第30親衛狙撃連隊の決断 2
二、大興安嶺のサバイバル(十月下旬)
通遼の地獄を脱出した親衛部隊を待っていたのは、満州平原の冬の始まりと、大興安嶺山脈の険しい天険であった。
平原のいたるところには、指揮系統を失い、武器を捨てて暴徒と化した他のソ連軍敗残兵の姿があった。彼らは飢えに狂い、現地の集落を襲っては略奪を働いていた。しかし、プロホロフ大佐の統制下にある第30親衛連隊は違っていた。
彼らは一日わずか一掴みの乾パンを分け合い、泥水をすすりながらも、軍服のボタンを留め、モシン・ナガン小銃のボルトを丹念に磨き続けた。
「大佐、前方に満州人の集落があります。敗残兵たちが押し入ろうとしています」
斥候の報告を受け、プロホロフは即座に命じた。
「親衛連隊の規律を見せてやれ。暴徒を排除し、住民を守る」
第30親衛連隊は、同じソ連兵であるはずの略奪者たちに銃口を向け、一瞬でこれを制圧した。怯える住民に対し、プロホロフは一粒の穀物も要求せず、ただ進路の確認だけを行うと、再び極寒の山嶺へと歩を進めた。
「彼らは『日本の悪魔』に追われているのではない、自らの罪業によって縛られているのだ」
傷ついた若い兵士を背負いながら、先任曹長が呟いた。
日本軍の追撃の足音は、常に背後にあった。遙か上空を飛行する偵察機の影が、時折雲の切れ間から彼らを覗き込んでいた、プロホロフは慎重に行動していく。
だが、プロホロフは歩みを止めなかった。連隊は一人として落伍者を出すことを許さず、息絶え絶えの負傷者を交代で担ぎ、文字通り全員の力で極寒の荒野を押し進んだ。
極限の疲労は容赦なく彼らの肉体を蝕んでいた。泥濘を歩くたび、骨の芯まで響くような鈍痛が関節を鋭く刺す。栄養失調によって象のように青白くむくんだ足は、軍靴の中で感覚を失い、ただ一歩を前に踏み出すことさえ、燃えるような苦痛を伴う絶望的な作業と化していた。肉体はとっくに悲鳴を上げ、ただ立ち止まり、大地に横たわって眠りにつくことだけを欲している。
しかし、彼らの瞳から親衛の光が消えることはなかった。
それは、泥に塗れた命を長らえるための、ただの惨めな敗走ではない。国家が、上層部が、そして共産主義という理想が灰燼に帰そうとも、彼ら自身が築き上げてきた「軍隊としての尊厳」を、その血の中に保ち続けるための壮絶なサバイバル行であった。一歩歩くごとに滴る苦痛の汗と血の轍こそが、彼らがまだ人間であり、誇り高きロシアの兵士であることの、唯一の証明だったのである。




