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OCTAGON  作者: 海内裏


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第八話:三つの刃

浜南大学付属高校との練習試合を終え、星ヶ丘高校サムライ部が新たな「プロ特訓」へと舵を切る中、二年生の九十歩くじゅうぶは激しい焦燥感に駆られていた。

エースの羽美は神速の抜刀をさらに研ぎ澄まし、一年生の萌香と高知は凄まじいスタミナスパーリングを繰り返している。だが、長刀(リーチ型)を選択している自分と同じ手永紺は、高山高の宇津志に懐へ潜り込まれて瞬殺。(このままじゃ、俺たちはただの引き立て役で終わる)

長刀の長さを「安全な盾」にするのではなく、本当の「牙」に変えるにはどうすればいいか。悩んだ末、九十歩は誰よりも信頼する同級生であり、旧知の仲である中原巴ナカハラ トモエを放課後の廊下に呼び止め、意を決して相談を持ちかけた。

巴は黒髪をポニーテールに結った、凛とした佇まいで男女問わず憧れの的となっている有名人だ。かつて九十歩が不良3人に絡まれていた時、通学カバン一つで瞬時に彼らを制圧した「学園の守護神」でもある。中学時代の剣道部では面の一撃で相手の竹刀を叩き折るほどの規格外の身体能力を持ち、現在はなぜか弓道部に所属しているためBUSHIDO FIGHT自体は未経験だったが、その剣術の理合と戦闘センスは星ヶ丘の誰よりも群を抜いていた。

「ともえ、頼む……。俺と手永の長刀に、懐へ潜り込まれた時の『解答』をくれないか」

九十歩の真剣な眼差しを受け、巴はフッと悪戯っぽく微笑んだ。

「いいよ、アユトの頼みだしね。……ただし、明日から毎朝5時、誰もいない体育館にその手永って子を連れておいで。他の部員たちのメニューが始まる前に、あんたたちが変わるための秘密の朝練だ」

翌朝、午前5時の体育館。冷たい床の上に、巴、九十歩、手永の3人が揃った。手永と巴は、これがほぼ初対面だった。巴は手永がボクシングジムに通っていた過去も、接近戦インファイトに抱く根深い恐怖心も知らない。ただ、長刀を構える手永の硬い表情を見て、ただ事ではない執念だけを感じ取っていた。

「BUSHIDOのAI判定は力任せの平打ちを無効化するらしいけど、それは『刀の先端で打て』という意味じゃない。長刀の利点を活かした、接近戦の三連撃テクニックを教えるよ」

巴が授けたのは、自身の剣術経験をBUSHIDOのルールに落とし込んだ合理的かつ冷徹な解答だった。

まず一つ目は『斬る』。敵が懐に踏み込んできた刹那、長刀の長い柄をテコのように利用し、至近距離から円軌道で首元を鋭く「擦り斬る」ように刃筋を通す。

二つ目は『突く』。上体を半身に開きながら、最短距離で相手のサイバー防具のセンサーへと正確に木刀の先端を突き刺す。正式ルールをハッキングするようなこの技術に、手永の目が驚きに揺れる。

そして三つ目、これこそが巴の真骨頂だった。『石突き(いしづき)で打つ』。長刀の柄の最下端、つまり底の部分を、アッパーカットのように、懐へ潜り込んできた相手の顎の防具へと下から突き上げるように叩き込む技術だ。BUSHIDOのルールでは、この石突きによる打撃は、刀の一部を使用した「有効な格闘アクション」としてシステムに容認されている。しかし、頭で理解することと、それを肉体で体現することは全くの別物だった。

「……違う。手永、引きが遅い。アユト、刃筋が寝てる」

日々朝練を続けるが、新しい技術はなかなか2人の身体に馴染まない。長刀の重量バランスで至近距離で先端をミリ単位で制御するのは至難の業だった。手永は接近戦の恐怖とも闘い、九十歩は自分の筋力の限界に歯を食いしばる。だが、2人も、BUSHIDO未経験の巴も、誰一人として諦めなかった。

「もう一回だ。基本動作の繰り返し。それしか道はないよ」

巴の静かな激に応え、2人は無駄な言葉を一切削ぎ落とし、基本の構えと素振りを繰り返し、繰り返し黙々と続けた。

そんな基本動作を繰り返す2人を尻目に、巴もまた、予備の長刀を一本手に取っていた。BUSHIDOの専用ルールや精密な判定システムは知らない。だが、彼女は持ち前の圧倒的な身体センスだけで、長い大刀の重量を完全に制御していた。2人の動線と自分の間合いを重ね合わせるように、何かを確かめるように、静かに、かつ凄まじい風切り音を立てて黙々と刀を振るう。朝の静寂の中、ガツン、ガツンと、カーボン木刀が空気を切り裂く単調な打撃音だけが、体育館の壁に幾度も跳ね返る。

泥臭く、地道な反復練習。未だ完璧な一本は出ない。だが、その気の遠くなるような時間の果てに、手永の動きから微かな迷いが消え、九十歩の軌道が鋭さを増していくのが分かった。

「よし、そろそろみんなが集まる時間だね」

巴は汗を拭い、長刀を収めると、部活カバンの奥からクシャクシャになった数学のプリントを丁寧に取り出した。

「驚かせてやろう、あんたたちの長刀の本当の牙を。……その前に、私はこの赤点回避の因数分解を、アユト先生に教えていただかないといけないんだけどね。いつも本当に頼りにしてるよ」

巴の少し形の崩れた敬語と、一目置くような真剣な眼差しに、九十歩は照れくさそうに頭を掻いた。「ともえ、そこはマイナスじゃなくてプラスだよ……」という九十歩の呆れ声が響く。

体育館の扉が開き、朝の光とともに五代部長たちが姿を現した。星ヶ丘高校サムライ部の二年生コンビは、静かに、しかしギラギラとした確かな野心をその瞳に宿し、次なる本番の特訓へと向かうのだった。

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