のお祭り囃子が爆音で流れ始める。
「さあさあお手を拝借! ルソン島の深山幽谷、ジャングルの底に潜伏中の兵隊さん方! お待たせいたしました、本日只今より開局いたしましたるは、新・連合艦隊がお送りする臨時ラジオ『おはよう、フィリピン』!
喋りまするは、菊水部隊の『江戸っ子ラジオ弁士』でございます!
空を見渡せば日本晴れ! 熱気と熱気の大合戦! そして本日一番の大一番は――あのアメリカ軍の親玉を力づくでひねり倒し、ここスービック基地を丸ごと横取りいたしましたッ! ワーッ、ドンドンパフパフ!」
通信士官は景気よく卓を叩き、マシンガンのような名調子で講談のごとく畳みかける。
「ルソン北部の尚武集団、山下奉文大将! バギオの山奥でイモを掘ってる場合じゃございません!
マニラ東部の振武集団、横山中将! シエラマドレの湧き水で乾きを癒すのもそこそこに、ラジオのツマミを右へ目一杯回しておくんなさい!
そしてピナトゥボ山周辺で粘りに粘っていらっしゃる建武集団の諸兄! 空腹でお腹と背中がくっつきそうなら、今すぐ鉢巻を締め直してくだされ!」
彼は卓上のスイッチをバシッと切り替え、全周波数の出力を最大に跳ね上げた。
「よいか、よくお聞きなされ! 沖縄を完全解放いたしましたる我ら『新・連合艦隊・菊水部隊』が、たった今、スービック湾を埋め尽くしました!
沖合いをご覧あれ! 水平線を埋め尽くすは『大和』『陸奥』の二大巨艦に、7隻の正規大空母! 鬼の秋月型駆逐艦たちがズラリと居並ぶ様は、まるで令和の鬼退治! アメリカ軍の飛行機なんざ、先ほど空でぜんぶ綺麗な“大花火”にしてやりましたわ!」
お祭り囃子の威勢の良い太鼓が最高潮に達し、DJは笑い声をあげながら、ぐっとマイクを引き寄せた。
「将校も兵卒も、もはや孤立無援の『捨て石』などとは言わせない! 逃げ惑うのは、今や海を追われたアメリカ軍でございます!
これより新・連合艦隊による『天下分け目の大再上陸作戦』を執り行います!
炊きたての白飯! キンキンに冷えたラムネ! 最新式の軍服を纏った救援部隊が、今すぐ皆様を迎えに参ります! 米軍の缶詰をくすねる生活は今日でおさらば!
繰り返す、こちら新・連合艦隊! 諦めるな、死ぬな、生きておいで! 助けが来たぞッ!
それじゃあお次の曲にいってみよう、マッカーサー将軍に引導を渡す大一番――『サヨナラ音頭』でお楽しみくださいッ!」
ドドンと響く和太鼓の音色と、威勢と希望に満ち満ちた和風DJの大音声が、バターン半島を、サンバレス山脈を、シエラマドレを、そしてキアンガンの深山幽谷を駆け抜けていく。
絶望の淵にいたフィリピンの全日本軍将兵の受信機から流れ出したその「和の気魄」は、焦土と化した島々に、怒濤のような「希望の炎」を撒き散らしていった。
「沖縄を解放した新・連合艦隊の菊水部隊が、今、スービック湾に達した。諸君らはもはや孤立無援ではない。これより、再上陸を敢行すると」
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