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オヤドガグモ

 洞窟の風を頼りに隧道トンネルをたいまつ(トーチ)を持ち、自身とミサナギは混蟲クリーチャーが巣にしているであろう道を進む。

「こうしてトンネルを進むのは初めてじゃないが、始めから二人で入るのは初めてだな」

 混蟲がいる洞窟に二人で入るなんて馬鹿バカげてる――死んでいてもおかしくないはずだ。

「あそこから出れるんじゃないですか?」

 彼女のいうあそことは天井から光が見えるところだろう。洞窟の隙間だろうか、それとも混蟲が開けた穴か。どちらにせよ、あそこから出れた方がいい。

「なんか血の匂いが……」

「……気を付けろ。混蟲がいるかもしれない」

 錆びた鉄の匂いだけならいいが。野盗の話では先に入った者がいるはず、生きてはいないだろうし、そいつを襲ったのは混蟲だ。

 左右に上下、混蟲が現れそうなトンネルを進む。しばらくするとトンネルは広くなり、天井までたいまつの明かりが届かないところに出た。

「広くなりましたね」

「不味い状況だな」

 こういう広いところは混蟲の狩り場か、人でいう食糧庫のようなところだろう。狩り場ならここの主がどこかにいるはず、立ち会うことなく出るのは難しいか。

「どういうことですか?」

「狩り場かも知れない。混蟲はどこかにいる」

 ここが狩り場などはどうでもいいことだろう。それよりも混蟲はどこにいる――早く見つけなければ。ミサナギもたいまつで辺りを照らし、混蟲を探しているようだ。

「ラガクさん。あそこに剣が」

 指差す方を見ると一本の刀剣が落ちている。あれは先に入った者の持ち物だろうし、武器が落ちているということはその者は生きてはいないだろう。混蟲の巣くう洞窟で武器を捨て置くとは考えづらい、襲われたか、返り討ちにでもされたか。

「使えそうな剣だな」

 小剣ショートソードだけでは心許こころもとない自身はその刀剣に近づき、刀剣を拾い上げてたいまつで刀身ブレード握把グリップを照らす。

 片手で振れそうな剣は両刃でそれほど刃こぼれもなく、グリップの革紐も擦れておらずにしっかりと巻かれている。長さは腰に付けているショートソードよりも長くて刃幅も広いが、大剣柄ヒルトは短いから片手剣ワンハンドソードなのだろう。いうなればショートソードの対になる長剣ロングソードか。

「ラガクさん! 混蟲が……」

 そこに現れた混蟲は今まで襲われた脚に毛が生えた蜘蛛クモよりも大きく、よく現れる鎌腕を持つ混蟲よりもさらに大きい。

「デカい……ッ!」

 混蟲は鎌腕を凪ぎ払うように振り回し、自身は拾ったロングソードで受け止めて防ぐ。流れるような鎌腕の攻撃はたいまつを持っていかれ、身体も地面に叩きつけられそうになる。

「ああ、クソ。ミサナギ! 矢を射れるかッ?」

「ちょっと待ってください!」

 体勢を整えながら鎌腕に斬り付けるが、その甲殻にロングソードは傷を付けるのみ。混蟲は左右の鎌腕を振り上げ、飛びかかるようにして襲ってきた。

「――ッ!」

 そのまま押し倒され、両腕を鎌腕で押さえられてしまう。混蟲の顎と口にある四つの触手がうごめき食い付いてくる。

「ワッワァッ!」

 クソ、腕が押さえ付けられて動けない。何度も蹴りを入れるが、混蟲は怯みはしても食い付いて離れない。

「今、助けます!!」

「ウガ――ッ!」

 鎌腕に掴み上げられて投げ飛ばされ、地面に身体をぶつけながら洞窟の壁に叩きつけられた。いくら身体に装甲を身に付けようとここまで激しい衝撃はキツい。頭がクラクラするし、背中や間接に痛みを感じた。

「クソッたれだ……」

 ミサナギは何をしたのかは知らないが、混蟲に少しの痛手は負わされたもののまだ戦えるはず。

「血か……?」

「ラ――ガ――ク――さ――ん……」

 手甲籠手ガントレットの指や手にベト付くそれは血だろうか。また、鼻血でも出ているのだろう。向こうに転がるたいまつを頼りに薄暗い中を進み、彼女の声がゆっくりと聞こえてくる。

「ミサ――ナギ……?」

 脚に何が引っかかりつまずく。片手でそれを触って調べる――血生臭ちなまぐさい、大きくてやわらかい、ゴツゴツとしている、棒のようなもの、ベットリしたぐちゃぐちゃした何か、布切れのようなものや絡み付く糸のようなもの。

「え、ウソ……だろ。そん……な」

 死んだのか。彼女が、ミサナギが。嘘だ。死ぬなんて、そんなわけない。自身が混蟲にあらがえないばかりに殺してしまったのか。

「クソ野郎だ」

 ロングソードと拳を握りしめ、立ち上がってその亡骸なきがらを踏み越えて落ちているたいまつに進む。

「畜生ッ!」

 振り上げる鎌腕を下ろす前にロングソードで押さえ込み、左足を踏み込んで間合い縮める。もう片方の鎌腕の一撃をもらう前にロングソードの一撃を見舞い、後ろに転がるように間合いを空けた。

「クソ。斬れそうにないな」

 ロングソードにそれほど刃こぼれはなかったが、もとから斬ることに向いた刀剣ではないのかも知れない。さらに何度か鎌腕や脚に斬り付けるも、脚に斬り付けると刃は滑り斬れない、鎌腕に傷が刻まれても怯むことなく混蟲は襲いかかってくる。

「なら……」

 混蟲の攻撃を避けるように背後に回り込み、斬り付けてさらに突きを見舞って振り回された鎌腕をさばく。脚や鎌腕の関節を狙って斬撃や刺突で攻撃するが、そうそう当たるものでもない。

「何か弱点があるはずだ――クッ!」

 たいまつだけの薄明かりでは混蟲の攻撃を避けるのも苦労し、ロングソードを振るえば振るうほどに体力スタミナが奪われ息切れしてくる。

「ハァ、ハァ……」

 混蟲から距離を空けて重く感じてきた背嚢バックパックを捨て去り、乱れた息をなんとか整えようとするが。

「クソ蟲め」

 威嚇してくるように鎌腕を広げ、こちらに迫って空けた距離を縮めてくる。吐息ブレスではなく、嘔吐ゲロを吐き出す。その攻撃から手のガントレットで顔を護り、ベタ付くゲロを振り払って拭う。

「覚悟しろッ!」

 混蟲の垂れ下がる触角を狙い、ロングソードで下から斬り払った。触角は斬れずに上と跳ね上がり、混蟲は触角と同じように跳ね転がるように暴れる。

「これか!」

 この混蟲が薄暗い洞窟でも獲物を見つけることができるのは触角で探っているのだろうと考え、その触角に攻撃をしたのだ。斬り飛ばすことはできなかったが、効果はあるようで好機チャンスと見える。

「眼にもの見せてやる」

 暴れる混蟲を無視して捨て去ったバックパックに走り、中から丸い瓶に入った透明な液体を取り出す。これはアルコールだ、もうこれしかない必殺だ。

「ミサナギに贈る弔い酒だ」

 丸い瓶を混蟲のいる洞窟の天井に投げつけると瓶は砕け散り、硝子ガラス片とアルコールが混蟲に降り注ぐ。そのままたいまつの火が燃え移って混蟲は炎に包まれ、洞窟の中を明るく燃えさかる。

「やったか……」

 燃える混蟲はしばらく暴れて洞窟の壁に体当たりしたり、鎌腕を振り回して火の粉を飛び散らせたが、動きはどんどん鈍って黒焦げになった甲殻の中から白い肉がはみ出して死んだ。

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