第30親衛狙撃連隊の決断 4
四、
白雪の平原を、二百名の足音が端正に刻んでいた。
武装解除の瞬間、第30親衛狙撃連隊の将兵を包んだのは、静寂だった。だが、彼らが雪原に並べた「新品同様に磨き上げられた小銃」を見た日本兵の指揮官は、ただ一言、「見事な軍紀だ」と呟き、深く敬礼を返したのだった。
日本軍の扱いは、驚くほど紳士的であった。敗残兵を襲うような屈辱的な仕打ちや、過酷な徒歩行軍の強要は一切なかった。彼らは用意されたトラックの荷台に乗せられ、バイカル湖畔の都市、イルクーツクへと丁重に移送されたのである。
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イルクーツクのぬくもり
イルクーツクに築かれた北方防衛開放軍の基地。その一角にある広々とした木造施設へ案内されたとき、先任曹長は我が目を疑った。
「大佐……これは……」
室内に一歩足を踏み入れた瞬間、凍傷寸前だった彼らの身体を、ペチカ(暖炉)から放たれる暖かな熱気が包み込んだ。
部屋の隅々まで行き届いた暖房。清潔なベッド。そして長いテーブルの上には、彼らの飢餓状態の体を気遣った、湯気を立てる温かいロシアの伝統的なお粥「カーシャ」と呼ばれ麦と雑穀の粥。
日本兵に暖炉のそばで急激に体温を上昇させると末端の血管に異常が現れるので、徐々に体を温めるように言われた。
「『捕虜』の扱いとしては、いささか贅沢すぎるな」
プロホロフ大佐は煤けた軍帽を小脇に抱え、自嘲気味に微笑んだ。
日本軍はすでに彼らの「事実」を完全に割り出していた。彼らが大興安嶺を越える際、飢えに狂うことなく、現地の集落を略奪から守り、軍人としての規律を死守したという証拠の網が、この破格の礼遇をもたらしたのだ。魂を汚さなかった報いが、この温もりであった。
二百名の兵士たちは、約45日のサバイバルから、本当の食事を喉に通し、温かいベッドに泥のように眠りこけた。彼らの瞳から、あの通遼の地獄以来、消えることのなかった張り詰めた警戒の糸が、ようやく解け落ちていった。
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翌朝。
身綺麗にして軍服に身を包んだプロホロフ大佐は、基地の司令官室へと呼び出された。
豪奢なマホガニーの机を前に待っていたのは、理知的な眼差しを宿した、日本軍の司令官であった。
「座ってくれ、プロホロフ大佐」
司令官は流暢なロシア語で勧め、自ら温かい紅茶を淹れてプロホロフの前に置いた。
「我が軍の対応に不備はなかったか」
「……過分なほどの待遇です。戦場の『悪鬼』と恐れられた貴軍が、これほど紳士的だとは思いもしなかった」
プロホロフの率直な言葉に、日本軍司令官は小さく首を振った。
「我々は狂信者や略奪者、人類の敵対者には容赦をしない。だが、貴官らのように、軍が崩壊してもなお人間の尊厳と軍紀を守り抜いた『本物の軍人』に対しては、最大の敬意を払うのが我が軍の鉄則だ。君たちの小銃の美しさが、すべてを証明していた」
司令官は手元の書類――第30親衛狙撃連隊の正確な行軍記録が記された台帳を閉じ、まっすぐにプロホロフを見つめた。
「本題に入ろう。シベリアの戦闘は終結しつつある。もはや君たちが戦うべき赤軍(ソヴィエト軍)はここには存在しない。そこで、我々は君たち二百名の『今後』について、選択肢を用意した」
司令官は三本の指を立てた。
「一つ、このまま国際法に則った捕虜として、後方の安全な環境で終戦を待つこと。
二つ、武器を捨て、一人の民間人としてロシアの故郷へ帰り、家族と再会すること。我が軍がその旅路の安全を保障しよう。
そして三つ目だ――」
司令官の目が、鋭い光を放った。
「もし、君たちが今なお『誇り高き親衛部隊』として、この混迷する新時代に、祖国ロシアの真の復興と治安維持のために力を尽くしたいと願うならば……。我が軍は君たちを信頼できる『友軍』として迎え、再びその手に、武器を戻す用意がある」
司令官は紅茶のカップを置き、静かに告げた。
「君たちの希望はどこにあるか、プロホロフ大佐。君と、君の愛すべき部下たちの未来を、君自身の言葉で決めてほしい」
窓の外では、十一月のシベリアの白い雪が静かに舞っていた。
プロホロフは、温かい紅茶の湯気の向こうにある、かつてないほど自由で、そして重い「未来への選択」を前に、深く、静かに思考を巡らせ始めた。




