シベリア鉄道大爆破 空軍戦略爆撃隊出撃 4-7 ハルビン回廊から大連へ大量の燃料がすでに運び込れいた 1945年9月24日
ハルビン回廊からの危機
季節は9月。満州平原にはまだ夏の残暑が居座り、見渡す限りの高粱が赤く色づき始めていた。しかし、ウラジオストク要塞の作戦室に流れる空気は、緊張感に包まれていた。
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戦況の変化:ソヴィエト軍の迅速な修復
情報参謀・白川義昭少佐が、厳しい表情で地図を更新した。
「……報告します。先日の爆撃による効果は、すでに敵の物量によって上書きされてました。ソヴィエト軍鉄道部隊は関東軍が撤退時に橋梁や線路を破壊した鉄道網を突貫工事で復旧完了し、すでにザバイカル方面から東清鉄道を経由し、ハルビン操車場へ大量の航空燃料、地上軍の補給物資、資材が運び込まれてました」
さらに白川は、南方に位置する大連・旅順方面を指した。
「あわせて旅順、大連の各基地にも燃料の備蓄が完了している模様。敵第12航空軍は、燃料に縛られません。燃料を得て、我が軍の最大の脅威になります」
幕僚会議:刻一刻と迫る「空の脅威」
高瀬少将
「……9月の澄んだ空は、奴らにとって絶好の狩場になるな。燃料が行き渡れば、1,000機の戦闘機と爆撃機が我々の頭上を埋め尽くす。そうなれば、旅順から上陸を試みる南方軍本隊は、波打ち際で殲滅されることになる」
水町中佐
「参謀長、猶予はありません。敵が燃料を各前線飛行場へ再び分配し終える前に、ハルビンという『心臓』を物理的に停止させる必要があります。今この瞬間も、追加の補給物資と燃料を満載した輸送部隊がハルビンから各地へ散ろうとしています」
榎本大佐
「幸い、ウラジオストクで接収した『ロシアン・デカポッド(イェア型)』と『E型』機関車群は、鉄道連隊の手により完全稼働状態にあります。ハルビンまでの広軌レールは、皮肉にも奴らが整備してくれた。これを使わない手はありません」
決断:ハルビン強襲作戦
伊勢神中将が、重々しく口を開いた。
「敵の航空部隊を行動制限するためにこれを掣肘する、その兵站線の根元を叩き折る、これはソヴィエト軍地上部隊の兵站を破壊することも意味する。……水町中佐、挺身降下部隊の準備は」
水町中佐
「完了しています。ヴォズドヴィジェンカを飛び立つ輸送機隊を、性能向上を果たした『疾風改』と『五式改』が直衛します。敵機が離陸する暇を与えず、ハルビン駅および燃料集積所を制圧します」
高瀬少将
「陸路は榎本大佐に任せる。接収した重貨物列車に新設計戦車と兵員輸送トラックを満載し、ハルビンへ向けて東清鉄道を逆走させろ」
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1945年9月24日。ウラジオストク駅のプラットホームは、張り詰めた軍隊の熱気に支配されていた。
広軌(1,524ミリ)の堂々たる鉄路に鎮座するのは、ソヴィエト軍から接収した米国製の巨躯を誇る「イェア(Ye)型」蒸気機関車である。アメリカの工場からレンドリースとしてソヴィエトへ送られ、今や日の丸の識別帯を巻かれたその鉄の怪物は、安全弁から白い蒸気を激しく噴き出し、出撃の刻を待っていた。
その背後には、長大な貨車が延々と連なり、新型一式中戦車がガッチリと固定されている。その砲身はすべて、西の満州平原、ハルビンの方角を睨みつけていた。
機関車の運転室内部は、火床から漏れ出る赤い光と、耐え難いほどの熱気に満ちていた。
「山井、缶圧はどうだ。しっかり上げておけよ」
加減弁のレバーに無骨な手をかけた徳田機関士が、騒音の中で声を張り上げた。大戦前から大陸の鉄路を走り抜けてきた、叩き上げのベテランである。彼の手が握るレバーの先には、前線の将兵数万人、そして何百台もの戦車の運命が繋がっていた。
「二十キロ、限界まで詰まってます! いつでもいけます、機関士殿!」
山井機関助士が、顔を煤で真っ黒に染めながら叫び返した。彼はスコップを握り直し、巨大な火口へと次々に石炭を投げ込んでいく。カシャン、カシャンとリズミカルに響く鉄音が、出撃前の緊張感を心地よく刻んでいた。
駅長の激しい緑の信号灯が振られ、出発を告げる汽笛のワイヤーが引かれた。
「――ヴオォオォォゥゥゥゥーーーーッ!!!」
イェア型機関車が、満州の空を圧するような咆哮を上げた。
「よし、山井、しっかり捕まってろ」
徳田が腹の底に響く声で呟き、加減弁をゆっくりと、しかし確実に引き絞った。シリンダーから凄まじい高圧蒸気が解き放たれ、5対の巨大な動輪が、バラストを軋ませながらレールを噛む。重厚な黒煙がウラジオストク駅の屋根を包み込み、長大な列車がゆっくりと、確実に動き出した。一両、また一両と、重装甲の戦車を載せた貨車がガタン、ゴトンと規則正しい重低音を奏でながら、徳田と山井の引く鉄路へと連なっていく。
後は伊勢神司令官の出撃指令を待つだけだ。




