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OCTAGON  作者: 海内裏


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第五話:野生の限界

「始め!」の合図はない。高知が自然体オープンスタンスで立った瞬間が、開始の合図だった。初めて見たあの日の男のように。高知の身体が、爆発的な前傾姿勢で2人の懐へと滑り込む。

「速——」五代が刀を振り下ろそうとした瞬間、高知はあえて足払いは出さず、剣道仕込みの超高速の突きを五代の胸元へ突き刺した。センサーが激しく明滅する。すかさず横から回り込もうとした今井に対し、高知は男のステップを完全に再現したスウェーバック(上体そらし)で刃をかわし、そのままカウンターの横面を正確な刃筋で叩き込んだ。

シャキィィィン!!

重い電子音2回、連続して響き渡る。わずか数秒で、高知は3年生の2人をまとめてなぎ倒してみせた。

エースの羽美は満足そうに口元を緩めた。

「実力があるなら、私は文句なんてないよ」

誰も高知の言葉を笑う者は現れず、二年生が弾かれ、高知が新たな先鋒となった。

そして週末、一行は練習試合の相手である、浜南大学付属高校へと向かった。

浜南大学付属高校の道場は、まるでプロの「サムライ・コロシアム」の縮小版だった。最新鋭のインジケーターが埋め込まれた八角形のステージ。

そこで整然と、かつ超高速でカーボン木刀を振るう部員たちの洗練された雰囲気に、星ヶ丘高校の上級生たちは完全にのまれ、息を呑んでいた。

最大門派『神威館』の直系アカデミー。その圧倒的な空気は、万年予選落ちの先輩たちを気圧すには十分すぎた。だが、先鋒としてステージを見つめる奥羽高知だけは、完全に冷静だった。

(あの薄暗いブースの、あの男のプレッシャーに比べたら……こんなの、なんてことはない)

高知の脳裏には、疲れも見せず夜の雑踏へ消えていった漆黒の防具の男の姿があった。

「BUSHIDO FIGHT練習試合、始め!」

ブザー音と同時に、高知はオクタゴンへと足を踏み込み切った。試合が始まると、道場内は静まり返った。高知の動きは、危なげなく、かつ圧倒的だった。相手が弱いわけではない。むしろ教科書通りの美しい刃筋を放っていた。しかし高知の動きは、システムをハッキングするかのような無駄のない、泥臭くも鋭い「野生のそれ」だった。

フェイントを最小限の首振り(スウェー)でかわし、10点減点方式の隙を突く超高速の突き。一本、また一本。高知は瞬く間に二人抜きを果たしてみせた。

「次、僕がいきます」大学付属の三人目として上がってきたのは、高知と同じ一年生の部員だった。その両手には、大刀と短刀。完全解禁された特殊スタイル、二刀流だ。高知にとって、これが初めて実戦で対峙する二刀流だった。

高知が踏み込もうとした瞬間、相手の左の短刀が壁のように間合いを阻み、右の大刀が最短距離で襲いかかる。手数が違いすぎる。こちらの刀が、どうしても相手の防御を突破して届かない。ジリジリと時間が過ぎ、スタッツが削られていく。

(クソ、どうする……!)

焦りの中、高知は腹をくくった。あえて自ら間合いを潰し、相手の懐へと飛び込む。案の定、相手の短刀が防御のために高知の木刀をガチリと止めた。両者の武器が完全に膠着クリンチした、その刹那——。

(今だ!)高知はここまであえて出さずに隠してきた、自主練で毎日磨き続けたローキック気味の「足払い」を、相手の軸脚へと鋭く叩き込んだ。...パシィィィン!!

「うわっ!?」完璧にバランスを崩し、背中から床へ転がる二刀流の一年生。

「勝者、星ヶ丘高校・奥羽高知!」

勝つことはできた。しかし、高知は激しく唇を噛んでいた。

(手札を切らされた……。この足払いは、大将まで取っておきたかったのに……!)

次は相手の二年生エース、金佐三鹿カネサ ミカ。ステージへ上がってきた彼女は、ショートカットの髪が引き締まった輪郭を際立たせる。凛とした佇まい。所作の一つひとつに、一切の無駄がない。合図とともに構えを取った瞬間、彼女の空気は一変した。

しなやかな肢体から繰り出されるステップは重力を感じさせないほどに、軽やかで滑らかな舞のようだが、その刃筋は極めて鋭く高知のサイバー防具の有効判定エリアを寸分の狂いもなく正確に射抜き続ける。

力任せのパワーではなく、しなやかな筋肉のバネが生み出す超高速の連撃。すでに最大の武器である足払いを知られ、かつ三試合連続の激闘でスタミナの切れた高知の動きを、彼女は冷徹に見切っていた。

高知の泥臭い迎撃を柳のように柔らかく受け流し、鋭い踏み込みで容赦なく畳み掛ける。高知は一度も有効な打突を返せないまま、あっさりと一本を取られていた。

「高知、すごかったよ!」と温かく迎える新入生たちに、なんとも言えない苛立ちを感じる高知。自分の練習メニューの甘さを激しく悔いた。

その輪を背中に、萌香がステージに向かった。

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