混蟲の驚異
照明器具を腰にさげ、刀剣や鈍器を持つ――その手は手甲籠手で覆われ、堅牢な装甲を身体に纏い、顔も防面と兜を付ける防人たち。
黙々と混蟲の巣を進み、至るところから現れるクリーチャーは小さいものから隧道の通路を塞いでしまうような大きさまで様々。
「混蟲どもをどれだけやればいいんだ? キリがない」
「地下は蟲どもの巣窟らしいですからね、どれだけでも現れますよ」
一人の防人がいうようにトンネル内はクリーチャーが前後、天井に足下、どこからでも現れる。
「クソ、また道が別れてやがる。どっちに行く?」
「右も左も変わりませんよ。どっちに行っても混蟲は現れますから」
「よし、二手に別れろ。俺のパーティは右を行く。お前のパーティは左へ」
「了解、御武運を」
「さて、我々は左へ行きますか」
「よし、俺に続け。クソ蟲は残らず殺せ」
自身は右へ行く組に続く。このパーティを率いているのは戦闘経験がある熟練者の防人であり、左へ行くパーティを率いる防人もベテランだ。
防人に等級や階級などはなく、戦闘に参加したことがあるかでパーティを率いたりする。自身は新人の防人で率いられる方だった。
全員がランタンを装備しているため、トンネル内はそれほど暗さを感じない。
「クソ蟲だっ!」
この狭いトンネルを塞ぐように進んでくるクリーチャー。鎌腕と尾が付いた混蟲で蜘蛛のような姿だが、蜘蛛とは違って糸は出さないし、残忍で人を八つ裂きにしてしまう。
「破榴爆、投げる用意」
破榴爆とは人に対して作られた武器であり、切り取った竹などの中に火薬と岩片を詰めたものだ。
たいまつ(トーチ)を持つ防人が破榴爆の導火線に火を付け、すぐにでも投げられるよう備える。
「投げッ!」
二人の防人が破榴爆を同時に投げつけた。投げられた破榴爆はトンネルの壁や天井にぶつかることなく、混蟲の迫る通路に転がり落ちる。
炸裂して岩片を撒き散らし、混蟲の鎌腕や脚を何本か吹き飛ばす。千切れ飛んだ肉片と体液が辺りに飛び散って酷たらしい。
「どうだ。やったか?」
岩片に引き裂かれた混蟲の屍を越えて現れる混蟲は、鎌腕や脚を無くしてまでこちらに迫ってくる。
「白兵戦だっ、かかれ――ッ!!」
狭いトンネル内は防人二人で白兵戦を仕掛けることしかできず、前にいる防人二人が刀剣を構えて進む。
鎌腕の攻撃を捌きつつ、残った鎌腕を斬り落とす。さらにもう一人の防人が脚を斬りつけ、混蟲の動きを鈍らせた。
「うがぁぁ――ッ!!」
弱った混蟲の背後から新たな混蟲が現れ、顎の中にある口から放たれた吐息というよりは嘔吐を浴びてしまう。
「カバーしろ!」
自身は弱る混蟲を金砕棒で叩き潰し、二人の防人を襲う混蟲にそのまま攻撃を振るう。
「クッ、ヤバい!」
混蟲の鎌腕を金砕棒で押さえ込み、二人の防人を踏み越えて攻撃を防ぐ。顎と口を動かし、こちらに噛み付こうとしてくる。
「しっかりしろ!」
もう一人の防人が鎌腕の節に短剣をあてがい、斬り折って助けてくれた。混蟲は斬り折られた鎌腕を振り回し体液を飛び散らす。
「二人は助けたっ、殺せ!」
「了解ッ!」
残った鎌腕を振るう混蟲の攻撃を振り払い、金砕棒を振り上げて頭を叩き潰す。ランタンに照らされ、新たな混蟲が見えると鎌腕で殴られて地面に倒れ込む。
『クソッたれが……』
金砕棒から手を離して顔を狙う片方の鎌腕の刺突を反らす。さらに迫る鎌腕は捌けずに攻撃が当たり、身体を抉られるようだった。
『急げ、焦るな、落ち着け――』
右手で片方の鎌腕を掴んで攻撃を防ぎ、左手で腰に装備するナイフに手をかけて引き抜く――迫る顎に構うことなく頭を斬りつけ、口に刺突を見舞う。
『死にそうだ……』
「大丈夫か!?」
混蟲の下敷きになり、動けないでいると二人の防人が混蟲をどかして助けられた。自身のいくつも装備する小鞄が引き裂かれたくらいで身体に怪我はない。
「大丈夫。震えが止まらないだけだ……」
自身の手から震えが止まらないだけではなく、脚も震えて心が臆病になっていたのだろう。
「八番、立てるか?」
八番は自身に与えられた組番号であり、他の防人もそうして呼ばれているが、ベテランの防人にもなると通り名や暗号名を与えられたりするらしい。
「――心配ない。行こう」
金砕棒を杖に使って立ち上がり、引き裂かれたポーチから落ちた装備を拾って仲間の防人に続く。
「ヤバい、ヤバい!! また蟲どもだっ!!」
トンネルの奥から次々と現れる混蟲は、蜂や蟻が巣から出てくるさまに似ている。
「もう一度、破榴爆を使う。投げる用意――」
「破榴爆、投げる用意ッ!!」
ベテラン防人がそう告げると他の防人たちもそう叫んで仲間に伝え、破榴爆を持った防人の二人が導火線に点火。
「破榴爆を投げるぞ! 投げッ!!」
点火された破榴爆はトンネル奥に転がり込み、暗闇から現れる混蟲を巻き込んで吹き飛ばす。
「汚ねぇ花火だ」
岩片に引き裂かれた混蟲の手足が体液を撒き散らし、自身や防人に降り注いだ。トンネルの奥からさらに醜い姿になって混蟲が現れ、防人たちに近づいてくる。
「クソ蟲め、まだ生きてやがる……」
「白刃を抜け! クソ蟲を残らず斬り捨てよッ!!」
ベテラン防人がそう叫び刀剣を鞘から抜き払う。防人たちも手にする武器を構えて暗闇のトンネルに突っ込み、自身も金砕棒を持ち突進した。
「怯むな、防人として恐れることなく戦えッ!」
醜い混蟲たちは鎌腕を斬り飛ばされ、叩き潰し、それを踏み越えて防人は進む。防人たちも混蟲の鎌腕や顎に食い付かれ、傷を負いながらも戦い続ける。
この戦いは混蟲の殲滅とまではいかなかったものの、祖国の防人たちにとって多くの教訓を残すことになる。祖国の民も、これまで驚異とされていなかった混蟲が人の敵となるのではと囁かれ始めた。




