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OCTAGON  作者: 海内裏


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第九話:原石の衝突、未知の刃

地道な秘密の朝練の連続によって、長刀(リーチ型)の至近距離での基本動作を掴みかけてきた九十歩と手永紺。

「……よし、試してみよう」放課後の全体練習、仮想オクタゴンの上で、二年生コンビは静かに木刀を構えた。

「高知、萌香。俺たちと手合わせをしてくれ」

突然の先輩たちの指名に、1年生の奥羽高知と小平萌香は一瞬、戸惑いの表情を見せた。先日の練習試合、高知は三人抜きを果たし、萌香はプロの理合を吸収しつつある。対照的に、二年生コンビは懐へ潜り込まれて瞬殺されたばかりだったからだ。だが2人は頷き、すぐに型落ちのサイバー防具を纏い、仮想オクタゴンへと上がった。

【第1試合:九十歩 vs 奥羽高知】

【第2試合:手永紺 vs 小平萌香】

「始め!」ブザー音と同時に、高知が爆発的な前傾姿勢で間合いを詰めてくる。高山高の宇津志に負けたあの日の光景が手永の脳裏をよぎるが、九十歩は違った。ガツン!!高知が潜り込もうとした刹那、九十歩は逃げずに半身を開き、長刀の柄の最下端を顎へと突き上げた。巴から教わった『石突きで打つ』技術だ。「なっ……!?」虚を突かれた高知の身体がのけ反る。すかさず九十歩は、至近距離からテコの原理で円軌道を描き、首元を鋭く「擦り斬った」。シャキィィィン!!「そこまで! 有効打突!」チェリーレッドのLEDが1年生の防具を染め、10点減点方式のシステムに二年生の先制ポイントが刻まれる。「おいおい……マジかよ!」「九十歩のやつ、長刀をあの距離でコントロールしてやがる!」ステージの下で見ていた五代部長や副部長の今井、あるいはコーチの桐生陣までもが驚きに目を見開いた。

手永もまた、萌香の鋭い二刀流の猛攻を柳のようにいなし、最短距離の『突き』を正確にセンサーへ突き刺してポイントを奪ってみせた。それなりに形になった上級生の意地に、体育館の空気は一気に熱を帯びる。しかし、野生の怪物の壁は、やはり高かった。「……やっぱり、凄いな」数ポイントをもぎ取って健闘したものの、高知の闇の足払いからの電撃的な追い打ち、あるいは萌香の野生の模倣による二刀流の連撃の前に、最後は九十歩も手永も完璧な軌道でセンサーを射抜かれ、あっさりと一本負け(即死判定)を喫した。

床にくずおれ、激しく息を切らす二年生コンビ。だが、その顔に悲壮感はなかった。

「凄い大健闘じゃないか! あの一年生たちからポイントを毟り取るなんて、お前たち確実に変わってきてるぞ!」

ステージの下から、五代と今井の三年生2人が、自分のことのように満面の笑みで拍手を送ってくれた。その温かい労いに、手永は胸の奥が熱くなるのを感じていた。

翌朝、午前5時。朝霧の立ち込める体育館で、九十歩は巴にその結果を報告した。「ともえ、昨日、高知たちと手合わせしたんだ。ポイントは取れたけど……最後は一本負けした」悔しそうに微笑む九十歩の言葉を、巴は黒髪のポニーテールを揺らしながら静かに聞いていた。

「そっか。基本動作はもう合格点ってことだね。……だったらアユト、手永。あんたたちに、その高い壁をぶち破るための『必殺技』を伝授してあげるよ」

巴の言葉に、2人が顔を上げる。

「アユトには『振り返し(ふりかえし)』。手永には『袖返し(そでがえし)』を教える」

巴は予備の長刀を滑らかに構えると、すっと床を踏み込んだ。実はこの数日間、2人が泥臭く基本動作の反復練習を繰り返す尻目で、巴もまた、一人で長刀を振り続けていたのだ。BUSHIDO未経験でありながら、彼女は自身の圧倒的な剣術センスだけで長刀の重量と構造を完全につかみ、2人の個性を活かすためのオリジナル技を、朝練の傍らですでに身につけていた。

「アユトの『振り返し』はね、中段の構えから、刃を上下・左右に反転させながらあらゆる方向へ打ち込む長刀の技術。手の内の握りの緩急と滑らかな体さばきを極めれば、正面だけじゃなく、側面打ちや脛打ちへ連続して変化させられる。相手の防御の隙を完全に突く、有効な実戦連続技コンボになるよ」

巴は一度長刀を引くと、今度は手永を真っ直ぐに見据えた。

「手永の『袖返し』は古流の形に伝わる高度な防御制圧技。相手の面や小手の攻撃を受け流した直後、長刀の長い柄や石突きを巧みに使って、相手の腕や袖口をガチッと引っかけて引き込み、制圧するの。力任せに打つんじゃなくて、相手のインファイトの突進力を利用して手首や肘をコントロールすれば、至近距離で瞬時に相手の体勢を崩せる」

接近戦への恐怖を、相手の力を利用した流麗な操作カウンターへと変換する。その理合を聞いた瞬間、手永の全身に鳥肌が立った。これなら、懐に潜り込まれても恐怖の真ん中で相手の体勢を崩しきれる。

「長刀の長さを遠心力と理合に変えて、AI判定のスピード制限の限界(SS)をさらに突破する。……いくよ」

巴が長刀を一閃した瞬間、体育館の空気が爆音を立てて裂けた。刃が上下左右に変幻自在に振り返り、柄の端が流麗に空間を引っかける。その凄まじい軌道の美しさと迫力に、九十歩と手永は息を呑み、固唾をのんで自分たちだけの新しい刃を見つめるのだった。

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