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待たせたな!  作者: 僧籍
外伝1 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

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南方戦線開放派遣軍、結成 —— 南進 3 提督の帰還「因幡乃白兎」艦隊

南方救出艦隊「因幡乃白兎」の司令長官に任命された古村啓蔵大佐は新たな艦隊の陣容を海軍基地で確認していた。

「因幡乃白兎」艦隊の旗艦として、古村啓蔵大佐が選んだのは、接収したアメリカ海軍の最新鋭駆逐艦《ギアリング級駆逐艦》だった。


かつて軽巡洋艦『矢矧』と共に沖縄の海に沈み、漂流の末に救助された古村は、その白い制服を潮風になびかせ、デッキを踏み締めました。


「船はアメリカ軍のものだが、乗っているのは帝国の魂だ。……清水参謀、各艦の状況は」

「はっ。第二艦隊の生存者1,600名、およびフィリピンの地上戦を戦い抜いた海軍陸戦隊、艦上勤務経験者、計3,000名。すべて配属を完了しました」


****


幸運艦と不屈の士

古村の視線の先には、二隻の「生還船」がいた。

一隻は、ほぼ無傷で多くの将兵を救い出した武田豊中佐率いる「初霜」。

もう一隻は、激戦を神業のような操艦で切り抜けた寺内正道大佐率いる「雪風」。


この二隻こそが、ズタズタに引き裂かれた打ちのめされた連合艦隊を繋ぎ止める力となっていた。


****


初霜と雪風の救助


1945年4月7日、坊ノ岬沖。

北緯30度43分、東経128度04分。日本の命運を背負った第二艦隊が、死の淵に立たされていました。


戦艦『大和』の左舷は、既に数本の魚雷を受け、15度以上も傾斜していました。上空を埋め尽くすアメリカ軍のヘルダイバーとアベンジャーが、最期の止めを刺さんと急降下を開始したその時――。


「……何だ、あの光は!?」


大和の艦橋で、伊藤整一長官は絶句しました。

激しい雷鳴と共に、空間そのものがガラスのように割れ、そこから見たこともない戦闘機隊が、凄まじいエンジン音を響かせて飛び出してきた。《帰還艦隊》・第一機動部隊。


彼らが放つ20ミリ機関砲の猛火は、無敵を誇ったアメリカ軍機を、空中で粉砕していきました。数分前まで「死」を待つばかりだったのに、彼らは一瞬にしてその「死」を蹴飛ばしていったのだ。



静寂の海、漂う残骸

敵航空隊が掃討され、去りゆくエンジンの残響が消えると、そこには異様な静寂が訪れた。

燃え盛る重油の煙が立ち込め、海面は黒く厚い油の膜で覆われている。


そこには、戦艦『大和』。そして、駆逐艦『初霜』『雪風』。その影には、満身創痍ながらも波間に浮かび、艦首を失った『涼月』と、上部構造物を無惨に破壊された『冬月』の痛々しい姿があった。


「命を繋げ」:血と油の救出劇


「総員、救助開始ッ! 縄梯子なわばしごを下ろせ!」


『初霜』の武田豊艦長、そして『雪風』の寺内正道艦長の号令が、波間に響いた。

彼らの眼前には、沈没した軽巡『矢矧』や駆逐艦『磯風』『浜風』『朝霜』『霞』から投げ出された、約1,600名の将兵が漂っていた。


「……助けてくれ……!」

「こっちだ、手を離すな!」


海面は重油で真っ黒に汚れ、生存者たちの顔も服も判別がつかない。油を飲み込み、また、煙に肺を焼かれた兵士たちが、必死に救助の網に縋り付きます。初霜と雪風の乗員たちは、自らも油まみれになりながら、一人、また一人と戦友を甲板へ引き揚げました。


救助された将兵たちは、救護班から渡された僅かな真水で喉を潤し、変わり果てた艦隊の姿を見つめていた。


しかし、大和はまだ浮いている。

そして、空の向こうから現れた「謎の援軍」が、運命の歯車を強引に回したことを、誰もが理解していた。


「長官、収容完了しました。……生存者、約1,600名。これより大和を護衛します」


武田艦長の報告を、大和の艦橋で受け取った伊藤長官は、血の滲むような思いでうなづいた。


****

1945年7月、フィリピン・スービック湾。

かつてアメリカ海軍の東洋拠点であったこの港は、いまや「南方戦線開放派遣軍」の重要兵站基地へと塗り替えられていた。


夕暮れ時、波静かな入り江に突き出した桟橋の端で、二人の男が並んで海を見つめていた。

一人は、駆逐艦「初霜」艦長・武田豊中佐。

もう一人は、歴戦の「雪風」を駆る寺内正道大佐。


背後のドックでは、再編を終えたばかりの駆逐艦たちが、翌日の出撃に備えて重油を飲み込んでいた。


記憶の断片:黒い海

「……時折、手のひらが重油の匂いを発しているような気がして、目が覚めることがあります」

武田が、自身の白手袋を見つめながら低く切り出した。


寺内は愛用のタバコをくゆらせ、紫煙の向こうにある水平線を見つめた。

「坊ノ岬か。あの日の海は、重油と血で、まるで生きた怪物のようだったな」


あの日、空間が割れて《帰還艦隊》が現れなければ、自分たちは今ここにはいなかった。戦艦『大和』を守り、最後の一弾を撃ち尽くして沈むはずだった運命。


「初霜の甲板に引き揚げた連中の顔を、今でも覚えています」

武田が言葉を継ぐ。

「全身油まみれで、目だけが異様に白く光っていた。矢矧の乗員、磯風の若造……。救助の網に縋り付く彼らの指先から、ヌルリと油が滑り落ちそうになるたびに、私の心臓は止まりそうだった。……離すな、離すなと、喉が潰れるまで叫び続けましたよ」


生還の重み:1,600名の再会

寺内は、ふっと短く笑った。

「雪風でも同じだ。収容した連中は、救護班の真水を一口飲むなり、泣き出す者もいれば、空を睨んで震える者もいた。……武田、今日、あの時の1,600名のうち、何人がこの基地に集結しているか知っているか?」


武田は頷いた。

「再編された『新・連合艦隊』の各艦、そして『輸送船や工兵・輜重大隊』の基幹要員として、ほぼ全員が現場に復帰しています。彼らは一度死んで、あの空の援軍と、我々の手によって呼び戻された命だ。その顔つきは……以前の、ただ死を待つ兵士のそれではありません」


「そうだ」

寺内が力強く頷く。

「彼らは知っている。自分たちが『救われた』ことの重みをな。今日、第9師団の兵員輸送を護衛していた時、かつて雪風が救った磯風の生き残りが、今は輸送船の艦長として私に手旗信号を送ってきた。――『貴艦の幸運に、再び預かる』とな」


幸運艦の宿命:未来への架け橋

「雪風は幸運艦と呼ばれます。だが、寺内さん。私は思うのです。あの救助劇こそが、我々の『幸運』を決定づけたのではないかと」

武田の言葉に、寺内はタバコを口から離した。


「運というのは、天から降ってくるものではない。あの黒い海で、沈みゆく戦友の手を、一人でも多く掴み取ろうとした執念……それが、我々のふねを今日まで浮かせてきた。そして今、その1,600名の執念が、この南方派遣軍の巨大なエンジンになっている」


二人の視線の先、夕闇に溶け込み始めた湾内には、本土へ帰還する戦艦『大和』の巨大な船体が聳え立っていた。


「あの時、大和を護衛して引き返した我々は、負け犬だと思っていた。だが、違った」

武田が静かに拳を握った。

「あの1,600名を救ったからこそ、今、この戦いが可能になった。……寺内さん、次は救助ではなく、共に『勝利』を掴み取りましょう」


「ああ、もちろんだ。雪風も、初霜も、まだ沈むわけにはいかん」

寺内は大佐らしい豪胆な笑みを浮かべ、武田の肩を叩いた。

「この1,600名の『命の種』が、アジアの海にどんな花を咲かせるか……日本が終わったと思っている連中どもに見せてやろうじゃないか」


夜風が、スービック湾の穏やかな海面を撫でていく。

かつて絶望の象徴だった「坊ノ岬の生還者」たちは、今や「新連合艦隊」という名の巨大な意志となって、反撃の時を静かに待っていた。


****

新たなる艦隊の護衛艦たち


初霜、雪風その横には見慣れぬ平らな甲板と、機能性を優先した武骨なシルエット。接収された8隻アメリカ軍駆逐艦《フレッチャー級》がいる。


そして、旗艦の最新鋭駆逐艦《ギアリング級駆逐艦》。


1. 隙のない重武装


日本の駆逐艦が「水雷戦(魚雷)」に命を懸けていたのに対し、《フレッチャー級》は「空も、海も、潜水艦も、全部この一隻で叩き潰す」という思想で作られています。


5インチ単装両用砲 5門:

艦首から艦尾までバランスよく配置されたこの砲は、対艦攻撃だけでなく対空射撃もこなす万能砲です。


多数の対空火器:

ボフォース40mm機関砲とエリコン20mm機銃が艦の至る所に配置されている。日本の搭乗員が最も恐れた弾幕を、今度は自分たちが操る。。


2. 戦闘指揮官室(CIC)


日本の駆逐艦が索敵機の情報と電探と艦橋ブリッジの双眼鏡で敵を探していた時代、フレッチャー級はそれだけではなく艦内に優秀で信頼性の高いレーダーを搭載し、レーダー画面のある海図室を「戦闘情報センター」として活用する「CIC(戦闘指揮所)」で戦います。


レーダーとの連動:

夜闇の中でも、荒天の中でも、レーダーが捉えた敵の位置が正確に表示される。


射撃管制装置(FCS)が敵の速度や距離を瞬時に計算。古村大佐たちが驚愕するほどの命中精度を誇る。


3. 「不沈」を支えるタフネスと平甲板


日本の駆逐艦は波切りを良くするために艦首を高くしていましたが、フレッチャー級は艦首から艦尾まで一直線の「平甲板」構造。


頑丈な船体:

大量生産を前提としながらも、構造は極めて堅牢。多少の被弾では沈まず、ダメージコントロール(応急処置)のしやすさ。


居住性の良さ:

なんと「アイスクリーム製造機」や「冷房」、「洗濯機」まで完備。


4. 信頼の「機関」と機動力


35ノット(約65km/h)以上の高速を維持しながら、故障知らずで地球を何周でもできるほどの信頼性。


蒸気タービンの咆哮:日本の艦に比べて機関の信頼性が圧倒的に高く、急加速・急旋回も思いのまま。雪風の寺内大佐が「これなら、どんな弾幕もかわせる」と確信するほどの機動力。


古村啓蔵大佐が乗り込むのは、最新鋭駆逐艦《ギアリング級駆逐艦》はフレッチャー級駆逐艦の最終発展形。


****


新太平洋艦隊の旗艦、ギアリング級駆逐艦の艦橋。そこはかつての帝国海軍の装備とは違う、最新技術による機能美に支配された空間だった。


古村大佐は、英語の銘板が整然と並ぶレーダーモニターの前で足を止め、その緑色の発光を見つめていた。


「……清水参謀。帰還艦隊がもたらした未来の電探も驚異的だが、この米製駆逐艦の電探もまた、恐るべき代物だな。我が軍の電探とは比較にならん。20キロ先の敵艦の輪郭が、まるで指呼の距離にあるかのように、この画面に描き出されているぞ」


その声には、技術的格差への驚嘆と、それを手中に収めた軍人としての冷徹な高揚が混じっていた。


古村の脳裏に、かつて軽巡「矢矧」の艦橋で過ごした凄絶な時間が去来する。降り注ぐ敵機を肉眼で追い、水柱の合間を縫うように必死の回避運動を命じていた、あの泥臭い死闘の記憶。目視と勘だけが頼りだったあの時代が、今や遠い神話の世界の出来事のようにさえ感じられた。


ふねが波を蹴立てて加速を開始する。足元から伝わる振動は、繊細な調整を要する従来の機関とは異なり、巨大な獣が咆哮を上げるような、暴力的なまでの信頼感に満ちていた。


「この力、この眼……。これこそが、我々が喉から手が出るほど欲していた『近代』そのものだ」


古村は、漆黒の海を切り裂く艦首の飛沫を見つめながら、勝利への確信をその胸に深く刻み込んだ。


旗艦となったギアリング級の艦橋で、古村大佐は英語の銘板が並ぶレーダーモニターを見つめていた。

「……清水参謀、帰還艦隊の電探もすばらしいが、この艦の電探も日本の電探よりも明瞭に20キロ先の敵艦の形が、『この表示画面』に映すことができるぞ」


かつて矢矧の艦橋で、目視を頼りに必死に回避運動を命じていた時代が、なつかしく思うのように感じられた。


艦が波を蹴立てて加速する。その振動は、巨大な内燃機関が吠えるような、力強く暴力的なまでの信頼感に満ちていた。


****


再編された海軍の名簿には、接収した艦船の艦長の名前の欄の「空白」が横たわっていた。


海軍兵学校の厳しい門をくぐり、ソロモンからレイテに至る地獄の海戦を潜り抜けた「腕の良い指揮官」たちは、幸運にも、あるいは執念によって数多く生き残っていた。しかし、彼らがその卓越した技量を発揮すべき日本の軍艦は、呉の重油の浮く入り江にも、佐世保の深い入り江にも、もはや一隻として浮かんでいなかった。


技量はあるが、乗るべき鋼鉄がない。この不均衡を打破するため、古村大佐は合理的な行動をした。


古村の命により、マニラの司令部に第二艦隊の精鋭たちと、かつてフィリピン近海で船を失い、陸上で戦っていた海軍士官が呼び集められた。

かつて戦艦「大和」の巨砲を制御し、軽巡「矢矧」で神業のような回避を見せた砲術長、水雷長、航海長たち。または、奮闘したが乗艦が撃破され救助された者たち。彼らは一様に日焼けし、幾多の死線を越えた者特有の、研ぎ澄まされた刃のような眼光を宿していた。


「諸君、今日から君たちが指揮を執るのは、日本の造船所が産んだ船ではない」


古村は、窓の外に並ぶ低く鋭い艦影――米軍から接収したフレッチャー級やギアリング級駆逐艦を指差した。


「敵の船だ。だが、今の我々にとってこれ以上の武器はない。君たちの血肉に刻まれた海戦の記憶を、このアメリカの鋼鉄に叩き込め」


任命された新艦長たちは、当初、複雑な面持ちでタラップを上がった。

足を踏み入れた艦橋には、かつての自軍を苦しめた「電探レーダー」の操作台や、未知の射撃指揮装置が鎮座している。それは昨日までの「仇敵」の心臓部そのものだった。


しかし、彼らは真のプロフェッショナルだった。

かつて砲術長として、目視と計算盤だけで数万メートルの彼方の敵を追い詰めた男たちが、最新の米製射撃装置を前にして、驚異的な適応力を見せ始めた。


「……なるほど、米軍の砲術がこれほど正確だった訳だ。だが、これに我々の『必勝の気合』が加われば、もはや敵う相手などおらん」


英語の銘板の上から、日本語のメモを貼り付け、彼らは凄まじい速度でその「敵艦」を己の体の一部へと変えていった。


マニラ湾に、かつての第二艦隊の魂が蘇る。

艦長室には日本の守り神が祀られ、艦橋には和文の号令が響く。器はアメリカ製であっても、そこを流れる血は、数々の戦火を潜り抜けた日本海軍の精鋭そのものだった。


「船がないなら、奪った船で戦うまでだ」


古村の采配により、持ち場を失っていた海軍の至宝たちは、再び「艦長」という誇りを取り戻した。彼らの手によって、米軍駆逐艦は「日本の牙」へと生まれ変わり、南の同胞を救い、北の大地へ、そしてソ連の軍団に向けられた鋼鉄の槍となったのである。


駆逐艦だけではない。古村が構想する大戦略の根幹を支えるのは、膨大な物資と兵員を目的地へ送り届ける「大動脈」であった。


マニラ湾の埠頭に並ぶのは、無骨で巨大な船体を持つ戦車上陸艦や、快速を誇る輸送艦といった、米軍の圧倒的な補給能力を象徴する補助艦艇群であった。


古村は、かつて輸送任務「鼠輸送」でボロボロになりながらも部下を連れ帰った輸送隊の指揮官や、商船学校出身の予備士官たちを呼び集めた。彼らは、華々しい水上戦闘の影で常に死と隣り合わせの補給戦を戦い抜いてきた、海軍の屋台骨だ。


「諸君らに預けるのは、大砲を振り回す船ではない。だが、この大戦の勝敗を決めるのは、君たちが運ぶ『部隊と食糧』だ」


古村は、観音開きの巨大な艦首扉を持つ戦車上陸艦を指差した。


「『大発』とは桁が違う。戦車を、大隊を、そのまま敵の鼻先に叩き込めるのだ。これを使って、北方の大地へ我が軍の機甲師団を送り届けろ、あきつ丸や神州丸があればもっといいが、しょうがない」


新たに戦車上陸艦の艦長に任命された、かつての駆逐艦水雷長・佐竹少佐は、そのあまりに広大な甲板を見下ろし、呆気に取られていた。


「……なんだこの広さは。これ一隻で、一個大隊の戦車が丸ごと収まるのか」


艦内には、アメリカ製の大型クレーンや、複雑な油圧式のハッチが備え付けられている。かつて人力で弾薬箱を担ぎ、手作業で物資を積み込んでいた苦労が嘘のように思えた。


「おい、この『Hydraulic』という文字の上に『油圧』と貼れ! 扉の開閉手順を間違えるなよ、艦首から海水が入れば一巻の終わりだぞ!」


佐竹の叱咤が飛ぶ。輸送艦の乗組員たちもまた、英語の銘板と格闘しながら、米軍式の「効率的な荷役作業」を必死に身体に叩き込んでいた。


輸送艦の船長室には、慣れ親しんだ神棚が設えられ、その横には最新のジャイロコンパスが静かに回っている。

かつて「輸送船は動く棺桶だ」と自嘲していた男たちの顔に、今はある種の「攻め」の輝きが宿っていた。


「この船と護衛艦隊なら、潜水艦が来ても、簡単には沈まん。我らの新たな駆逐艦の力を信じろ。それどころか、この対空機銃の数を見ろ。これからは守られるだけではない、自ら敵機を叩き落として目的地へ辿り着くのだ」


こうして、駆逐艦による「護衛艦隊」という兵站防御の要と、戦車上陸艦や輸送艦による上陸輸送部隊が完成しつつあった。

接収された米軍の補助艦艇たちは、日本の「運送の達人」たちの手によって、かつてない強靭な輸送ルートを構築するための牙へと生まれ変わったのである。


****


マニラ湾の蒸せ返るような熱気の中、ギアリング級駆逐艦の艦内では、かつての「見張り員」たちが、双眼鏡を捨てて新たな「眼」に食らいついていた。


「いいか! 敵の姿を網膜で追う時代は終わった。これからは、このPPIスコープに映る『光の粒』が敵だ!」


帰還艦隊の教官が、緑色の燐光を放つ円形画面を指し示す。その周囲には「RANGE」「GAIN」「BEARING」と刻まれた英語の銘板があり、その上から「距離」「感度」「方位」と走り書きされた和紙のシールが、汗でふやけながらも貼り付けられていた。


画面の中心点――そこが自艦の位置だ。時計回りに回転する一本の光の線「スイープ」が、アンテナの回転と同期して円盤をなぞる。

「この光の筋が掃いた跡を見ろ。何もなければただの闇だ。だが、何かがそこに存在すれば、電波は跳ね返ってくる」


突如、画面の端に鋭い光の点「エコー」が浮かび上がった。

「出たぞ! 輝点だ!」

兵士たちが身を乗り出す。教官の怒号が飛ぶ。

「落ち着け! 中心からその点までの距離を距離環レンジリングで読め。設定は20海里だ。二本目の線の内側なら距離は何ボリ(海里)だ!?」


「ハッ、15海里! 方位、相対で330度!」


外周に刻まれた度数目盛りを読み取る。かつては「左30度、距離2万」と叫んでいた報告が、今では「方位330、レンジ15」という無機質な、しかし正確な数字へと置き換わっていく。


「画面がノイズで真っ白だ! 何も映らん!」

焦る若手士官に、教官が横から手を伸ばし、ゲイン(感度)のツマミを鋭くひねる。

海面反射シーリターンに呑まれるな。ツマミ一つで、敵を浮き上がらせることも、闇に葬ることもできる。雨が降ればまた変わる。この指先の感覚を、かつての主砲旋回の時のように身体に叩き込め!」


「中尉! 右舷後方に反応! 敵艦か!?」

「馬鹿野郎、よく見ろ。それは自艦の煙突に反射した偽像ゴーストだ。実像はスイープが通るたびに鮮明に出るが、幻は揺らぐ。機械を信じすぎるな、だが機械の癖を見抜け。それが新しい『見張り』の極意だ!」


艦橋の直下に新設されたCIC(戦闘指揮所)。

そこでは、レーダー員が読み取ったデータが直ちに伝声管や電話でブリッジへ送り込まれる。

「IFF(敵味方識別)反応なし! 輝点、本艦に向かって急接近! 速度30ノット以上!」


古村大佐は、その報告を聞きながら、足元から伝わるギアリング級特有の力強いエンジンの振動を感じていた。


「……なるほど。これが米軍が我々に見せていた索敵技術の正体か」


彼は、漢字だらけのメモが貼られた操作パネルを愛おしげに撫でた。

「これほどの『眼』があれば、夜の闇も霧の壁も、もはや我々を阻む障害ではない。清水参謀、全艦に通達せよ。我々は今、ついに信頼できる電子の視界を得た、とな」


マニラ湾に響く訓練の怒号は、次第に統制の取れた、冷徹な報告の声へと変わっていく。

米軍が誇った最新兵器は、日本のベテランたちの執念によって、今や確実に「帝国海軍の牙」へと作り替えられつつあった。


****


初霜と雪風を先頭に、日の丸を掲げたフレッチャー型駆逐艦たちと《帰還艦隊》の3隻の秋月型駆逐艦が、一斉に蒸気タービンを始動させた。


黒煙ではない、洗練された重油の燃焼音が湾内に響く。


「寺内、武田。我々の役目は、傷ついた同胞を救うことだ」

古村大佐は、無線を通じて二人の艦長に語りかけた。


「海軍にはもう、一隻の無駄な沈没も許されない。……抜錨!」


****

再び、南方へ


錨が上げられ、 日本海軍の艦艇が出航する際に鳴らす、長い3回の重厚な汽笛の音がマニラ湾に響き渡る。


空母『翔鶴』を先頭に、アメリカ軍から接収した輸送艦の群れが、南シナ海を割って進んでいく。


かつては「飢餓」と「死」の代名詞だった南方戦線へ、今、最新鋭の兵器と、勝利をもたらす精鋭たちが逆襲の嵐として向かっていく。


「因幡乃白兎」艦隊と「南方戦線開放派遣軍」が、苦しむ同胞を救い出すための航海が、今、ここに幕を開ける。

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