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諦めが悪い奴だけが夢を叶えることができる。

 洞窟を巣にする巨大な混蟲クリーチャーオヤドガグモは倒したが、自身の大切な仲間を――。

「ミサナギ……」

 燃える混蟲の明かりに照らされる亡骸なきがらは無惨な姿を嫌でも見せつけてくる。こんな別れ方があるだろうか――こんな酷い姿になってしまった彼女をどうすればいいというのか。

「不甲斐ないばかりに――」

 防人として彼女に何ができたろう、何も伝えれなかったし、何もできなかった。何もかも――。自身が彼女を殺したといっていい。自身が抗うだけの力がないから大切な仲間を守れないのだ。

「クソ……」

 ヘルムメット防面フェイスガードを取り、濡れた覆面を脱ぎ払って手で眼を押さえる。

「ゲロが眼に入ったみたいだ」

 眼から溢れる涙を覆面で拭うが、何度やっても瞳の熱さは取れないし、喉から熱いものが込み上げてくる。

「…………」

 その場で膝をついてベルトに付いた小鞄ポーチから神社を取り出す。

「黄泉の先人たち――我が生を削り死から解き放ち――彼女を導きたまえ――」

 彼女を人質に取ったときの後悔とは違う。それよりも重くて苦しくて穴が空いたような、自身はそこまで彼女のことが好きだったのか。彼女を――。

「ラ――ガ――ク――さ――ん……」

 耳に残る彼女の声は防人としての自身を追い詰める。一体どうすればよかったのか、自身にはわからないし、考えられないことのように思えた。

「ラ――ガ――ク――さ――ん……」

 何度も聞こえてくるミサナギの声は自身を呼んでいるようだ。そう、はっきりと呼んでいる。彼女の声がこんなにもしっかりと聞こえてくるなんておかしい。

「ミサナギ……? 生きているのか?」

 彼女の亡骸に声かけるが身動きすらない、当たり前だろう。死んでいるのだから。さらに薄暗い洞窟は暗闇で見えない、耳を澄ませ端から隅まで眼を凝らして探す。

「ラ――ガ――ク――さ――ん……」

 どこだ。彼女にもう一度会いたい。喋りたい。生きていてほしい。落ちているたいまつに燃える混蟲から炎を灯し、暗闇を薄明かりに変えて彼女を探した。

「ラガ――ク――さん……」

 歩き出して声を頼りに彼女のいる方へ進む。まだ彼女は黄泉にいってはいない、生きているんだ。神様たち、先人たち、防人たちお願いします。どうか、ミサナギに会わせてください。

「ミサナギ」

「ラガクさん……?」

 地面に横たわる彼女は眼を閉じ、まぶたから涙が頬を伝っていた。膝を着くとたいまつで照らし、そっと彼女の手を握って声をかける。

「大丈夫だ……ここにいる。どこか痛いところは?」

「眼と顔、それに身体が痺れて……」

「少し待ってくれ」

 その場から立ち上がり、捨て去った背嚢バックパックを探してそれを持ってミサナギの側に置いた。たいまつを地面に置いて汚れた手を草摺スカートで払い、手甲籠手ガントレットを外す。

「これから身体を触って怪我がないかを調べるからな」

「はい……」

 彼女の身体を頭から脚の先まで見て確認するが、眼に見える怪我はないように思えたものの、服の下や見えないところもあるので触って確認する必要があった。触ったら悪いと考えなくもない。

「頭からいくぞ」

 なるべく優しく頭を触りつつ、怪我がないかを確認していく。頭に怪我はなかったが、顔にある頬の傷から血が出ていたのと眼から流れる涙は混蟲の嘔吐ゲロで眼をやられたのかもしれない。

「頭に怪我はないな、顔も大した傷はないから大丈夫だ。少し傷があるくらいの方がモテるから気にするなよ」

「どういうことですか、それ?」

「傷があってもミサナギの美しさは変わらないってことだ」

「アハアハ。恥ずかしいこと言うんですね……」

「上手く言ったと思ったんだがな。眼はゲロにやられたのか?」

「そうだと……思う」

「顔を拭くからな」

 ベルトに付けるポーチの一つから竹製の水筒とバックパックから手拭タオルを取り出し、それに水をかけて顔を拭いていく。

「身体も確認する……いいか?」

「はい。いいですよ……気にしなくて」

 濡れタオルを顔にかけてやり、ゆっくりと肌が見える左右の肩から腕を調べいき、二の腕に肘当エルボーガードとガントレットを身に付ける腕を見て触って感じて確認する。肘の少し上から手まで包帯が巻かれ、その上からガントレットなどを身に付けているのは肌を気遣ってだろう。

「ラガクさん……触り方が……やらしい」

「そういうつもりじゃないんだが……」

 彼女に冷やかされたが、何でもないような振りをした。やばいくらいに緊張してるが、大丈夫なのか自身は。ついにおっぱいだ。

「失礼する……」

「あっ」

 優しく触ったものの、色っぽい声を上げるから驚いてしまう。そのまま手を滑るように動かして調べていくが。

「あんっ、んん……ひゃっ、あっ」

 上から下に横へと手と指先で彼女の反応を確かめつつ、自身の手や指に血は付いていない。しかし、どうにもやりにくい。

「その……なんだ。痛いところは?」

「胸は大丈夫です……」

 何をやっているんだろうな、自身は。それに変な気分だ。

「そ、そうか。下は……し、痺れてるのか?」

「し、痺れてますけど……」

「身体の向きを変えるからな。あと、腰に付けてる装備は外すぞ」

「はい」

 腰に付けているベルトの留め具を外し、されるがままの彼女の片腕を胸に乗せ、片脚をもう片方の脚に交差するように乗せて身体の体勢を変えてやる。

「お腹は痛むか?」

「大丈夫です」

「腰も大丈夫か?」

「はい」

 スッキリとしたお腹に細いウエストは女性らしい身体でなんとも綺麗なくびれだと、触った手でも感じることができた。

「お尻、触るからな」

「えっ! ひゃ! あっ、んん……」

 ミサナギの反応を見ていると楽しくなってくる。どうしてそんな声が出せるのか不思議だし、それよりもわざとらしく演技してるのか。

「やん……なんか、楽しんでません?」

「――――わざとやってるのか?」

「へへ、バレちゃいました。楽しそうにしてるから」

「…………」

 彼女の思うとおりで楽しんではいたが、『これは怪我をしてないかを調べているだけだ』とは胡散臭うさんくさ台詞セリフだろう。

「脚は触らなくていいんですか?」

「怪我はないみたいだからな」

「あれ、触らないんですかー?」

「それだけ軽口を叩けるなら大丈夫だ」

「眼は見えるか?」

「どうでしょう……」

 濡れタオルをどけて眼を見た。まばたきしてこちらを見る彼女はどこかさむしげな眼で遠くを見るような眼差しを向けてくる。

「……そんな眼で見るなよ、自身は弱い人なんだ。防人になったのも祖国を守り、人を助けて英雄になりたかったのかもしれない。でもな、防人になっても自身は強くなれたわけじゃなかった。誇れることができたわけじゃなかった……」

「ラガクさん……?」

「何を言っているんだろうな。忘れてくれ。動けるか?」

 話そうと思ったことを胸にしまい込み、鞘の無い片手長剣ロングソードは毛布にくるんでバックパックに縛り付け、ミサナギの矢筒も携帯しやすいようにくくり付ける。

「何を弱気になっているんです! ラガクさん。あなたは弱くありませんよ、誇れることなんて私もありませんけど……でも、これからじっくり探していけばいいじゃないですか。強くなることだってあきらめずに頑張っていれば報われるはず。だから……そんな姿を見せないで」

 彼女からさとされるとは思わなかった。誇れることも強くなることも、諦めが悪い奴だけが夢を叶えることができる。自身はそれを忘れていたのだろう。

「ミサナギ、ありがとう」

「それで、その……甘えていいですか?」

「甘える……?」

「抱っこしてください」

 抱っこってあれか、背負ってほしいってことか。甘えてるのか、それ。それより、なんかわからないことになってるな。

「……すまない、もう一度言ってくれるか?」

「だから抱っこしてほしいんです!」

「抱っこ?」

「恥ずかしいから何度ども言わせないでください! 抱っこしてっ」

「頭がおかしくなったのか?」

「ヒドイ!」

「自身が……おかしいのか?」

 自身の頭がおかしいのか、ミサナギの頭がおかしいのかよくわからないし、それとも混蟲のオヤドガグモのゲロに毒でもあってそれにやられてるのか。

「痺れて動けそうにないんです」

「だから――抱っこ?」

「そう!」

 両腕にガントレットを付け終わり、身に付ける装備を確認してバックパックを背負う。そして濡れた覆面は腰のポーチに入れ、ヘルムメットとフェイスガードを付けた。

「まあ、いいだろう……」

「ひゃ!」

 ミサナギを両腕で抱え上げ、ゆっくりと光の漏れでる洞窟の隙間に歩いていく。こんな状態で敵と出くわせばただではすまないだろうが、無理をしてでも彼女も装備も捨て置けなかった。

「すごっ……そんなに装備もって抱え上げるなんて」

「ひとつ言っていいか?」

「なんですか? まさか重い、なんて言いませんよね?」

「……ああ、正直重い」

「知ってますから、頑張ってくださいね。私は軽いですから、装備が重たいんです」

「そういうことにしておこう」

「そんなこと言っちゃうんだー」

 ミサナギは楽しそうだが自身はかなり疲れるし、彼女はそこまで身体が痺れてるわけじゃないと思う。両腕で自身の身体に掴まっているし、軽口も叩けるから元気になってきたようだ。

「でも、そんな頑張っているラガクが好き」

「……聞こえなかったな」

「アハアハ、残念。聞き逃すなんてっ」

 なんだろうな、この気持ちは。身体は重いが心は軽く、不思議とどこまでも進んでいけるような感じだ。

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