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待たせたな!  作者: 僧籍
第四部 北方防衛開放戦線

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シベリア鉄道大爆破 空軍戦略爆撃隊出撃 4-6 アムール川の川底を貫く全長7キロメートルの秘密トンネル 1945年9月23日午後2時

地底の動脈 ―― 供述書と作戦変更


ハバロフスク鉄橋落橋の一報がウラジオストクの地上基地に歓声をもたらしたのも束の間、作戦室の空気は数時間後に再び凍りついた。


「橋は囮か、あるいは予備に過ぎん。本命は……川底を通るアムール川底地下鉄道線だ」


佐伯中佐によって執拗な取り調べを受けたソヴィエト軍将校の供述書は、北方軍の司令部に新たな戦慄をもたらした。アムール川の濁流の下、川底の軟らかな堆積層や泥土をぶち抜いて建設された全長7キロメートルにおよぶ「アムール川底トンネル」。


1942年に完成したこの水底トンネルは、アムール鉄橋が破壊された場合でも、極東赤軍の生命線であるシベリア鉄道を止めないために作られたものであった。地上からその存在をうかがい知ることは不可能であり、現在もなお、暗い地底の軌道を膨大な数の弾薬、燃料、重戦車を載せた編成列車が占領した沿岸部に進撃が可能な状態にある。


「橋を落としても、このアムール川底地下鉄道線が生きているならば意味をなさん。敵は川底から進撃が可能だ」


高瀬少将が作戦卓の地図を指揮棒でコンコンと叩きながら、考えを巡らせている。伊勢神中将は冷然とした視線を作戦参謀へ向けた。


「全爆撃隊、ただちに再整備。目標をアムール川底トンネルの南北坑口に変更する。地表に露出したコンクリート製の坑口を砕き、地下の動脈を永久に塞ぐ。――《帰還艦隊》の管制機と流星隊を爆撃機隊に先行させ、敵の防空網を排除せよ」


ヴォズドヴィジェンカ基地の滑走路では、帰還したばかりの機体に休む間もなく爆薬と新兵器が装填された。整備兵たちが疲弊した体に鞭打ち、急降下爆撃に耐える飛龍には500キロ爆弾を、重爆撃機には800キロ爆弾を吊り上げる。そして最前線へ先行する《帰還艦隊》の「流星改」の翼下には、技術の結晶である精密誘導兵器――「誘導噴進弾」が懸吊されていった。


---


先行打撃 ―― 管制機の誘導と流星隊の強襲


1945年9月23日、午後2時。


秋の斜光がアムール川の広大な水面を鋭い銀色に照らし出す頃、大型の爆撃機本隊に遥か先んじてハバロフスク上空へ侵入したのは、《帰還艦隊》の高度な電波探知・通信設備を備えた「指揮管制機」と、それに率いられた「流星改」の打撃小隊と護衛戦闘機「零式艦上戦闘機64型改」であった。


ハバロフスク近郊の丘陵地帯とタイガの泥土の中にひっそりと口を開ける、アムール川底トンネルの南北坑口。ソヴィエト軍もまた、このトンネルこそが極東防衛の絶対的生命線であることを熟知しており、坑口周辺には高射砲や対空機関砲陣地が異常な密度でハリネズミのように構築されていた。


「こちら管制機。目標一帯の電波放射源および対空陣地座標の割り出しを完了。流星隊、誘導データ送信を開始する」


高高度に陣取った管制機の機内から、暗号化された誘導シグナルが流星隊の各機へ目まぐるしく送信される。


「流星隊、全機データ受信。これより誘導噴進弾投下シークエンスに入る!」


流星隊の指揮官・高橋大尉が叫ぶと同時に、低空を滑空する流星改の逆ガル翼の下から、ロケットモーターの点火とともに目もくらむ閃光と白い煙の尾が伸びた。


シュギャァァァンッ!!


管制機からのリアルタイムな誘導電波を受け、軌道を微調整しながら滑空する「誘導噴進弾」は、ソヴィエト軍の対空陣地へと吸い込まれるように正確に向かっていく。


ドガガガガァンッ!!


数秒後、坑口を厳重に護衛していたソヴィエト軍の85mm高射砲陣地や37mm対空機関砲陣地が、次々とピンポイントで精密打撃を受け、土砂と鉄くずの豪雨となって吹き飛んだ。一瞬にして猛烈な爆風と黒煙が敵防空網を包み込み、威圧的だった対空砲火の網が壊滅的に切り裂かれていく。


「敵対空陣地の過半を無力化! 後続の爆撃機本隊、突入コース開けり!」


---


坑口への肉薄 ―― 飛龍の急降下爆撃と地底の叫び


管制機と流星隊が鮮やかに切り開いた空隙を突き、続いて上空へ到達した陸軍の四式重爆撃機「飛龍」の編隊が牙を剥いた。


「『飛龍』隊、高度3,000より急降下爆撃開始!」


機首を垂直近くまで叩きつけ、スロットルレバーをスローへと引き戻す。


――スーッ……


大排気量エンジンの咆哮がすっと消え、風切り音だけの不気味な静寂が流れる。

急降下風圧ブレーキが展張され、高度計の針が恐ろしい速度で逆回転していく。目標――流星隊の噴進弾によって対空陣地を剥ぎ取られ、無防備に露わとなった南側坑口の黒い「穴」。


高度800メートル。限界ギリギリのタイミングで、照準環の中心に捉えた坑口へ向け、腹下から500キロ爆弾が切り離された。


直後、操縦桿を力任せに引き倒し、スロットルを一気に全開にする。


エンジン全開――!


ブワーッ――――ッ!!


強烈で猛烈な爆音を轟かせ、強烈なGに耐えながら飛龍の巨躯がタイガの木々をかすめて水平上昇へと移る。


ズゴゴゴゴゴゴォォォンッ!!


投下された爆弾は、鉄道の路盤を削り取りながら坑口の内部深くへ滑り込み、超高圧の爆風と猛炎となって破裂した。圧縮された熱波が巨大な炎の舌となって坑口から逆流・噴出。内部に潜んでいた列車や弾薬が連続爆破を起こし、地底からの咆哮が大地を激しく揺さぶる。


続いて肉薄した村中大尉の一式陸攻三四型が、崩落を確実なものとすべく、追い打ちの九九式八〇番五号爆弾(800キロ特殊穿孔爆弾)を正確に叩き落とした。


---


崩落と遮断 ―― 塞がれたアムール川底トンネル


背後で、大地そのものが叫び声を上げるような巨大な地響きが轟いた。


村中が風防越しに振り返った瞬間、北側の坑口周辺の山体と軟らかな堆積層の地盤そのものが、まるで生き物のように蠢き、崩れ落ちる光景が目に入った。


《帰還艦隊》の管制機と流星隊による誘導噴進弾での先制制圧、飛龍の精密急降下爆撃、そして高高度6,000メートルからB-17EおよびB-24Jが放った数千キロの重爆弾群――これらすべてが完璧な連動を見せた結果であった。もともと川底の軟らかな地層に施工された構造体は高高度爆撃の巨大な衝撃波に耐えきれず、山腹の岩盤や坑口直上のコンクリート構造物ごと崩落を起こしたのだ。


数万トンにおよぶ土砂、泥土、そして破砕されたコンクリートの塊が、津波となって鉄道引き込み線とアムール川底トンネルの入り口を完全に埋め尽くした。アムール川の激流の下、水底の暗黒を貫いていた7キロメートルの地下線路は、両端を完全に塞がれ、地底の巨大な「密室」へと変貌を遂げた。


内部に取り残された無数のソヴィエト軍兵士、重戦車を載せた貨車、そして途切れた極東への物流――その全てが、水底の暗闇の中で永久に閉じ込められたのである。ソヴィエト軍が誇った裏の兵站動脈は、自らを閉じ込める巨大な墓標へと変わった。


「全機、離脱。これより帰還コースに入る」


村中の言葉は短かった。


《帰還艦隊》艦載機隊とヴォズドヴィジェンカ基地爆撃部隊と護衛戦闘機「疾風」「飛燕」の護衛戦闘機隊はそれぞれ、見事な巨大な編隊を組み、ウラジオストクへ帰還していく


眼下では、ハバロフスクの街と濁流アムール川が、深まりゆく秋の夕闇の中に沈もうとしていた。

だが、その冷たい地底を静かに流れていたソヴィエト極東軍の血流は、いまや完全に、そして永久に停止していた。


夕闇が包み込み始めるウラジオストク・ヴォズドヴィジェンカ基地へ向けて。

長い影を引く機群は、静まり返る極東の空を南へ向かって飛翔し続けた。

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