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待たせたな!  作者: 僧籍
外伝1 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

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ブルネイへ進軍 2 イスタナ・カラン王宮:アフマド・タジディン陛下との会見

1945年7月14日。ボルネオのジャングルを濡らすスコールが上がり、濡れた木々が午後の陽光を反射して輝いていた。


ブルネイ川の緩やかな流れを見下ろす高台に、伝統的なマレー様式を今に伝える優美な木造建築――「イスタナ・カラン」は、静謐な威厳を湛えて佇んでいた。そして、今、日本と連合軍との戦で伝統と静けさが失われようとしていた。


儀礼と親書:カリマンタン島の運命が決するとき


王宮の謁見の間

磨き上げられた床に、敬意深い静かな足音が響く。

先頭に立つのは、スルタンとの信頼関係を築き上げてきた「王宮外交」の要、木村長久大佐。その背後には、この北部の軍政と防衛を担う陸軍第37軍司令官・馬場正郎中将、そして南西方面艦隊司令長官、南部海軍民政府を統括する山縣正郷海軍中将が続く。


さらに、その背後には二人の将官がいた。南方戦線開放派遣軍、山下奉文大将。そして、《因幡乃白兎》艦隊司令長官、古村啓蔵大佐だ。


木村大佐がスルタン、アフマド・タジディン陛下の前で深く、静かに最敬礼を捧げた。

「陛下。大日本帝国天皇陛下より、ブルネイの安寧と共栄を願う親書を預かって参りました」


跪いて手渡された絹の包みを受け取ったタジディン陛下は、日本語訳をする文官と共に一字一句を噛みしめるように読み進めた。そこには、単なる軍事協力の強要ではなく、ブルネイの主権尊重と、迫りくるオーストラリア軍からこの地を「同盟」として守り抜くという、昭和天皇の強い意志が記されていた。


「……天皇陛下の御心、確かに受け止めた」


スルタンは静かに親書を閉じ、山下大将に静謐な眼差しを向けた。


「我らブルネイの民もまた、この美しい川と油田を略奪者の手に渡すつもりはない。日本軍の諸将よ、我々にできることがあれば、何なりと申すがよい」


カリマンタン全域「絶対防空網」

王宮の広間に広げられた地図の上で、司令部員がコンパスと赤いインクのペンを使い、ボルネオ全域を包み込むような円を描いた。それは、連合軍が描いた「攻略計画」を、日本軍が多重の防衛陣によってオーストラリア空軍の『死地』へと塗り替える図になる。


「陛下、敵の狙いは明確です。奴らはカリマンタン島の主要拠点であるブルネイ・タウン、セリア油田、バリクパパン油田、そしてタラカン島を、同時に攻撃し、破壊するつもりです」


司令部員が、地図上の各地点に鋭い指を突き立てた。


「敵の戦力は二極です。モロタイ島のピトゥ空軍基地からは、戦闘機および攻撃機部隊が全島を制圧すべく押し寄せるでしょう。同時に、オーストラリア本国北部のダーウィン、バチェラー、フェントンの各基地からは、B-24を主体とした戦略爆撃機群が、我が油田の心臓部を焼き払うべく発進します。情報参謀はこのような予想をしております」


山下大将が、重厚な沈黙を破って口を開いた。


「奴らの狙いは同時多発的な飽和攻撃だ。各個撃破されればこちらの負けだ」


古村大佐が、自身の《因幡乃白兎》艦隊の配置図を重ね合わせた。


「我々が設置した沿岸監視レーダー網は、敵機が基地を離陸した瞬間にその高度と数、編隊の進路を捕捉します。レーダーで敵を捕捉次第、カリマンタン島内の全基地航空隊および各空母群――現在、クチン沖、バリクパパン沖、タラカン島沖に待機中の部隊を、全機・全艦、全力で出撃させます」


「敵がその四拠点に到達し、爆弾倉を開くよりも早く――我らが迎撃戦闘機部隊が、敵編隊を撃滅します」


山下大将の視線が地図上の敵基地群を射抜く。


「これは迎撃ではない、殲滅だ。モロタイの空賊も、ダーウィンの爆撃屋も、一人残らずこのカリマンタン島の樹海の藻屑となってもらいます。陛下、ブルネイの空を、一滴の敵の血も混じらぬ聖域といたします」


タジディン陛下は、地図上に描かれた日本軍の圧倒的な迎撃円を見つめた。かつてのイギリス統治下では決して見ることのできなかった、主権を賭けた「西洋文明への対決」の意志がそこにあった。


「……我らが愛するこの島を、敵の攻撃で破壊させるわけにはいかぬな」


陛下は山下大将に視線を戻し、強くうなずいた。


「わかった。王宮イスタナはこれより、ブルネイ国民司令部としての役割を全うしよう。民にはすでに、義勇軍を通じて避難と監視の徹底を命じてある。馬場正郎中将、山縣正郷海軍中将、そして、山下将軍、古村提督、このカリマンタン島を、侵略者から守ってくれ」


山下大将は無言で深々と頭を下げ、その双眸にはすでに、南の空から迫りくる敵大編隊を「殲滅」する強い

意思が宿っていました。


****


スラウェシ島


カリマンタン島の東のスラウェシ島の空は不気味な静寂に包まれていた。かつて爆音を響かせていた航空団の主力——零戦や一式陸攻の編隊——は、戦略的再編のためにカリマンタン島へと転進し、南方戦線開放派遣軍の航空部隊と合流していた。


あとに残されたスラウェシ島は、いわば「沈黙する要塞」へとその姿を変えていた。


マカッサル:第二南遣艦隊の「静かなる司令部」


南西の要衝、マカッサル。

第二南遣艦隊司令部は、主力航空機を移動させたあとも、この海域の神経中枢として機能し続けていた。


港湾には、索敵を任務とする水上偵察機数機と、哨戒艇が残るのみ。しかし、地上には精鋭の陸戦隊と、緻密に配置された通信網が張り巡らされている。


彼らの役割は「観測」だ。カリマンタン島の総司令部に対し、敵の動きをリアルタイムで報告する。その情報は、水平線の向こうで牙を研ぐ味方の対空防衛司令部にとっての「眼」となっていた。


メナド、海軍特別陸戦隊の「ジャングル要塞」

北のメナドでは、横須賀鎮守府第一特別陸戦隊が、万が一の敵の上陸に対して警戒をしていた。オーストラリア軍を移動させる艦艇はフィリピンで鹵獲されて、払底しているが、ニューギニア島、ソロモン諸島のアメリカ軍はいまだに健在だ。


部隊状況は航空支援がないことを前提とした「徹底抗戦」の構えだ。ミナハサ半島の複雑な地形を利用し、重機関銃座と速射砲をジャングルの深奥に隠蔽している。


士気は高い、「空に味方がいなくとも、この大地は一歩たりとも渡さん」という気概だ。彼らは万が一に、アメリカ海軍の助勢の艦砲射撃があった場合、地下深く掘り進めた陣地の中で耐えて上陸してきた敵軍に対して、防御戦の準備を整えていた。


ケンダリ第二飛行場の高射砲陣地は、カリマンタン島から来た輸送艦によって、燃料や弾薬の補充を終えていた。ケンダリは、今は「対空の罠」へと変貌していた。


ケンダリの高射砲部隊は燃料補給をした一式陸上攻撃機がカリマンタン島へ退避した後の滑走路を守る。幾重にも重なる高射砲陣地は、ここで敵機を迎え撃つ準備に余念がない。整備兵たちはカリマンタン島へ、航空部隊とともに移動している。


あえて飛行場を維持し続けることで、敵の攻撃を引き付ける。オーストラリア軍のB-24が爆撃を開始した瞬間、密林から突き出る無数の砲身が、空を高射砲の榴弾の嵐に変える。


スラウェシ島に残った約4万5,000名の将兵は、自分たちが「盾」であることを自覚していた。万が一、東方からアメリカ軍、オーストラリア軍が海上から侵攻してきたら、彼らが敵の上陸を引き付け、出血を強いる間に、カリマンタンに集結した航空団と《帰還艦隊》が、必殺の一撃を見舞う。


「……連合軍め、油断して何時でも、上がってこい。そこが貴様らの地獄の入り口だ」


マカッサルの防波堤に立つ師団長は、カリマンタン方面から届く暗号文を握りしめ、南の水平線を見据えた。もし、敵軍がこの島から上陸を仕掛けたら、厚い防御陣地で敵に多大な出血をしいる。スラウェシ島は今、連合軍を粉砕するための「巨大な出城」として、この島に潜んでいた。


****


ブルネイ帝国


1945年当時のブルネイは、イギリスの保護領(英国保護国)でありながら、古くからの「スルタン(王室)」を中心とした統治機構を維持した。日本軍が進駐した際、この既存の伝統的統治システムを「軍政」の下部組織としてそのまま利用したのが特徴です。


当時の現地人による政府・行政組織の構成。


1. 頂点:スルタンと伝統的権威

ブルネイの統治の象徴は、第27代スルタン、アフマド・タジディンでした。


スルタンの役割: 日本軍(カリマンタン島守備軍)は、スルタンを「ブルネイの首長」として留任させ、王室の尊厳を保証した。これは現地のイスラム教徒の支持を得るための高度な戦略だ。


国務院はスルタンを議長とし、伝統的な有力貴族パンギランたちで構成される最高諮問機関だ。日本軍政下でも形式的に存続し、宗教や慣習に関わる決定を行っていた。


2. 実務組織:地方行政の構成


日本軍は、英国が導入していた「レジデント(駐在官)制度」を廃止し、代わりに「州庁(ブルネイ州)」を設置しました。


州知事(日本人)の下にある現地人組織


実務レベルでは、以下のような階層で現地人が行政を担っていました。


マレー人官吏:英国統治時代から教育を受けていたエリート層だ。彼らは日本軍政庁の各部(庶務、財務、産業など)に配属され、日本人技術者や軍人と現場の橋渡しをしました。


地区長:ブルネイ、ムアラ、チュトン、ベライトといった主要地区に配置された現地人のリーダーだ。食糧の調達や労働力の徴用、治安維持の責任を請け負った。


村長:最も末端の行政単位だ。日本軍の命令を村々に伝え、日本語教育や防空演習の実施を監督した。


3. 親日勢力の台頭:ボルネオ義勇軍


1944年以降、従来の行政機構とは別に、日本軍の指導による新しい組織が生まれた。


ボルネオ義勇軍:現地の青年層を中心に組織された準軍事組織です。彼らは日本式の軍事訓練を受け、「アジアの解放」という思想を強く植え付けた。


警防団:空襲に対する消火活動や、連合軍の潜入(特殊部隊)を監視するネットワークとして、各地の村に組織した。


****

「新生ブルネイ政府」


新しい戦略の元、 南方戦線開放派遣軍、総合国家政治戦略企画機関により、ブルネイは「独立国家」に近い強力な機能を持つようになる。


アフマド・タジディン陛下は、もはや日本の『傀儡』ではなかった。山下大将と、南方戦線開放派遣軍と陸軍第37軍と第2南遣艦隊の幕僚たちの支援を受け、彼は『ブルネイ帝国政府』を宣言したのだ。


地区長たちは、ジャングルに潜む英豪軍をを炙り出すための『住民通報網』を完成させ、義勇軍の若者たちは、日本軍に訓練され、油田の警備をする。


イギリスの官僚が去り、ブルネイの民は自分たちの手で、日本と共に未来を切り拓こうとしていた。

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