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#11 歯車




 星が降る。

 歯車をきしませ。歯車を噛み合わせ。


 たしかに、たしかに、雨が降る。

 回転舞台は悲しげに回り続け

 きしんだ歯車すら、全て消すために

 星は降る。


 星の雨は全てを消しにきた。


 全てを消して

 全てを砂にして

 全てを瓦礫の下に埋めて

 後悔も想いも霧になる。


 星が降る。


 全てを消すのは、星の雨。

 星が、降る……。

 


 

 


 

「最高ですよっ!」


 と野咲は鼻息を荒くして興奮している。学校まで迎えにきた西川と野咲だったが、彼女はずっとこれだ。西川もミドリも苦笑を隠さずにはいられない。この人は本当に分かりやすいというか、何というか。


 結局前半部はすでに読んでいたにも関らず、一から読み直す始末。その後、編集部に原稿完成の旨を電話連絡して、無断欠勤を怒られたらしいが、そんな事でめげる野咲ではない。

 そして無断欠勤だったのか、とその時西川は知ったが彼女の【読者】としての情熱は、軽くカルトだなと思ったが、まぁそれも含めて職業編集者の野咲らしいとも言える。


 少しはめげてほしいんだけどなぁ、とは西川の声。そんなものが通じるはずもない。


「今日は原稿完成記念ってことで、打ち上げにいきましょう!」


 と野咲は意気揚々である。


 それを見て、ミドリは少し幸せな気分になる。正直、父との生活は寂しくはないが、時々隙間を感じる事はある。父は精一杯、ミドリに愛情を注いでくれるし、その幸せをミドリは自覚しているつもりだ。母がいなくて苦労した事だって少なくないはず。でも、父はそんな事はもらさない。不器用なのに理想の父になろうと、いつもの努力している。


(そんなに頑張らなくても、私はいつものお父さんが大好きなんだよ)


 心の中で、いつもそう囁きかける。


 母がいたら…と思った事が、父を苦しませた。子供心にそんな記憶がある。


 母がいなくてもいい。父がいてくれればそれでいい。だって記憶の有る時から母はいなかったのだ。その温もりだって知らない。別にいないないないでもよかったけど、ただ他の子を見て羨ましくなった。ただ、それだけ。


 でも、と今は思う。


 野咲さんがお母さんになってくれたら、楽しいだろうなぁ。きっと騒がしくて収拾なんかまるでつかないだろうけど、きっと毎日が楽しくて仕方ないに違いない。料理だって野咲さんはなかなかの腕だし、お父さんと並んでキッチンに立っている姿を想像しただけで、何だか口元がほころんでくる。


 お父さんは気付いているんだろうか? 野咲さんの気持ちを-。


 野咲さんがこココまで真摯にお父さんのお話しにこだわるのは、もちろん西川集一という作家の物語世界に魅せられているのも事実。でもその奥底で、人間・西川集一に恋している女の子の野咲もいる。


 だからね、お父さん。とミドリは苦笑している西川に心の中で囁く。


 少しでもいいよ、気付いてあげて。その気持ちに。


 そう思って、可笑しくなる。多分、無理だね。お父さんには。


「何だ、ミドリ。人の顔見て笑って」


「…良かったね、お仕事無事に終って」


「ん? まぁな。でも、昨日、一緒に星を見た時には終ってたんだけどな────」


「そんな事より、二人とも」


 と野咲がにゅ、っと顔を近づける。


「今日は私のオゴリです。ぱぁっと、いきましょう!」


「本当に?」


 と西川が目を丸くする。


「いや、悪いな、野咲君」


「お父さん」


 とチョンチョンと脇をつっついて


「少しは遠慮するものよ」


「いいの、いいの、日頃からお世話になってるし。これからも、ね、先生?」


 とその笑顔は小悪魔のようにミドリには感じたが、西川には天使の囁きに聞こえたらしい。お父さんって、本当に単純なんだから、と思うとまた笑いがとまらなくなった。


「ミドリちゃん、お魚とか好き」


「うん」


「当然、俺が徹底的に教育したからな。箸でちゃんと骨を取れるぞ」


「別にお父さんが威張る事じゃないでしょ」


「親バカ親バカ」


 と無視して


「お魚のおいしいお店、知ってるの。ミドリちゃんにはまだ早いかな?」


 ミドリはプルプルと首を振って否定して


「行く、行く! お魚大好きだもん。ホタテもなきゃイヤだよ」


「もちろん、もちろん」


「マグロのお刺し身は?」


「あるある」


「お酒は?」


「それはだめー」


「ぶー」


「父さんは寂しいぞ」


 そんな父の言葉も無視。やれやれと、西川は苦笑した。女は団結すると強い、強い。この頃、心なしかミドリがアイツに似てきたような気もする。


(またか、いい加減にしろよ、俺)


 頭から過去の想い出を締め出すが、離れられないでいる。弱いな、俺も。今さらになって。本当に---今さらだよ、そんな事を思うなんて。


「お父さん、遅いー」


 ミドリの声に西川は苦笑した。勝手に無視し先に行っておきながら、何て言い草だ。父の威厳もクソもあったもんじゃない。人を何だと思ってんだ、と思ってみたりしたがそれも無駄な抵抗か。


「今、行くって」


 と二人の元に走る。赤い夕日がやけに、まぶしかった。

 

 

 







 

 そして夜。

 歯車は運命を回して

 全ての布石は整然と並べられ

 今はただきしんだ歯車に噛み砕かれるのを待つばかり。

 星が降る。

 星が降る。

 全てを壊しに…。

 全てを崩しに…。

 全てを消すために…。

 星が降る……。


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