シベリア鉄道大爆破 空軍戦略爆撃隊出撃 4-9 ハルビンを占領せよ 1945年9月25日
アムール川の鉄橋と地底トンネルが瓦解したことで、海側のシベリア鉄道は断たれた。しかし、内陸側の東清鉄道は健在だ。ソヴィエト軍は満州北部の東清鉄道の重要拠点ハルビンを死守していた。
司令部はハルビンへの戦略爆撃と、同時に精鋭空挺部隊による電撃的な占領を決定した。
ウラジオストク基地から、再び航空兵団が離陸する。
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幕舎のブリーフィング ―― 陸海ふたりの司令官
指揮幕舎の中で、ふたりの司令官が大型のハルビン市街地図を挟んで対峙していた。
陸軍第1挺進団長・安藤忠志大佐。
そして、海軍 横須賀鎮守府第一特別陸戦隊(横一特)司令官・加藤中佐。
ランプの灯りに照らされた地図には、ハルビン駅、東清鉄道の通信司令部、そしてソヴィエト軍の現地司令部が置かれている主要建造物が、赤と青のペンで綿密にマーキングされている。
「加藤中佐、海軍(横一特)の降下目標に異論はないか」
安藤大佐が低く太い声で問う。加藤中佐は無言で首を振り、地図の一点を力強く指差しした。
「ありません、安藤大佐。我が横一特は第一波としてハルビン駅および松花江鉄橋の南岸に降下。敵の増援ルートおよび退路を物理的に遮断します。……陸軍の挺進団が通信局と司令部を首尾よく叩けるよう、駅周辺の敵陣地は我が陸戦隊が骨ごと叩き潰してみせましょう」
「頼もしい限りだ」
安藤大佐の瞳に、冷徹な闘志が宿る。
「ウラジオストクから飛び立つ《カムチャッカの逆鱗》――B-17と重爆撃機隊による高高度爆撃が、ハルビンの敵防空網と通信網を叩き潰すのが0420。我々が払暁に乗じて降下を開始するのは、その混乱が絶頂に達する0440だ」
「爆撃の直後、敵が状況を把握する前に頭上から襲いかかるわけですな。……ソヴィエト軍は我が方の空挺降下など想定もしていまい」
加藤中佐が不敵な笑みを浮かべた。
「左様。通化では我々の同胞が地獄の要塞で血を流しながら耐え抜いている。ハルビンというソヴィエト軍の『神経』と『結節点』を我々が上空から直接引きちぎれば、通化を包囲する敵軍は背後を失い、完全に孤立する」
安藤大佐は言葉を区切り、加藤中佐の目を真っ直ぐに見つめた。
「これは単なる強襲ではない。満州全土のソヴィエト軍の息の根を止めるための、絶対不可避の『首斬り作戦』だ。陸海あわせて429余名の降下兵、一人たりとも無駄死にはさせん。全目標の完全制圧まで、退くことは許されないと思え」
「承知。我が横一特、最後の一兵となるともハルビン駅を死守し、陸軍の進撃路を確保いたします」
加藤中佐は力強く頷き、右手を差し出した。安藤大佐もまた、その分厚い手を固く握り返す。陸と海の血潮が、一つの冷徹な殺意となって結ばれた瞬間だった。
出撃の刻
幕舎を出ると、ヴォズドヴィジェンカの夜空に、39機の一〇〇式輸送機のエンジンが一斉に始動する轟音が響き渡り始めた。たくさんの排気音が、大気を激しく振動させる。
「全機、搭乗開始!」
号令とともに、陸軍挺進団と海軍横一特の兵士たちが、一列になって輸送機のタラップを駆け上がっていく。
かつて敗北の淵に立たされた日本軍は、いまや最新の機体と、陸海の緊密な連携、そして不屈の意志を身につけ、大陸の夜明けの空へと羽ばたこうとしていた。
ヴォズドヴィジェンカの滑走路を蹴り、漆黒の空へと次々と舞い上がっていく一〇〇式輸送機の大編隊。その翼の群れは、ハルビンの街へと降り注ぐ「ソヴィエト軍への死神」であり、泥濘の中で戦い続ける通化の同胞へと捧げる「復讐の鉄槌」であった。
1945年9月25日 04:30
第一波:焦土爆撃
ハルビン上空は、朝焼けの雲に覆われていた。
高度3500メートル。一式陸上攻撃機、四式重爆撃機「飛龍」、そして、高度9000メートルから、B-17、B-24の混成編隊が、ハルビン市街へと侵入する。
「目標、ハルビン中央飛行場。および司令部周辺」
一式陸攻の村中大尉は、高度を維持しながら操縦桿を握る。前回のハバロフスク任務の後、機体は整備されたが、機体各所には弾痕の補修跡が残っていた。
高空のB-17が、まずその巨体から爆弾を放った。
爆撃手は、ノルデン爆撃照準器を使い、敵の防空陣地と飛行場施設を狙った。ソヴィエト側も、ハバロフスクの敗北を繰り返すまいと、ありったけの高射砲を打ち上げてくる。曳光弾の筋が、編隊の周囲をかすめる。
敵の対空射撃が低下した後にB-24が爆撃を開始する。
「扉開。投下開始」
村中大尉の一式陸攻、そして低空で肉薄する「飛龍」が、800キロ爆弾と500キロ爆弾を市街の重要施設へ投下した。
眼下で、ハルビン飛行場の滑走路が連鎖的に爆発し、瓦解した。続いて、旧関東軍司令部を接収していたソヴィエト軍の建物が、土煙とともに崩れ落ちた。B-17の高空からの爆撃は、地上の敵対空火器を制圧し、一式陸攻と飛竜の援護になった。
ハルビンを一式陸上攻撃機、飛竜、B-17、B-24の混合兵団の戦略爆撃機部隊が爆撃し、 横須賀鎮守府第一特別陸戦隊(精鋭降下部隊)と第1挺進団が一〇〇式輸送機から、落下傘で降下していく。
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第二波:降下開始
爆撃の煙がまだハルビンを覆い隠している頃、後方から一〇〇式輸送機の39機の編隊が、高度1000メートル以下で侵入してきた。
一〇〇式輸送機の狭い機内は、排気ガスの臭いと緊張に満ちていた。
それぞれの機体の中では海軍の横須賀鎮守府第一特別陸戦隊(横一特)と陸軍の第1挺進団の兵士たちが、落下傘装備を背負って立っていた。
「降下準備!」
降下長の陸軍大尉が怒鳴る。
横一特の司令官、加藤中佐は、紺色の特殊降下服に身を包み、九九式小銃を抱え直した。彼らの目標は、爆撃で混乱するソヴィエト軍司令部跡地の制圧と、ハルビン中央駅の占領である。第1挺進団の目標は、破壊された飛行場の占領と、その後の滑走路の修復である。
「降下、降下!」
ソヴィエトいランプが点灯すると同時に、加藤は真っ先に飛び出した。
機外は、突風と、眼下から吹き上がる黒煙、そして地上からの機銃掃射の世界だった。
空中の戦場
空は、白い落下傘(第1挺進団)と、紺色の落下傘(横一特)で埋め尽くされた。
ソヴィエト軍は、残存する高射機関砲と歩兵の小銃で、落下傘を狙った。しかし、一〇〇式輸送機から次々と兵士が飛び出してくる。
加藤は、風圧に耐えながら、下界を睨んだ。爆撃による火災が、まだ街のあちこちで続いている。敵司令部ビルの近く、瓦礫の山となった広場へ向けて、彼は落下傘を操作した。
「全機、降下完了。輸送機部隊、離脱」
爆撃部隊の村中大尉達は、上空から白い傘と紺色の傘が、ハルビンの街へ降り注ぐのを見ていた。
彼ら爆撃部隊の任務は終わった。これからは、地上の空挺兵たちの戦いだ。
着地
加藤中佐は広場に、膝を折って着地した。
衝撃を吸収し、即座に落下傘のハーネスを外す。九九式小銃を構え、周囲を点検した。
「横一特、集合! 集合場所は駅前広場!」
彼の呼びかけに応えるように、瓦礫の中から、紺色の降下服を着た兵士たちが、次々と這い出してきた。
第1挺進団の兵士たちも、飛行場跡地に白い傘を捨て、敵兵を掃討しながら前進を開始していた。
ハルビンの街は、爆撃の炎と、空から降り注いだ429人の兵士たちによって、一気に最前線へと変わった。加藤は、兵たちの顔に、一瞬の安堵ではなく、これから始まる市街戦への覚悟を見た。彼は短く頷くと、銃剣を固定し、ハルビン中央駅へ向けて駆け出した。
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ハルビン市街地は、爆撃による硝煙と巻き上がった土埃に包まれていた。降下を完了した横須賀鎮守府第一特別陸戦隊と、陸軍第1挺進団は、即座に市街中心部への侵攻を開始した。
市街掃討戦
ハルビン中央駅近辺のレンガ造りのビルには、ソヴィエト軍の残存部隊が立てこもり、機関銃による執拗な抵抗を続けていた。
「無反動砲、据え付け。目標、二階角の銃座!」
海軍陸戦隊の指揮官が鋭く命じる。
路上の瓦礫に三脚を固定した無反動砲が火を噴いた。凄まじい後方爆風が乾燥した路面の砂塵を舞い上げる。放たれた成形炸薬弾は正確に窓枠を粉砕し、内部の銃座ごとソヴィエト兵を制圧した。
これに合わせ、陸軍挺進旅団の分隊が九九式軽機関銃を連射しながら路地を躍進する。
「擲弾筒、構え。距離百、塀の裏だ」
兵士が八九式重擲弾筒の脚を地面に突き立てる。短い発射音とともに放たれた榴弾が放物線を描き、遮蔽物の裏で再編を図っていたソヴィエト兵の群れの中で炸裂した。爆撃による混乱から立ち直りきれていない守備隊は、空挺部隊の組織的な波状攻撃により、拠点を次々と放棄していった。
11:00 ハルビン中央駅の屋上に、日章旗が翻った。
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第二次爆撃:東清鉄道の遮断
ハルビン西北方の広大な大平原。バイカル湖方面から東進するソヴィエト軍の軍用列車群が、蒸気を吹き上げながら鉄路をひた走っていた。ハルビン奪還を目指す敵の増援兵力は二個連隊に相当し、満載された歩兵と装甲戦力が、いまや目前へと迫りつつあった。
「敵列車群を確認。ハルビン西方15キロ地点、鉄路上を東進中!」
上空で旋回する索敵機からの無線電波が、爆撃機部隊の第二陣へと直ちに届いた。
雲間を切り裂いて姿を現したのは、一式陸上攻撃機と四式重爆「飛龍」によって編成された攻撃部隊である。彼らに課せられた使命は、敵の動脈である東清鉄道の完全遮断であった。
「2番隊は軌道を叩け! 1番隊は機関車を狙う!」
隊長機の無線の声とともに、「飛龍」の編隊が直線的な爆撃進入を開始した。高度を落とした爆撃機群から次々と解き放たれた爆弾の列が、一直線に伸びる路盤へ正確に突き刺さる。
ドォン!と地響きのような大爆発が連鎖し、黒煙とともに砕石と土砂が噴き上がった。線路は飴細工のように惨めに捻じ曲がり、草原には巨大なクレーターがいくつも穿たれる。前方の鉄路を絶たれた軍用列車は、悲鳴のような金属擦過音を響かせて急停車を余儀なくされた。
「退路も前進路も消えたぞ。1番隊、突入ッ!」
立ち往生した巨体に対し、超低空から肉薄したのは一式陸攻の1番隊であった。
「一番機、投下!」
第二次攻撃隊の飛行隊長自らが操縦する一番機から放たれた爆弾が、寸分の狂いもなく先頭の大型蒸気機関車を直撃した。
瞬間、超高圧のボイラーが大爆発を起こし、白い蒸気と漆黒の黒煙が周囲を呑み込む。数千トンの列車を牽引していた鉄の塊は一瞬で粉砕され、線路脇へと横転した。
間髪を入れず、後続の機体が低空を掠め、連結された無蓋貨車列へと精密爆撃をたたき込む。
貨車の上に積載されていた戦車や装甲車両は、爆風によって鉄屑と化して野原へ吹き飛ばされ、兵員を乗せた客車は激しい炎の渦へと包み込まれた。
ハルビンを目指したソヴィエト軍の増援部隊は、一度も戦場に辿り着くことなく、野に佇む煙と炎の墓標と化したのである。




