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待たせたな!  作者: 僧籍
第四部 北方防衛開放戦線

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天津へ上陸  張家口の戦い 7-4 「丸一陣地」の死闘そして反撃 1945年10月7日

挿絵(By みてみん)


―張家口、反攻―


鉄鎖の陣地


1945年10月7日。張家口北方の「丸一陣地」は、土と血に塗れた袋小路となっていた。

根本博中将率いる駐蒙軍は、三週間に及ぶ不眠不休の戦闘により、全兵力の三分の一を喪失していた。補充の当てもなく、弾薬も底を突きかけている。しかし、根本に撤退の二文字はなかった。ここが決壊すれば、ソヴィエト軍の装甲集団は北京まで一気に南下し、避難を急ぐ四万の同胞は確実に蹂躙される。


「一歩も引くな。ここが我らの墓場であり、同胞の盾である」


地図を見つめ、根本は静かに呟いた。

外ではソヴィエト軍の重砲火が鳴り響き、陣地の土壌を絶え間なく削り取っている。爆風と破片が壕の入り口を叩く。砲撃の後は、決まって航空攻撃と戦車による力押しの突撃が来る。それがこの数日間の繰り返される地獄だった。


---


蒙古平原の電撃戦:丸一陣地攻防戦


広大なモンゴル平原のただ中に築かれた駐蒙軍の拠点「丸一陣地」は、赤軍の猛砲撃に晒され、崩壊の危機に瀕していた。塹壕の中、細い息を吐きながら対空機銃の引き金に指をかけていた兵士たちの耳に、不吉な重低音が届く。


午前10時。ソヴィエト軍のYak-9DD戦闘機隊に護衛されたIl-2攻撃機の編隊が、地を這うような低空飛行で陣地へ接近してきた。空飛ぶ戦車と形容されたIl-2の主翼から、23mm機関砲の火光が連続して放たれ、陣地の土嚢が激しく弾け飛ぶ。


駐蒙軍の兵士が絶望とともに空を見上げたその時、南の空を覆う雲が鋭く引き裂かれた。

雲を割り、大出力を誇るエンジンの爆音を轟かせて急降下してきたのは、南方軍航空隊所属のP-47「稲妻」の編隊であった。南方戦線から島伝いに天津の航空基地まで進出していた精鋭部隊である。


重戦闘機P-47は、ソヴィエト軍の砲兵陣地に対して迷いなく機首を向けた。主翼下から解き放たれた複数のロケット弾が、数条の白い煙の尾を引きながら地表へ殺到する。直後、赤軍の122mm榴弾砲の火点が、連続する凄まじい火柱となって土砂ごと虚空へ吹き飛んだ。


ロケット弾を撃ち尽くし、身軽になった「稲妻」隊は、そのまま空戦へと移行した。低空で旋回性能を活かそうとするYak-9に対し、P-47は圧倒的な馬力による速度差で肉薄。主翼に並ぶ12.7mm重機関銃、計8挺が凄まじい火を噴き、ソヴィエト戦闘機の機体を文字通り細切れに破砕していく。

さらに高高度からは、制空戦闘機、P-51「麒麟」の編隊が突っ込んできた。上空からの正確無比な一撃離脱により、重装甲を誇るIl-2攻撃機が次々と黒煙を上げて平原へと墜落していった。


「日の丸だ! 味方機が来たぞ!」


数分前まで赤軍の独壇場だった空域は、一瞬にして日本の絶対的な航空支配下に置かれたのである。



---



地上でも、赤軍の予測を完全に上回る速度で事態が暗転していた。

丸一陣地の背後、南方から地平線を覆うほどの猛烈な砂塵が巻き上がる。展開してきたのは、接収したダッジやGMCなどの多目的トラックで構成された、諸兵科連合の機動砲兵隊であった。彼らは速度を落とすことなく、戦線後方の泥濘を走破して急停止。停車からわずか数十秒で、牽引したロケット砲や重迫撃砲の射撃準備を完了させた。


「てーっ!」


指揮官の号令とともに、数十発のロケット弾が金属音を立てて連続放射される。陣地の周辺は、味方の激しい援護射撃による爆風と、巻き上がった黒煙で一気に視界が閉ざされた。赤軍の歩兵部隊は、この予期せぬ鉄の雨によって突撃の足足を完全に止められ、大混乱に陥った。


---


その猛烈な土煙を切り裂き、戦闘の幕が上がった。快速を誇るM18「電光」とM24「迅雷」で編成された機甲部隊が、ソヴィエト軍の戦線に開いた隙間へと全速で飛び込んだ。M18「電光」は、その超軽量の車体と大馬力エンジンを活かし、最高時速80キロを超えるスピードで戦場を疾走する。赤軍の主力戦車T-34-85がその姿を捉えようと、鈍重な砲塔を旋回させるが、M18はその先回りを合図にするかのように、死角である側面や背後へ回り込んだ。近距離から放たれた76mm徹甲弾が、T-34の薄い側面装甲を容赦なく撃ち抜く。M24「迅雷」もその軽快な機動性で随伴し、敵の通信車両や指揮所を次々と踏みつぶして戦線をズタズタに引き裂いていった。さらに、中央の煙を割って、M4「神官」とM36「雷轟」の主力機甲部隊が重低音を響かせて進出した。


「距離千二百。敵、T-34。……撃て!」


M36「雷轟」の長砲身90mm砲が、鼓膜を裂く硬質な金属音とともに火を噴いた。放たれた徹甲弾は、ソヴィエト軍のT-34-85のみならず、米国からのレンドリース機材であるM4A2シャーマンの正面装甲すら容易に貫通。一撃で内部の弾薬庫を誘爆させ、敵車輌を激しい火柱へと変えていく。日本軍の徹底したアウトレンジ(射程外)からの正確な連射に対し、赤軍の戦車長たちは自車の射程内に敵を捉えることすらできず、次々と鉄の棺桶へ変えられていった。反撃の糸口を完全に失ったソヴィエト軍の戦列は、雪崩を打つように自壊を始めた。


「敵軍、包囲を断念! 全面退却を開始! 敗走しています!」


丸一陣地の観測壕から、割れんばかりの叫び声が響いた。手にした機銃の銃身を熱くした兵士たちは、硝煙の向こうで無残に瓦解し、北へと敗走していく赤軍の背中を、ただ圧倒的な戦慄とともに見つめていた。蒙古平原を覆った一瞬の静寂の中、日本の航空隊のエンジンの音と、装甲機動部隊の走行音が響く。


---


ソヴィエト・モンゴル連合騎兵機甲集団の指揮官、ソヴィエト軍のイッサ・プリエフ少将は、M3ハーフトラック指揮車の中で激しく揺られながら、血の気の引いた顔で無線機の受話器を握りしめていた。


丸一陣地に立てこもる日本軍を包囲し、最後の一撃を加えて完全に圧殺する――そのはずだった。しかし、南から突如として現れた日本軍北方防衛開放軍第8方面軍の反撃は、プリエフの予測を完全に凌駕していた。

上空では護衛のYak-9DDごとIl-2攻撃機隊が「稲妻」と「麒麟」に文字通り叩き落とされ、地上ではM36「雷轟」の90ミリ砲による容赦ないアウトレンジ射撃と、最高時速80キロで戦場を狂奔するM18「電光」の側面奇襲によって、自慢の機甲先遣隊がまたたく間に鉄の残骸へ変えられていく。


「これ以上の戦闘は不可能です! 各所で戦線が自壊しています!」

「集団の全滅を避ける。……全軍、張北(ちょうほく)方面へ退却せよ!」


プリエフは苦渋の決断を下した。これ以上の遅滞は、蒙古平原におけるソヴィエト軍の完全な消滅を意味していた。


---


撤退の命令が下ると同時に、最前線に踏みとどまっていたソヴィエト軍の機甲部隊が動き出した。彼らに課せられた任務は、生きて帰ることではない。後方の混成部隊が離脱するための「盾」となること――すなわち、決死の殿であった。


「敵の快速戦車(M18)を近づけるな! 砲塔を回せ!」


生き残ったT-34-85と、米国製レンドリース機材であるM4A2シャーマンが、迫り来る日本軍の機甲奔流の前に立ちはだかった。黒煙を吹きながらも、T-34の85ミリ砲が狂ったように火を噴く。

その時、重迫撃砲から敵陣地へ大量の煙幕弾を撃ち込まれた。T-34-85の部隊を煙幕は覆い、日本軍の戦車へ狙いが定まらない、さらにロケット砲、迫撃砲での攻撃が続く。日本軍のM18「電光」やM24「迅雷」は続いて平原の砂塵の中を突撃し、容赦なく側面装甲へ徹甲弾を叩き込んでいく。次々と爆発し、炎上するソヴィエト戦車。しかし、ソヴィエト軍はその熾烈な砲撃戦が作り出したわずかな硝煙の隙間を突き、後方部隊の脱出が始まっていた。


---


戦車隊が爆炎と煙を上げて時間を稼ぐ中、その後方のモンゴル人騎兵部隊が退却していく。

かつて世界を震撼させたハーンの末裔たちは、近代戦の圧倒的な火力戦の前に乗馬襲撃の機会を奪われ、今はただ、愛馬の尻に鞭をあて、「Choo!」と叫び、張北を目指して砂塵の中を疾走していた。手綱を握る彼らの頭上を、ロケット弾の爆風と、退却を阻もうとする日本軍航空隊の12.7ミリ重機関銃弾が鋭く引き裂いていく。


それに連なるように、ソヴィエト軍のGMCトラックや、泥にまみれた軽装甲車両の車列が、エンジンを悲鳴のように吹かしながら次々と北西へと針路を転じた。


「急げ! 止まるな! 止まれば空から戦闘爆撃機が降ってくるぞ!」


車輌の窓から身を乗り出した将校が絶叫する。実際に、上空からはロケット弾を撃ち尽くしたP-47「稲妻」が超低空で襲いかかり、退却するトラックの列を機銃掃射で次々と木端微塵に粉砕していた。それでも、混成部隊は炎上する戦友の車輌を避けて狂ったように速度を上げ、平原の彼方へと逃れていった。


---


騎兵隊とトラックの波が地平線の向こうへ消え去っていくのを見届けるように、最前線で盾となり続けていたソヴィエト戦車隊の残存が、ついに動きを止めた。


十数台にまで減り、足回りを破壊されながらも砲撃を続けていたT-34たちが、激しい黒煙を吐きながらゆっくりと後退(ギヤ)を入れ、張北の退路へと車体を向けた。もはや装甲は弾痕でズタズタになり、戦車長たちはハッチから身を乗り出す余裕すらなく、ただ生き残るために無限軌道を回した。


だが、日本軍の追撃の手は緩まない。

中央から進出してきたM36「雷轟」の長砲身が、退却するソヴィエト戦車の背中を正確に捉えていた。


「距離千。敵、撤退中のT-34……。次弾、放て!」


――ズガァァン!


硬質な金属音が蒙古平原に響き渡り、最後尾を走っていたT-34のエンジン室が直撃を受けて一瞬で吹き飛んだ。大爆発を起こして狂ったように回転し、横転する戦車。それを殿の最後の犠牲とし、数台のソヴィエト戦車が命からがら砂塵の向こうへと消えていった。戦場に残されたのは、無数に立ち上る黒煙と、鉄と肉が焼ける異臭、そして勝者である日本軍北方防衛開放軍の、大地を震わせる無限軌道の重低音だけであった。丸一陣地をめぐる激闘は、ソヴィエト・モンゴル連合軍の壊滅的敗走という形で、完全に幕を閉じたのである。



---


将星の合流


午後2時。硝煙の残る戦場に、一台の装甲車が滑り込んできた。

車から降り立ったのは、第8方面軍司令官・今村均中将である。

根本博中将は、ボロボロになった軍服の襟を正し、今村を迎えた。


「根本君、よく持ち堪えてくれた。これより我々が代わる」


今村の言葉に、根本は短く敬礼を返した。


「駐蒙軍、これより第8方面軍の指揮下に入ります。避難民の脱出は既に完了しております」


二人の将星が握手を交わす暇もなく、今村は即座に幕僚を振り返った。


「第8方面軍、全軍に命ずる。敵の再編を許すな。直ちに追撃を開始せよ」


休む間もなく、日本の装甲部隊が北へ向けて進撃を再開した。張家口の荒野には、退却するソヴィエト軍を追い詰めるエンジン音と、大地を揺らす進軍の足音が響き渡っていた。

防衛戦は終わり、ここから攻勢への転換が始まったのである。

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