満州奪還・ソ連軍包囲殲滅作戦:『回天・通遼作戦』 8-3
13:00 | 地上の「死神」:戦車軍団の進撃
通遼平原の北翼を見下ろす緩やかな丘陵にある北方防衛開放軍・北方本国軍の前線指揮所。
静かな眼差しで双眼鏡を覗き込んでいるのは、軍司令官・伊勢神忠雄中将である。彼の視界の先では、敗色濃厚となりながらも頑強な防衛線を敷くソヴィエト軍極東正面軍・第44戦車旅団の陣地が、泥と硝煙の中に息を潜めていた。
「今村大将、掛井総司令官が南と西から網を絞るのが十五時……。ならば、我らの役目はそれまでにソヴィエト軍の北側を完全に圧し潰し、逃げ場なき『すり鉢の底』へ追い込むことだ」
伊勢神は懐中時計の蓋をパチンと閉じると、マイクに向けて、各部隊に声を放った。
「全軍、前進。我らの戦をソヴィエト軍に見せてやれ」
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伊勢神の命令と同時に、丘陵の稜線から黒い鉄の津波が湧き出した。
新一式中戦車、そして新九七式中戦車の機甲集団である。
かつての脆弱な日本戦車の面影など、そこには微塵もなかった。傾斜装甲を全面的に採用した進歩的なフォルムと、重厚な新ボディ。それらは新素材《帰還鋼》によって製造され、光を浴びて僅かに黒い金属的な光沢を放っている。
ソヴィエト軍の陣地から、狂ったような砲声が上がった。76mm野砲の徹甲弾が、前進する新一式の正面装甲を捉える。
コーン、と硬質で巨大な金属音が響き、凄まじい火花が爆散した。
ソヴィエト兵たちの歓声が上がろうとしたその瞬間、硝煙を割って現れた新一式は何事もなかったかのように無限軌道を鳴らし、前進を続けていた。76mmの直撃を受けながら、黒い胸甲には小さな弾痕一つと黒い煤のみ。新素材の装甲は、敵の主力を文字通り「火花と共に跳ね返した」のだ。
「フン……を侮ったな」
伊勢神は冷たく微笑んだ。
「……全車、攻撃自由。一撃で根絶やしにせよ」
直後、新一式と新九七式の長砲身が一斉に火を噴いた。狂いなく照準された一撃は、ソヴィエト軍の砲陣地を、防盾や兵員ごと泥の泡に変えていった。
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戦車群の圧倒的な蹂躙に続き、伊勢神の視界に、驚異的な速度で展開する自軍のトラックの列が入ってきた。
通遼のこの季節の泥濘は、ソヴィエト軍のトラックや装甲車を次々と捕らえる底なし沼だ。しかし、本国軍が擁する頑丈な多目的トラックの群れは違った。新素材で改良された足回りと駆動系を持つこの新型トラック群は、深い泥濘をまるで乾いた大地であるかのように力強く走破していく。
トラックの荷台から、伊勢神の緻密な計算に基づいた各種兵科が、最前線の泥の上に次々と吐き出されていく。
「迅速に展開せよ! 敵に息を吐かせるな!」
トラックから飛び出した歩兵部隊が、小銃を手に瞬く間に散兵線を形成し、戦車が切り裂いたソヴィエト軍の塹壕へと肉薄していく。同時に、牽引されてきた対空機関砲や高射砲、重砲兵部隊が、停車からわずか数分で射撃陣地を構築。砲口を水平に揃え、防衛線を維持しようとするソヴィエト軍の残存小隊へ向けて、肉片製造機と化す容赦ない火網を浴びせ始めた。
空の支配権を奪われ、地上の機動力すらも圧倒されたソヴィエト軍第44戦車旅団は、もはや組織的な防衛を完全に不可能にしていた。
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13:45
伊勢神忠雄中将が率いる北方本国軍は、ソヴィエト軍の北側を完全に粉砕し、彼らを平原の中央へと引き摺り下ろしつつあった。
「第44戦車旅団、実質的に壊滅。敵残存歩兵は南西方向へ逃走中」
無線から流れる淡々とした報告を聞きながら、伊勢神は双眼鏡を下げ、満足げに頷いた。
「見事だ。これで北の蓋は完全に閉まった」
伊勢神は南の空を見つめた。そこには今村・掛井両大将の戦域が広がっている。
「あとは南西から叩き込めば、この通遼平原は巨大な処刑場となる。共産主義という妄執に憑りつかれた哀れなものどもよ、我らがもたらす『完全なる消去・滅却』の秒読みの中で、己の罪を数えるがいい」
伊勢神中将の意志の元、地上の「死神」たる戦車軍団は、一ミリの油断もなく、さらなる圧搾のためにその黒い車体を前進させ続けた。
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14:00|関東軍 騎兵第71連隊の奮戦
通遼平原をすり鉢の底に見立てたソヴィエト軍包囲殲滅作戦――『回天・通遼作戦』は、その火力を最高潮に達せさせていた。北からの伊勢神機甲軍、南からの今村・掛井両大将による圧迫が進む中、その包囲網の東翼を維持していたのが、関東軍騎兵第71連隊を中核とする装甲部隊であった。騎兵第71連隊は新型の装甲車両を受領し、早くも戦闘に参加する。新型戦車の操作性は抜群だ。
「敵、T-34、さらに後方に歩兵多数! 距離千四百!」
新九七式中戦車のキューポラから身を乗り出し、双眼鏡を覗き込む連隊長・斎藤中佐の視界は、爆風が跳ね上げる土砂と黒煙で激しく歪んでいた。
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包囲されたソヴィエト軍極東軍の残党は、自らの破滅を悟っていた。それゆえに、彼らの放つ反撃は狂気じみた凄まじさを見せていた。生き残っていた76mm野砲やT-34-85が、文字通り全弾を叩き込む勢いで砲声を上げ、斎藤連隊の陣地へ容赦ない鉄の雨を降らせている。
弾着の衝撃波が大地を揺らし、新九七式の車体を激しく震わせる。装甲板に鋭い破片が激突するたび、金属的な悲鳴が鳴り響いた。
「慌てるな! 敵は退路を失って狂っているだけだ!」
斎藤中佐は、通信器の送話器を握り締め、各車へ向けて怒号のような声を送った。その声には、一切の動揺がなかった。
「我が連隊がここを割られれば、通遼の包囲は瓦解する! 北方軍の腹を突かせるな! 帰還鋼の強度を信じろ、奴らの砲弾では我らの胸甲はブチ抜けん!」
直後、斎藤の乗る連隊長車の正面装甲に、ソヴィエト軍が放った76mm徹甲弾が直撃した。
凄まじい火花と金属音が炸裂し、車内の戦車兵たちが一瞬身をすくめる。しかし、新素材《帰還鋼》で全面再設計された新九七式のボディは、その打撃を受け流した。装甲は耐え、敵弾の残骸を跳ね返した。
「見たか! 効かん! 鈴木、あの火点を潰せ!」
「応! 照準よし、撃てッ!」
新九七式の長砲身から放たれた一撃が、直撃をよこしたソヴィエト軍の対戦車砲を、防盾ごと木端微塵に吹き飛ばした。
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斎藤中佐の指揮は冷静かつ的確であった。彼は激しい砲火に晒されながらも、敵の突撃陣形が飽和し、連携が乱れる瞬間を確実に見極めていた。
「第三中隊、前方の泥濘に足を取られた敵の重戦車(KV-85)を狙え。あれの旋回は鈍い。側面へ回り込んで確実に仕留めろ!」
「第二中隊はそのまま待機、敵歩兵が塹壕から飛び出した瞬間に、重機関銃で制圧しろ。一歩も近づけるな!」
無線を通じて響く斎藤の指示は、混乱する戦場において、部下たちにとっての絶対的な道標となった。
連隊の戦車兵たちは、連日連夜の猛訓練で叩き込まれた戦術を遺憾なく発揮した。機動性を活かして射撃位置を細かく変え、足を止めて撃ち返してくるソヴィエト軍に対し、常に優位な位置からアウトレンジでの攻撃を繰り返した。
「撃ち返せ! 倍にして返してやれ!」
若き戦車長たちが叫び、主砲が次々と火を噴く。ソヴィエト軍の戦車が一本の火柱となり、あるいは無限軌道を吹き飛ばされて平原に転がっていく。ソヴィエト軍がどれほど死に物狂いで砲弾を放ち、肉薄を試みようとも、斎藤中佐が築いた「鉄の壁」は、わずか一歩の後退も許さなかった。
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14:;30|包囲網
斎藤連隊の正面に展開していたソヴィエト軍第22狙撃師団の突撃部隊は、完全にその牙をへし折られた。平原には、黒煙を上げて沈黙するT-34の残骸と、日本軍の圧倒的な応射の前に動かなくなったソヴィエト軍兵の屍が累々と横たわっている。
「連隊長、敵の攻勢、完全に頓挫! 後退を始めています!」
観測手からの報告に、斎藤中佐は双眼鏡を下げ、煤汚れた顔で冷たく微笑んだ。
「追撃は深追いするな。我々の任務はここを塞ぎ切ることだ。一兵たりとも東へ逃がすな」
関東軍騎兵第71連隊が死守した東翼は、一ミリの綻びも見せることなく強固に維持された。逃げ道を完全に断たれ、平原の中央へと押し込められたソヴィエト軍の群れは、このあと十七時を迎える。
それが、掛井大将から下される、降伏なき「完全なる消去・滅却」の審判へと繋がる、逃れられぬ死の檻の完成であった。




