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待たせたな!  作者: 僧籍
第四部 北方防衛開放戦線

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通遼の黄昏:赤軍の滅却 1-1 昭和二十年十月十五日 十三時 ソヴィエト軍側からの視点から

昭和二十年十月十五日 十三時 ソヴィエト軍


地上の「死神」・北方の鉄槌


午前の圧倒的な航空攻撃によって、すり潰された自軍の陣地。


通遼平原の北翼。ザバイカル方面軍の第44戦車旅団が防衛線を敷く丘陵地帯に、不気味な地鳴りが地平線の彼方から響き渡った。


「北方に敵影! ……巨大な戦車集団です!」


ソヴィエト軍の観測兵が叫ぶ。直後、砂塵の向こうから姿を現したのは、伊勢神忠雄中将が率いる北方本国軍の装甲車両部隊であった。


一、北方防衛開放軍北方軍の進撃


先頭を突き進むのは、新一式中戦車、そして新九七式中戦車の隊列である。

それらは従来の日本戦車の面影を完全に払拭していた。新素材《帰還鋼》によって鋳造された重厚な新ボディは、傾斜装甲を全面的に採り入れた進歩的な形状を持ち、鈍い黒色の金属光を放っている。泥を跳ね上げながら着実にこちらへやって来る、まさに「死神」そのものであった。


「防戦に就け! 76mm野砲、撃てッ!」


ソヴィエト軍の陣地から、76mm野砲が一斉に火を噴いた。放たれた徹甲弾が、正確に新一式中戦車の正面装甲へと激突する。

凄まじい金属音とともに、激しい火花が飛び散った。

誰もが撃破を確信した。しかし、硝煙の向こうから現れた新一式の黒い胸甲には、僅かな弾痕と煤のみ。《帰還鋼》の装甲は、赤軍の放った主力を文字通り「火花と共に跳ね返した」のである。


「馬鹿な……76mmが弾かれただと!?」


ソヴィエト軍の砲兵たちが恐怖に凍りつく中、新一式中戦車の長砲身が静かに旋回して*同軸試射銃による照準定めたの後、火を噴いた。精密に放たれた一撃は、ソヴィエト軍の砲陣地を土砂ごと木端微塵に粉砕した。


*仕組み: 主砲のすぐ横に、主砲の砲弾と「まったく同じ弾道を描くように調整された特殊な機銃(12.7mm)」を取り付ける。操作手順:砲手は、まずこの機銃を敵に向けて撃つ(曳光弾が出る)。弾が敵に当たって火花が散るのを目視で確認する。当たった瞬間、主砲の引き金を引く。

メリット: 距離の計算も、照準器の細かい目盛りを読む必要すらない。「機銃を撃って、当たったら主砲を撃つ」という究極にシンプルな動作のため、新兵でも確実に初弾を命中させることができた。



二、泥濘を裂く機動兵站


戦車軍団の背後からは、新素材によって足回りを改良された多目的トラックの車列が、驚異的な速度で追随していた。

通遼平原の深い泥濘は、ソヴィエト軍の車両を次々と足止めし、その機動力を奪っていた。しかし、日本軍の新型トラックは、その泥をものともせず、力強く大地を掴んで走破していく。

トラックの荷台や牽引架からは、次々と以下の兵力が最前線へと運び込まれ、停車と同時に瞬く間に展開していく。


高射砲・対空機関砲部隊

第44戦車旅団のいる丘陵に向かって即座に

砲門を向ける。


重砲兵部隊、重迫撃砲部隊

敵の強固な掩体壕をアウトレンジから叩き潰すため、速やかに陣地を構築。


歩兵部隊

トラックから飛び出すと同時に、99式短小銃を構えてソヴィエト軍の塹壕へと肉薄する。


「完全に退路を塞がれた……」


第44戦車旅団の旅団長は、自車の周囲で次々と炎上するT-34の群れを見ながら絶望した。

伊勢神中将の率いる北方軍は、容赦のない鉄の壁として赤軍の頭上から圧しかかる。


北だけでなく、全方位から攻撃を受け、どの部隊も同じように敵地上軍によってすり潰されていく。


北方軍、東の関東軍、南から迫る今村・掛井両大将の南方軍との間で、巨大な包囲網を形成しつつあった。


---


通遼の黄昏:赤軍の滅却


十七時。


通遼平原を包囲する鉄の枠は、すでに一ミリの隙間もなく閉じられていた。後方への退路となる橋梁は、すべて北方防衛開放軍の航空爆撃によって叩き落とされ、満州、朝鮮を蹂躙したソヴィエト軍は、この地に釘付けにされた。

泥塗れの野戦司令部。受信機から、ノイズ混じりの、しかし明瞭なロシア語の通信が響き渡る。室内の空気は完全に凍りついた。


『……共産党軍とソヴィエト軍残存部隊に告ぐ。貴官らに降伏の選択肢は与えられない。貴官らが蹂躙した地、奪った命の代償は、ここで清算される。……『悪鬼・羅刹』が下すのは、審判ではない。完全なる消去・滅却だ』


---


司令部の崩壊


「降伏すら許さんというのか……」


クラフチェンコ上級大将の足元で、指から滑り落ちた煙草が泥にまみれてジュッと音を立てた。

その呟きは、絶望という名の伝染病となって野戦司令部の塹壕内に瞬く間に広がった。臨時極東第一、第二方面軍の司令官たちは、矢印を書き込む余白すら失われた地図を前に、互いの顔を見合わせたまま凍りついている。


参謀たちからは、すでに戦術を論じる知性は消え失せていた。圧倒的な包囲網と「完全なる消去」の宣言。彼らの眼差しは、死を待つ囚人のような虚無を宿し、ただ地図の上の「空白」を彷徨っていた。


「司令官閣下! ご指示を! 退却命令か、それとも総員突撃か……!」


若い副官が血走った目で叫ぶが、クラフチェンコは応えない。いや、応えようがなかった。後方の橋はすべて航空爆撃で落とされ、退却する道はない。突撃しようにも、装甲と火力の壁に生身でぶつかるだけの自殺行為だ。将軍という肩書きは、このすり鉢の底では何の役にも立たなかった。


---




野戦司令部の隣の塹壕の無線機が並ぶ通信班は、まさに狂乱の坩堝(るつぼ)と化していた。


「第44戦車旅団、応答しろ! ……駄目です、信号ありません!」


「第17狙撃師団より入電! 『敵装甲部隊が陣地を蹂躙! 黒い戦車だ、我々の76ミリがすべて弾かれる!』……通信途絶!」


「南西防衛線! 『味方のM4戦車が……いや、違う、日の丸だ! 奴ら、我々の兵器で……ギャアアァッ!』」


無線手たちは、顔面を蒼白にしながらダイヤルを回し続けた。しかし、ヘッドセットから聞こえてくるのは、整然とした戦術報告ではない。


それはただの断末魔の悲鳴であり、至近距離で炸裂する砲弾の轟音であり、無限軌道に肉体が轢き潰される不快な音の連続であった。


『司令部、砲兵支援を! 砲兵支援を頼む! ……くそっ、誰か応答しろ!』

「こちらに支援できる砲など残っていない! 各部隊の判断で後方に下がれ!」

『退路はないんだぞ! 橋は全部落ちている! 俺たちをここで死なせる気か!』


ドンッ!

無線手の一人が、半狂乱になってヘッドセットを机に叩きつけた。彼らは物理的な弾丸を浴びるよりも先に、鼓膜から直接流れ込む「味方の殲滅」という絶望的な情報網によって、完全に精神を破壊されていた。


---


一方、司令部の外――通遼平原の泥濘地では、軍隊という巨大な組織が完全に崩壊し、共産党軍のモラルも崩壊していく。


「逃げるな! 祖国のために戦え! 退却する者は私がこの場で処刑する!」


狂気に駆られた政治将校が、泥まみれのトラックのボンネットに立ち、トカレフを振り回してわめき散らしている。だが、彼の足元を我先にと逃げ惑う兵士たちの群れは、もはやその思想の言葉に耳を貸さなかった。


「どけっ! 邪魔だ!」

「撃つなら撃て! 前に行っても『ヤポンスキーの悪魔』に消し炭にされるだけだ!」


一台の多目的トラックに、定員を遥かに超える数十人の兵士が群がり、互いを蹴落としながら荷台へよじ登ろうとしている。だが、焦燥に駆られた運転手が強引にアクセルを踏み込んだため、泥に足を取られた兵士たちが次々と重い6輪駆動の車輪の下へ巻き込まれていく。

味方を轢き殺しながら狂ったように進むトラックも、数百メートル先で西から降り注いだロケット弾の直撃を受け、凄まじい火柱を上げて爆散した。


「来るぞ! 奴らが来る!」


誰かの絶叫と共に、兵士たちが一斉に平原の地平線を見た。

暮れなずむ黄昏の空の下、北の丘陵からは伊勢神中将の率いる黒き新鋭戦車の群れが。南と西からは今村・掛井両大将が操る鹵獲装甲車列が。それぞれが巨大な鉄の壁となって、ゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてくる。


「降伏だ! 撃たないでくれ、銃を捨てる!」


数十名のソヴィエト兵が、白旗の代わりに自らの白いシャツを振りかざし、武器を放り投げて敵陣へ向かって歩き出した。


しかし、彼らを待っていたのは無慈悲な重機関銃の水平掃射だった。

バラバラバラッ!

シャツを振っていた兵士たちは、大口径の銃弾によって、えぐられ、粉砕され、分割され、瞬く間に血だまりの中に崩れ落ち、泥と同化した。


『完全なる消去・滅却』――その通告に嘘はなかった。敵は捕虜をとる気など毛頭なく、ただ機械的な作業のように、平原に群がる赤軍を一人残らずすり潰しにきているのだ。


「ウラーッ(万歳)!!」


もはや逃げ場もなく降伏すら許されないと悟った一部の狂信的な兵士たちが、銃剣を煌めかせて無謀な突撃を試みる。しかし、彼らの肉体は、敵が展開した対空機関砲による濃密な火網に触れた瞬間、文字通り赤い肉片となって平原の空に散華した。

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