シベリア鉄道大爆破 空軍戦略爆撃隊出撃 4-8 地上部隊出動 1945年9月25日 00.00
1945年9月25日 00:00 ―― ウラジオストク基地・ハルビン快速進撃部隊 集合地点
日付が変わり、本来なら静寂が支配するはずのウラジオストク基地は、低く地鳴りのように響く無数の排気音に包まれていた。
広大な集結地には、傾斜装甲の統合仕様の快速戦車「新九七式中戦車」と、重機関銃を据え付けた「統合一型兵員輸送トラック」の列が、車列を乱すことなく部隊ごとに整然と並び、出撃の瞬間を待っている。
中央広場を照らし出す高輝度の投光器の光輪の中に、車長や分隊長といった各部隊の指揮官たちが一堂に会していた。眩い光に照らし出された彼らの顔には、焦燥ではなく、確たる決意が刻まれている。
そこへ、重厚な軍靴の音を途切れなく響かせて、北方軍司令部幕僚群が進み出てきた。
中央に立つのは、北方軍司令官・伊勢神忠雄陸軍中将。その左右を作戦参謀長・高瀬仁志少将、そして情報参謀・白川義昭少佐が固めている。
「総員、傾注――ッ!」
高瀬参謀長の切っ先立った声が、深夜の広場に鋭く響き渡り、指揮官たちの背筋が一斉に直立した。
続いて、白川情報参謀が前へ進み出で、硬質な声を張る。
「各自、進撃路沿いに展開する敵残存部隊の配置、ならびに気象状況は事前配布の資料通りである。……変更、一切なし! 敵は我が方の電撃戦に混乱し、足並みは完全に乱れている!」
静まり返る広場。伊勢神中将が一歩前へ踏み出し、居並ぶ将校たちを見回した。
「諸君――。これより我が北方軍快速部隊は、ハルビン奪還に向けて全軍進撃を開始する。……総員、乗車せよ!」
「はッ!」
腹に響く唱和とともに、部隊長たちは一斉に右手を掲げて敬礼を捧げ、己の搭乗車両へと駆け戻っていった。
直後、ウラジオストク基地に爆発的なエンジン音が巻き起こった。
大部隊が基地の大型ゲートを潜り抜ける。
見上げれば、満月を過ぐこと四日。漆黒の夜空には、冷ややかな青白さを湛えた月が静かに浮いていた。
その月明かりが、車体に刻まれた日の丸を照らし出す。
静寂を破り、満州平原の闇を切り拓いて――ハルビン快速進撃部隊の怒涛の侵攻が、いま始まった。
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01:00 ―― ウラジオストク近郊・ヴォズドヴィジェンカ航空基地
漆黒の闇に包まれたヴォズドヴィジェンカ航空基地の広大な滑走路。
広大な駐機場でハルビン爆撃作戦『カムチャッカの逆鱗』の中核を担う重爆撃機隊が出撃の刻を待っていた。
一式陸上攻撃機、四式重爆撃機「飛龍」、接収・改修を重ねたB-17およびB-24――。
本来ならばあり得ない陸海、そしてアメリカの機体が混成編隊を組み、滑走路の照明にその重厚な機体を浮かび上がらせている。
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慌ただしく機器の最終点検が進む航空隊員待機所のドアが激しく開かれ、重厚な軍靴の音が響く。
入ってきたのは、北方軍参謀長・高瀬仁志陸軍少将、そして航空軍司令官であった。
「総員、傾注――ッ!」
高瀬参謀長の切っ先立った号令とともに、待機所内にいた爆撃機乗員、整備将校が一斉に直立不動の姿勢をとった。場内に張りつめた緊張感が走る。
航空軍司令官が一歩前へ進み出で、眼前に並ぶ熟練の搭乗員たちの顔を一人ひとり見回した。その瞳には、これから敢行される極限の任務に対する確たる決意が宿っていた。
「我が爆撃部隊は、0130を期して当ヴォズドヴィジェンカ基地を出撃する。0220、上空において全機合流・編隊を完了させた後、目標ハルビンへ向けて全速西進せよ」
一息つき、司令官は広げられた作戦図面を力強く指し示した。
「天候、敵残存部隊の配置、ならびに指定爆撃目標に変更なし。……忘れるな、我々の使命は単なる破壊にあらず。この爆撃は、空挺強襲するハルビンへ降下する陸軍第1挺進団、ならびに海軍横須賀鎮守府第一特別陸戦隊の進路を切り拓く、絶対不可避の『露払い』である!」
司令官の声が熱を帯び、搭乗員たちの胸に火を点ける。通化で血を流しながら戦い続ける同胞の顔、そしてハルビンへ舞い降りる陸海降下兵たちの姿が、彼らの脳裏をよぎった。
「戦友たちの命は、我々の爆撃の精度にかかっている。一発の狂いも許されん。……総員、出撃開始!」
「はッ!」
腹底から突き上げるような唱和が待機所に響き渡り、将校も下士官も一斉に機体へと向かって駆け出した。
夜空を見上げれば、月明かりの下で大型エンジンを始動した重爆のプロペラが旋回速度を上げ、重厚で爆発的な排気音を夜の静寂へと解き放ち始めていた。ハルビンを根底から揺るがす空の大槌が、いま空に解き放たれる。
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同時刻、同ヴォズドヴィジェンカ飛行場から、精強な降下兵を乗せた輸送機群が、護衛戦闘機の編隊を従えてハルビンの空へと舞い上がっていた。地を駆ける地上軍と、空を覆う翼が、一つの巨大な矛となっていく。
「ソヴィエト軍の燃料が前線へ届くのが先か、我々の軍靴がハルビンを占領するのが先か。……全軍、進撃せよ」
北方防衛開放軍総司令部で、伊勢神中将が放ったその号令と共に、日本軍による「逆・電撃戦」の巨大な奔流が、秋の満州平原へ向けて猛烈なスピードで疾走し始めた。




