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待たせたな!  作者: 僧籍
外伝1 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

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20/33

南方戦線開放派遣軍、結成 —— 南進 2 再び集う飛行部隊

1945年7月、フィリピン、クラーク航空軍基地。

新連合艦隊の到来よって解放されたこの基地で、新たな航空師団が形作られようとしていました。それは、一度は翼をもがれ、泥にまみれて戦った「航空師団」の復活でした。

第四航空軍の再誕


ルソン島の山岳地帯から、男たちが続々とマニラの上陸軍へ合流した。


「……また、飛べるのか。本当に、俺たちはまた空へ帰れるのか」

軍服をボロボロにし、マニラに入った一人の曹長が、マニラ港にひしめく新連合艦隊の威容を仰ぎ見て、声を震わせた。


ルソン島の険しい山岳地帯から、亡霊のような足取りで男たちが下りてきた。第2飛行師団、そして第4飛行師団。かつてフィリピンの空を駆けた第四航空軍の生き残りたちだ。組織の崩壊、司令部の転進、そして「空の兵」でありながら歩兵として泥を這わされた屈辱の日々。歩兵として泥を這い、アメリカ軍の圧倒的な火力の前に散っていった整備兵や搭乗員たちだ。


彼らを迎えたのは、マニラ港を埋め尽くす「新連合艦隊」の威容と、温かい湯気の立つ炊き出しの匂いでした。


泥の中から「空」を仰ぐ

マニラ港の一角、臨時の集結所。

軍服はボロボロに裂け、剥き出しの肌にはジャングルの棘でついた傷跡が無数に走る。第4飛行師団の搭乗員だった佐々木曹長は、震える手で配られたばかりの椀を握りしめていた。


中には、湯気を立てる白いごはんと、煮干しの出汁が効いた熱い味噌汁。


「……美味い。……生きてる。俺たち、本当に生きてるんだな」


隣に座る整備兵の岡本軍曹が、鼻をすすりながら大きく頷きました。彼はかつて、愛機の整備を奪われ、小銃一丁を持たされて米軍の戦車に肉薄攻撃を命じられていた男だ。


「曹長、見てくださいよ。あの艦影……あれ、大和じゃないですか? それに空母まで……。噂じゃ、これからカリマンタン島やスマトラ、ジャワ島の方に増援しに行くって話です」


佐々木は、味噌汁を一口啜ると、五臓六腑に染み渡る熱さに目を閉じました。


誓いの再会:第四航空軍の再誕

焚き火を囲む男たちの輪が、一人、また一人と広がっていきます。

「おう、お前! 生きてたのか! カランバンで死んだと聞いたぞ!」

「地獄の底から這い上がってきたんだよ。お前こそ、その足はどうした」


再会を喜ぶ声が、あちこちで爆発するように響いた。

彼らが何より誇りに感じたのは、自分たちが「消耗品」として見捨てられたのではなく、再び「第四航空軍」という誇り高き組織の一部として、組織的に再編されるという事実だ。


「聞いたか? 寺本中将が軍を立て直すそうだ。今度の俺たちの仕事は、体当たりじゃない。高度な連携による、正統な航空戦だ」


岡本整備曹長が、ひび割れた手を見つめながら言いました。

「曹長、俺の指、まだ動きます。スパナを握れます。山の中で小銃を磨きながら、ずっと考えてたんです。もし、もう一度だけ整備をさせてくれるなら、ネジ一つ、油一滴まで完璧に仕上げてやるって。……あんたを、今度は絶対、燃料切れや故障で落としやしない」


「飛ぶ」という矜持

佐々木曹長は、立ち上がって港の向こう、水平線を見つめました。

そこには、夕闇の軍港で沈みゆく夕日を浴びて美しく浮かび上がる、もう見ることは無いはずだった、空母「赤城」の姿があった。


「俺たちが山で泥を食っている間に、戦争の流れは変わったんだな、神話みたいな時代に」

佐々木の声には、確かな力が戻っていました。

「歩兵として死ぬのは、俺たちの本分じゃない。俺たちの場所は、あの雲の上だ。友軍を救い、敵を討ち、生きて着陸する。……岡本、俺の機体を頼むぞ。今度は、勝つために飛ぶんだ」


「合点承知です!」


集結所のあちこちで、椀を置いた男たちが次々と立ち上がり、かつての軍人らしい鋭い目つきを取り戻していく。

泥を這った屈辱は、いまや「空への執念」という名の強靭なバネへと変わった。


第四航空軍、再誕。

ルソンの山々から生還した「不死鳥」たちは、支給された僅かな食事で魂を繋ぎ、再びアジアの空を支配するための翼を、静かに広げ始めた。


****


寺本熊市中将、着任

この「翼なき軍」を再建すべく、マニラへ降り立ったのが、第4航空軍司令官・寺本熊市中将だ。

前任者が台湾に無許可で司令部を移転して満州に左遷された将校の後に、第四航空軍に任命されたが、

アメリカ軍の攻撃によって、台湾からフィリピンへの移動ができなかった。

フィリピンの開放を経て、ついに自らの兵たちの元へ辿り着いた。


「諸君、よくぞ生き抜いてくれた。本日をもって、第4航空軍は再軍備化を開始する」


寺本の背後には、台湾からやってきたは陸軍第8飛行師団の飛行隊の「隼」や、海軍からは第1航空艦隊航空隊の「零戦」が並ぶ。


陸軍、海軍の台湾駐留部隊航空隊・南方派遣軍。


********

時をさかのぼる


台湾の航空戦力、残存機数は数百機規模の航空機が残存していた。

主な機種は陸軍の一式戦闘機「隼」、海軍の「零式艦上戦闘機(零戦)」などが主力だ。

だが、度重なる台湾空襲(1944年10月の台湾沖航空戦など)により、ベテラン搭乗員や新鋭機の多くを喪失していた。


****


台湾では陸軍第8飛行師団の山本健児中将は再編を行いつつ、連合国軍の台湾上陸に備え、特攻機などの空中戦力を擁して防衛作戦の準備を続けていた。


台北・第8飛行師団司令部


1945年6月、台北。


山本の視線の先には、松山飛行場や桃園飛行場の滑走路に並ぶ、色褪せた機体あった。主力は一式戦「隼」、二式戦「鍾馗」、そして夜間戦闘機の「屠龍」。かつての精鋭機たちも、度重なる台湾空襲と補給不足により、その翼は満身創痍だった。


台湾は陸軍と海軍の協力が不可欠な要衝だ。

海軍からは第1航空艦隊や、新編された第10航空艦隊の一部が展開。零戦や艦攻「天山」、陸攻「銀河」が、台湾各地の基地に分散配置されていた。


かつて「不沈空母」と謳われたこの島の実態は、精鋭部隊を本土防衛に引き抜かれ、全盛期の半数にも満たない戦力で辛うじて維持されている砂上の楼閣に過ぎなかった。


****


じりじりと照りつける太陽が、滑走路の陽炎を揺らす。その静寂を切り裂き、フィリピン方面から飛来した一機の連絡機が、滑り込むように着陸した。機体には、マニラを奪還した「帰還艦隊」とともに死線を越えてきた、陸軍第14方面軍の部隊識別紋が刻まれていた。


タラップが降りるや否や、硝煙の匂いを纏った第14方面軍の陸軍士官が、出迎えた司令部要員を突き飛ばさんばかりの勢いで司令官室へと駆け込む。扉が勢いよく開かれ、室内を支配していた重苦しい沈黙が、特使の鋭い叫びによって粉砕された。


「第8飛行師団長・山本健児中将閣下! 第4航空軍司令官・寺本中将閣下!」


居並ぶ将星たちを前に、第14方面軍の連絡士官は、フィリピンから持ち込まれた「至急命令」を叩きつけるように差し出した。その書面には、マニラ奪還を成し遂げた新・連合艦隊と第14方面軍の連名による、抗いようのない意志が記されていた。


「台湾の防衛に必要な最小限の戦力を残し、それ以外の稼働機および熟練搭乗員を総動員して、直ちにフィリピンへ移動されたし! 繰り返します。抽出可能な一機の余剰も、一刻の猶予も許されません。直ちに、です!」


台北の司令部は震撼した。寺本中将が、特使の差し出した数枚の航空写真を手にする。


「……フィリピンだと? 新連合艦隊と第14方面軍は、本当にやってくれたのか!」


震える指先が止まった。写真に写っていたのは、マニラ湾の深い青に堂々とその巨躯を浮かべる戦艦『大和』と、その脇を固める複数の航空母艦の姿だった。さらに別の写真には、かつてアメリカ軍の巨大拠点であったフォート・マッキンリー基地とクラーク航空基地が、日本軍の手によって完全に制圧された光景が克明に記録されていた。


「反攻の準備は整いました。あとは、閣下方の翼が必要です。南方の空を、我ら日本軍の手に完全に取り戻すために!」


連絡士官の確信に満ちた声が響く。


「よし、すぐに編成に取りかかれ。台湾の要衝を守る最低限の防空戦力は確保しつつ、それ以外、稼働可能な機体と熟練の連中はすべてフィリピンへ送り出す。遅れるな、この転換点に乗り遅れるな!」


戦力不足に喘いでいた台湾の航空部隊に、絶望を希望へと塗り替える「招集状」が届けられた。それは、南方戦域における侵略者の息根を止めるための、最後にして最大の反撃の序曲であった。


****


山本健児中将は、眼前の寺本中将を見据え、その肩を強く掴んだ。


「寺本中将、行ってくれ! 台湾を守るのではない。ここにある翼を、反攻の種火にするのだ!」


その決断は、守勢一辺倒だったこれまでの戦いを、能動的な反撃へと転じさせる宣言であった。山本中将の力強い檄を受け、直ちに全島へ伝令が飛ぶ。


台湾各地の飛行場――新竹、嘉義、台南。

そこでは、かつてない活気が溢れていた。本土防衛のために温存されるはずだった翼たちが、今、その目的を鮮明に変えた。


「整備急げ! 一機でも多く、一分でも早く上げろ!」


整備員たちの怒号が飛び交い、長らく物資不足で眠っていた機体たちが次々と目覚めていく。陸軍の俊足「隼」、そして海軍の誇る「零戦」。かつて南方の空を席巻した名機たちが、沖縄戦で鹵獲した物資によってもたらされた燃料を飲み込み、そのエンジンをかつてない咆哮で震わせた。


滑走路を蹴立て、銀色や暗緑色の機影が次々と真夏の空へと舞い上がる。

編隊を組んだ彼らが機首を向けたのは、防空戦に喘ぐ北の本土ではない。太陽が照りつける、南のフィリピンであった。


「……信じられん。我々は、攻めに転じるのか」


キャノピー越しに編隊を見渡す若き搭乗員たちは、自らの進路に言いようのない高揚を覚えていた。これまで「絶望の防波堤」として擦り切れるまで戦わされてきた彼らが、今、失われた地を奪還するための「反攻の槍」へと変わった瞬間であった。


眼下に広がるバシー海峡の青い海。

かつて多くの戦友たちが沈んだその海域を、今、巨大な編隊が影を落として進む。

台北の司令部から見送った山本中将と寺本中将の想いを乗せて、台湾各地から集った数百の翼は、マニラ湾で待つ戦艦『大和』と合流すべく、歴史の奔流を突き進んでいった。


****


1945年7月

クラーク航空軍基地

寺本中将が打ち出した再建案は、大胆不敵なものでした。


「我が第四航空軍は、これより接収したアメリカ軍の機体を使用する。敵の翼を以て、南方の同胞を救うのだ」


クラーク基地やニコルス基地で接収された、残存していた戦闘機P-51D「ムスタング」や戦闘爆撃機P-47「サンダーボルト」そして、爆撃機の「B-17」「B-24」これらは燃料も弾薬も豊富にあり、性能も当時の日本機を凌駕していました。


かつて歩兵として敵の戦車に肉薄攻撃を仕掛けていた搭乗員たちは、今度はその敵が乗り捨てた最新鋭のコクピットに座り、英語の計器類と格闘を始めました。


「計器の読み方は新連合艦隊の教官から教われ! 離着陸に戸惑っている暇はない。南方派遣軍の出陣は目前だ!」


寺本の怒声が響く中、短い時間で猛烈な転換訓練が行われました。ベテランたちはその天賦の才で、わずか数日でムスタングを乗りこなし、若き搭乗員たちも、昨日までの飢えを忘れたかのような集中力で技術を吸収していきました。


****

台湾派遣航空隊軍と新編成された第四航空軍との機体習熟演習


雲一つないマニラの空。クラーク基地の上空は、空中戦の舞台となっていた。


銀翼を輝かせ、重厚なエンジン音を響かせるP-51D「ムスタング」とP-47「サンダーボルト」。それに対するは陸軍の一式戦「隼」と海軍の「零戦」。


日の丸を冠した「かつての敵機」と「日本軍の戦闘機」が激突する、前代未聞の機体習熟演習が始まった。


驚異のパワーと一撃離脱


「こいつは化け物か……!」

再編された第4航空軍の若き搭乗員、佐藤少尉は、P-51Dの操縦桿を握り締め、驚愕していました。

スロットルを押し込めば、1,600馬力超のマーリン・エンジンが咆哮し、機体は矢のように加速します。高度計の針が恐ろしい速さで回り、瞬く間に「隼」を遥か眼下に見下ろす高高度へと到達しました。


「これなら……いける!」

佐藤は機首を下げ、一撃離脱の態勢に入りました。重力に従い加速するP-51の速度は時速800キロを超え、照準器の中に「隼」の姿が急激に膨らみます。


しかし、背後を取ったはずの佐藤の視界から、突如として「隼」が消えました。

「なにっ!?」


台湾から派遣された第8飛行師団のベテラン、高橋大尉が操る「隼」は、最小限の旋回半径でP-51の急降下をかわし、逆にその背後へと回り込んでいました。

佐藤は慌てて旋回して追おうとするが、P-51の重い機体は遠心力に抗えず、大きく外側へと膨らんでしまいます。


「……捕らえたぞ、若造」

高橋の「隼」が、旋回性の差を活かしてインコースから佐藤の懐に飛び込みました。

そして、佐藤のP-51には「撃墜」の判定が下される。


****


訓練を終え、陽炎の立つ滑走路に降り立った搭乗員たちは、それぞれの愛機の翼の下に集まりました。


「参ったな……。あの旋回戦には、アメリカの馬力も敵わない」

佐藤少尉が、悔しそうに首を振りながらP-51のコクピットから降りました。

高橋大尉は、汗を拭いながら佐藤の肩を叩きました。


「佐藤、お前の乗っている機体は『直線番長』だ。巴戦をするな。お前の強みは、その圧倒的な上昇力と、叩きつけるような速度にある。俺たちが追い縋れない高度から一気に叩き、そのまま逃げ去れば、俺たちに勝ち目はない」


「……一撃離脱、ですね」


P-47に乗っていた操縦士にも話しかける。

「そうだ。そして、お前の乗っている機体はその分厚い装甲が特徴の1つだ。お前の機体が敵の機銃を食らってもすぐに致命傷にはならん。だが、お前の12.7ミリが一度でも掠めれば、俺の機体は火だるまだ」


また、30キロのロケット弾や重爆弾を装備できる、P-47の地上攻撃能力。

そして、戦闘機としても、すぐれた高速・急降下性能があり、戦闘機動ができる。

これまでの日本機では考えられない絶大な破壊力を予感させられた。


第4航空軍の搭乗員たちは、アメリカ軍機の特性を骨の髄まで理解し始めた。


高高度からの圧倒的な一撃離脱。

対空砲火を物ともしない抗弾性を活かした強行突破。

ロケット弾を用いた精密かつ強力な地上掃射。


一方で、台湾派遣隊の「隼」や「零戦」は、その圧倒的な格闘性能、長距離航続能力を活かし、攻撃目標の役割分担を構築していった。


****


「寺本長官、これより我々は、世界で最も『アメリカ軍機』を知り尽くした日本航空隊となります」

訓練を見守っていた寺本熊市中将に、高橋大尉が力強く報告しました。


「よろしい。その翼こそが、南方へ行く我らを守るのだ」


夕闇が迫る中、アメリカ軍の機体と日本軍の機体が融合した「新生・第4航空軍」の将兵たちは、南の空を見つめた。明日には、この混成編隊がカリマンタン島への長距離進出を開始する。

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