表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OCTAGON  作者: 海内裏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/42

第三十二話:たすきの始まり

「冨里川高校に勝利……星ヶ丘高校、準決勝進出です」

 アリーナにアナウンスが響き渡り、電光掲示板に星ヶ丘の勝利が刻まれた瞬間、ベンチは狂喜乱舞の渦に包まれた。今井はフェンスにすがりついて男泣きし、帆南はタブレットを落としそうになりながら飛び跳ねている。前年王者を大将戦の末に破るという文字通りの大金星に、星ヶ丘のボルテージは最高潮に達していた。

 時計の針は十二時を回っている。過酷な予選三日目、午前中の全スケジュールが終了し、次の個人戦三回戦が始まる十三時までの一時間足らずのお昼休憩が始まった。

「みんな、本当によくやった! 萌香も九十歩も、今井にあいりも、全員で繋いだ勝利だ!」

 キャプテンの五代朝香イツヨ アスカが興奮を抑えきれない様子で、疲れ果てた部員たちに次々とスポーツドリンクを手渡していく。その顔には、チーム全員で強敵を撃破したことへの、言葉にできないほどの充実感が満ち溢れていた。

 部員たちがベンチへ腰を下ろし、おにぎりを頬張りながら次の試合への作戦を練り始める中、五代はふと、隣で涙を拭っている相棒の今井に目を向けた。

(みんなで繋いだ勝利、か。……俺たちが、あの日に繋ぎ始めたたすきが、今ここに届いてるんだな)

 アリーナの強烈なスポットライトを見上げながら、五代の意識は、星ヶ丘高校サムライ部がまだ「サムライ同好会」にすらなっていなかった、数年前の古い記憶へと引き戻されていった。

――五代朝香がテニスを始めたのは、三つ上の姉・夕輝の影響だった。小学三年生の頃、楽しそうに白球を追う姉の背中を追いかけてラケットを握った。朝香はテニスにすべてを懸けた。だからこそ、姉が中学に入ってあっさりとテニスをやめてしまっても、朝香の情熱が消えることはなかった。

「姉ちゃんがやめても、俺は上に行く」

 一人になっても泥臭くコートを走り、白球を追いかけ続けた。しかし、そんな朝香の圧倒的な走力に目をつけた陸上部顧問から、中学で駅伝に誘われる。

「お前の足は、みんなのために使える」

 その言葉をきっかけに飛び込んだ駅伝の世界で、朝香は一本のたすきを繋ぐチームワークの素晴らしさに強烈にのめり込んでいく。

 だが、中学最後の大会の直前、過酷な練習が祟り「ランナー膝」を発症してしまう。走ることは絶望的だった。それでも朝香は腐らず、大会当日は沿道から喉がちぎれるほどの声を張り上げ、応援に徹した。仲間が必死にたすきを繋ぐ姿に、涙が止まらなかった。

 大会が終わり、呆然と佇んでいた学校終わりの夕暮れ時。体育館の横を通りかかった朝香の耳に、地を揺らすような鋭い声が響いた。

「めぇぇぇん!」

 気迫に満ちた剣道部の声だった。一瞬の油断も許されない、張り詰めた空気。怪我で走れず、心にどこか不完全燃焼な熱を燻ぶらせていた朝香の胸に、その凛とした武道の響きが深く突き刺さった。

 その後、朝香はそれまで全くしてこなかった受験勉強に猛烈に力を注ぐ。駅伝で培ったあの粘り強さで机に向かい続け、見事に星ヶ丘高校への合格を勝ち取った。

 高校に入学した朝香の心には、駅伝で知った「仲間との繋がり」と、あの日耳にした「剣道部の気迫」、受験勉強の合間に見たサムライ格闘武道「BUSHIDO FIGHT」の試合映像が融合した、ある熱い思いが芽生えていた。

「日本の武士のような、強い絆と精神を学ぶ場所を作りたい」

 朝香はクラスで隣の席になった今井に、放課後の教室で熱っぽく夢を語った。

「今井、一緒に『サムライ同好会』を作ろう!」

 突然の突拍子もない誘いに、今井は一瞬目を丸くした。しかし、まっすぐな目で理想を語る朝香の圧倒的な熱量に押され、今井は断る間もなく、誘われるままに「……あぁ、面白そうだな」と同好会への参加を決めてしまう。こうして二人は、学校へ「サムライ同好会」の設立願を提出した。

 たすきを繋ぎ、武士の気迫に触れた少年は、巻き込まれた友人を相棒に、新たな道を歩み始めたのだった。

「――ゴダイ先輩、何ニヤニヤしてんの? おにぎり食べないと、午後の試合でスタミナ切れちゃうよ」

 萌香の無遠慮な声にハッと我に返ると、目の前には、おにぎりを頬張りながら不思議そうに自分を覗き込む部員たちの顔があった。

「あ、いや、何でもないよ!」

 五代は照れ隠しに頭を掻きながら、手元のおにぎりを大きく一口齧かじった。隣では、今井がすでに涙を引っ込め、午後の個人戦三回戦に向けた他校のスタッツをタブレットで真剣にチェックしている。

 かつて二人だけで立ち上げた小さな同好会は、地獄の特訓を共に乗り越えた頼もしい後輩たちを迎え、今や前年王者を倒すほどの「サムライ部」へと進化を遂げた。

「よし、みんな! 休憩が終わったら、午後の個人戦三回戦だ。俺たちが磨いてきた泥臭い牙を、今度こそオクタゴンの中心で完全に見せつけてやろうぜ!」

「「「おーっ!!」」」

部員たちの力強い咆哮が、お昼休憩のベンチに響き渡る。五代朝香が繋ぎ始めた一本のたすきは、より強固な絆となり、午後の過酷な戦場へと向かってさらに加速していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ